民泊スタートアップはどうコロナ禍のマーケットクラッシュを凌いだのか?(前半戦)
■はじめに
当社(matsuri technologies)はテクノロジーを使った無人空間運用技術にて民泊業界を牽引する創業5年目の会社になります。
我々が取り組んでいる民泊という市場は、7割強がインバウンドからの集客であり、宿泊業態の中で最も外国人集客に依存した業態です。
そしてインバウンドはコロナ発生後99%減、2020年3月からキャンセルが相次ぎ、1月で6,000万円程度の売上が消失しました。
大規模な増資、オリンピックでの特需、上場計画が全てストップし、かつ予約が全く入らない市況と膨大な販管費、賃料だけが残りました。
(3月)
連日連夜会議を持ち、最悪のケースで、会社の1/3までの縮小案を持ちながら逆転の一手を探す日々が始まりました。
今回のnoteはその際、何を考え、どう実行したかを記録しています。
喉元過ぎれば熱さも忘れるとはよく言ったもので、危機の匂いを覚えておくための個人的な自戒を込め、記録します。
※このnoteはアソビュー山野社長のコロナ関連投稿に触発されて記されています。(秀逸な流れでしたので参考にさせていただきました)
また終わりにもおしらせしますが、当社は事業拡大につき絶賛採用中になります。
8/24には、コロナ禍でもアフターコロナに向けて仕込みをする旅行系スターアップ4社で採用イベント&パネルディスカッションをします。
ご興味がある方は是非お気軽にご参加ください。
■何が起きたか
1.コロナで入国禁止 インバウンド99%減
図表の通りです。こんなナイアガラの滝のような現象も稀ですが、入国が禁止され、物理的に国境が封鎖されました。インバウンド依存率が一番高い宿泊業種である民泊はほとんどの売り上げがなくなりました。
(nippon.comより引用)
2.資金調達の頓挫
当社は多くの資金を株式で調達し、それを原資に大きく成長する(5年で300倍の売上高成長)スタートアップと呼ばれる種類の企業になります。
2020年4月には2桁億円単位の大規模調達を準備しており、そのデューデリジェンスの佳境に新型コロナ騒動が発生しました。山野社長のnoteでも触れられていますが、「コロナ銘柄には投資できない」と全ての投資家が手を引いていったのが印象的でした。
3.販管費のみならず賃料の圧力
当社はテクノロジーを用いた無人空間運用技術を開発しており、下記のような物件を宿泊用途として貸し出したり、住宅用途(長期)として貸し出したりをソフトウェアで制御しております。 ( https://www.sumyca.com/ )
日本においては、住居をオンライン完結で貸し出す際、(対面での重要事項説明/書面配布の義務)自ら貸主での取引が求められます。その要件を満たすために当社で一旦不動産を借り上げ、ユーザーに貸し出す形をとっております。
そのため、コロナで旅行の予約がすべてキャンセルされていく中、貸し先がない不動産の賃料が重くのしかかることとなり、このままなら4ヶ月以内で倒産という壮絶な状況からのスタートとなりました。
■何を考えたのか?
「コロナ初期はSARSくらいかな?(半年程度で回復)」とか「これだけDD(投資検討の調査)が進んでいるのだから、バリュエーション交渉くらいでなんとかなるのでは?」など甘いことを考えていましたが、当社には死ぬほど厳しい現状認識を突きつけてくれる株主(しかも超正しい)が多数おり、早期に覚悟を決めることができました。
倒産まで100日と理解した上で考えたのは、この領域と心中する覚悟があるか?どうかということでした。
1.規模縮小でピボットか?/この領域で立て直すか?
我々には多少の現金と2つのプランがのこされていました。
Aであれば、大きな痛みを伴いますが、コロナとは関係がない商流において新しいビジネスを作れます。
Bはいつ回復するかわからないコロナと付き合い続け、なおかつ物件活用の新規事業で当てなければ長くても半年の命です。
Bを選びたい反面、Bを選ぶためにはコロナでも負けない新規事業が必要でした。そしてBを選ぶのであればコロナ収束のシナリオと共に生きなければなりません。Bを選ぶ仮定で思考は2つ目の問いに移りました。
2.この領域で立て直すなら、いつこの地獄はおわるのか?
楽観的な思考を捨ててからのこの問い、肝に命じたのはコロナの回復は最低1年はないし、回復しないかもしれない(会社があるうちには)」ということでした。
いつ終わるかに、終わらないという選択肢を追加することで必然的にコロナが一生続いたとしても成長できる事業、まさに「対コロナ」的事業が必要という結論を得ました。
■何をしたのか
この領域での事業継続、雇用の継続をするために、そしてその判断を下せる状況を作るためには、残された100日の1/3の期間で結果を出す必要がありました。結果が出せなければ経営としては一番厳しい決断をせざる得ないと覚悟をし、取り掛かりました。
1.販管費、投資を削り、生存期間を伸ばす
まずはコストカットです。
役員報酬の減額はもちろん、業務委託やアルバイトの方などの雇用調整/委託終了などやれることは全てやりました。正社員の多くの方にも雇用調整(国の制度である一定額は休業に対して補助金が出る制度)で休んでいただく期間を作り、販管の抑制をしつつ、生存にのみ集中し、費用を全て見直しました。
また上場までの成長を見越して、3倍成長しても大丈夫といって借りたオフィスも解約し、生命維持ギリギリのラインまで削れる費用は全て削りつくし、販管での赤字幅を40-50%削減しました。
2.緊急融資、補助金、雇用調整等可能な限り現金を集める
次に、国が用意した緊急融資や補助金全てへの応募をしました。昨年対比売上50%以下という要件も易々超え、保証協会付き融資、商工中金のコロナ特別融資を申請し、3億弱の融資を確保しました。
3.この領域で立て直すための対コロナの事業群を作り上げる
1,2で生存期間はだいぶ伸びたものの、本業での賃料マイナスが拡大すれば事業継続不可避です。
コロナの長期化に対応できる「対コロナ」的事業が必要という結論から“分散リモートオフィス”や、“コロナ向け特殊清掃”といった分かりやすそうな事業プランを検討しつつ、閃きはお客さんの方からやってきました。
もともと我々の注力する民泊領域は2018年にできた住宅宿泊事業という法律に沿って作られており、年間の約半分を短期賃貸として長期で貸し出す必要がありました。
オンライン完結での貸し出しなので、コロナ前は外国人の利用がほとんどでしたが、コロナに突入してからは、日本人の研修需要や、出張需要に切り替え集客を進めていました。
もちろんコロナで日本人の移動も激減していたので、思うように集客ができるわけもなく、問い合わせ最大を目指し、一時期はジモティや、Craigslistまで掲載を広げ国内、海外で掲載できるもの全てに網を貼っていました。
一時帰国.comの誕生
その中の一つの問い合わせに閃きがありました
(朝日新聞デジタル)
深掘りしていくと、日本人が国内に入国する際2週間の自宅待機もしくは自宅に準ずる場所での待機が必要になるという水際対策が始まり、コロナに恐怖心があるホテルは全て受け入れ拒否(空港で配られているリスト全てに電話をしたが、満室という回答で宿泊をことわられた)をしているという事実が浮かび上がってきました。
また隔離先までの公共交通機関の利用ができない水際対策も日本帰国者を困惑させており、
が必要とされていることがわかりました。
そこで問い合わせを受けた翌日にハイヤー会社との提携、帰国者の2週間隔離を受け入れる「一時帰国.com」を開始し、初日で130件を超える問い合わせを獲得しました。
受け入れ表明をしているのが当社のみでしたので、急速に予約が積み重なり、この領域をきちんと固める複数の施策を実施していきました。
(有料アメニティ施策)
(情報共有施策)
(情報拡散施策)
(戦略的な提携)
おかげで、当社に追随する多くのホテル/民泊プレイヤーが出現し、帰国の際の隔離で帰国者が空港に閉じ込められることはなくなりました。
もちろん我々はそのなかで
となり、当該事業は現在も成長し続けています。
(物件の掲載にご興味がある方はこちら https://www.supply.sumyca.com/ )
この隔離事業の成功を皮切りに、半年で6つの事業を作り、そのいくつかを当てることで対コロナ事業群を構築することができました。
(残りはアフターコロナに関わる部分が多いので後編で)
財務的な健全性も確保しつつ、この対コロナ事業群のおかげで、全国的なホテルの稼働率が20%のところ、その3.5xの数字を継続し、コロナ禍でも成長が継続できる事業群となりました。
となると、次に考えることは一つだけです。
「どうアフターコロナで遅れを取り返し、いかれた成長をすることができるか?」
後編は、コロナに対応するだけでなく、いかに攻めていく体制を作れるか、試行錯誤をしている話を記録しようと思います。
■おわりに-採用強化のお知らせ
アフターコロナに向け大幅に採用強化をしております。
やりがいがある職場だと思います。奮ってご応募くださいませ。