長野県のまちむら寄り添いファシリテーター講座に参加 目的なく話を聞いたら気づいたこと
「まちむらよりそいファシリテーター講座」は長野県主催の市民が参加できる講座です。県内外から、自治体の人、地域活動の人、わたしみたいな一般人まで、参加しています。
この、高速で動く現代に、話を聞きに行くというアプローチ。すごく面白いと思っています。
ただただ、相手から出てくる話を聞き、書き留める「聞き書き」で、住民の話から地域を深く理解していこうという、試みです。
今回、私が参加してるのは、北陸新幹線佐久平駅から、車で35分ほど。佐久穂町です。
埼玉から移住した地域おこし協力隊(現・佐久穂町地域プロジェクトマネージャー)の副島さんが始めた事業。町に積み重なる歴史・文化・暮らしを、住民から丁寧に聞き取り、まとめた冊子はA3版の大きなもの。
見開きのイラストで、ひと目で、佐久穂のまち、その特徴が、やさしい雰囲気と共に伝わってきます。地区の名称と特徴が文章でもまとまっています。
住民の方から話を聞いた話は、どれも貴重。この人から、今しか聞けない話。貴重な資料です。
今日は、初めて佐久穂町に行き、副島さんの活動グループの方と共に、80〜90代の皆様から話を聞く機会を得ました。
さて、私は何を得られたのでしょうか?
聞き書きの現場
普段、意図を持って話をしたり、とにかく時間がない中で、コニュニケーションしている私にとっては、「聞き書き」はハードル高く感じます。
意図を持たずに、話をし、話し手が話したいことを、聞いて、書き取っていく。
8月に長野県立図書館で開催されたセミナーで、「聞き書き」は、東京大学の新先生のお話で、確か、民俗学の手法として紹介されていたと思います。
今日は、それをどんな雰囲気で、どんなテンポ感でやっているのか?これを実際に見たい!そんな意図で参加しました。
集まってきた5名のお年寄りたち
佐久穂には、地域活動をしているかたがたくさんいるそうです。
当初は、役場から地区を代表する区長さんを通して、協力者を募ったのだそうですが、区長さんにも任期があるため、進みづらいシーンもあったのだとか。
そのうちに地域活動をしている人たちの中から、協力してくれる人が現れ、今回も5名のお年寄りにお会いできました。
地域の人を繋いでくれる協力者の方は、本当に熱い人で、当日もある参加者がこれないと聞くと、「ええ、〇〇さんに声かけたのにな。電話してくださいよ。」なんて言って、にこやかに朗らかに人を集めてしまうパワフルさを感じました。
聞き手は、副島さんのグループの2人、副島さん、地域との繋ぎ役の方、見学者の私です。
公民館には、10時開始よりも前に、皆様が集まりました。早いですよね。
ちょっと不謹慎な話、この地域のお葬式ともなれば、開始時刻の30分前には全員集まり、開始予定時刻には式は終わってしまうのだとか。米づくりに花づくり。地域で仕事を共にしてきて、「人に迷惑かけたくない」という気持ち。この地域の人たちの特性かもしれません。
最初は、私の顔を見て、「何するだい」と言うような怪訝な表情のおじいちゃん。「しばらく見なかったけど、元気だった〜?」と楽しみに来てくれたおばあちゃん。同じ地区に住む人いろんな参加者にお会いします。
開始5分の不安
私も長野県東御市出身。なんとなく、集落の雰囲気は知っているのですが。
川崎から久しぶりに集落に入ってみて、テンポ感が自分が馴染めるか、不安がありました。普段は、慌ただしく過ごしていますから。それとは全く違う。ゆったりした、お年寄りたちの時間の流れ。どう感じるか不安だったのです。
でも、その不安は5分で飛びます。
地縁で人との距離をはかる
人と会う時って、自分にとって、どういう関係性かをはかるところから、コミュニケーションて始まりますよね。共通点とか、興味、会ってるメリットとか、繋がり。そういうものが繋がるには必要です。
今回の集まりも自己紹介から。副島さんグループの方のリードで始まります。
まず感じたのは、地域の中に入るのに大事な要素が「地縁」だということ。特にお年寄りたちは、重要視しているようでした。地縁、どこ出身か、誰と血縁があるか。そういう文脈で、お年寄りは自分と相手の位置関係を探ります。
ですので、私も川崎から来ましたが、旧姓は柳沢で東御市出身です。と、なるべく近く感じてもらえるような関係性からお伝えしてみました。
お年寄りから見れば、どこの地区出身で、誰それの孫だとか。あ、その人と自分は繋がりがあるとか。そういうところで、相手を知っていくようです。
お話を聞いて、自分なりの発見をし、不安なくなる
まずはそれぞれから順番にお話を聞いていきました。
人ごとにキャラクターがあるので、ぽつぽつと話す人もいるし、話したくてしょうがない人もいるし。そのいろんなお話を聞くにつれて、発見が出始めます。
そうしたら、馴染めるかという不安は、なくなって。この時間どんな話が引き出せるかに、興味が移っていきました。
私の興味、「佐久平駅」って不思議な名前だと思っていたんです。「佐久駅」で十分なのに、ついてる平。「たいら」って何?
「私はたいらから嫁にきたの」っておばあちゃんの話を聞いて、「だからなのか!」とひとつ、腑に落ちました。
佐久穂の人たちの山に対しての、「たいら」。これが佐久の通称なのですね。
一言一言、1単語1単語がすごくおもしろい。
そこからたくさんの話を聞いていきました。
おれの話は書かないで、がおもしろい
最初は1人づつ話してたのに、途中からなんとなくグループに分かれていきます。
そうなると、録音機ごと移動して、お話を聞くようになりました。
佐久病院で働いていたおじいさんの話。
地域の話から外れて、病院の話をたくさん聞けました。
私も、かつて医療機器メーカーにおりましたから。佐久病院といえば、「農民とともに」が基本理念で、確か、予防医学に力を入れてきた、特徴的な取り組みの病院だと認識していました。実際どういう取り組みをして、住民の生活がどう変わったのか。働いてきた方からのお話は、地域を理解する上での大きな収穫でした。
昭和20年代に、東大から若月先生が赴任され、その頃から発展していった佐久病院。外科医の先生が手術室を作ったのが、最初の改革なんだとか。
「病気になって、病院に行ってたのが、あっちから来るようになった。」
これは佐久病院の大きなキーワードだと思います。
検査センターができ、巡回検診車ができて、巡回検診の歌まであるのが佐久病院。
雪の中でも、医師・看護師・検査技師を載せたバスが地域を回って、健診して、農民の健康を守る活動をしてたのだとか。
始まった当初のことを想像すると、すごさを感じます。
きっと、医療的な課題を解決するために、新しい健診サービスができて、病院が地域にやってくる。そして住民が健康になる。
その裏って、とんでもない発想の転換があったと思います。
健診の歌もあれば、劇団もあるのが佐久病院。初めて知りました。
若月先生の脚本で、病院職員が劇をする「劇団部」があったそうです。テーマは反戦や人間愛的なもの。10幕まである大型の作品もあるのだとか。
劇団部は、当時は、劇場があって、そこでも公演したし、村に劇団が来ると、村全員が集まってしまうほどの人気だったそうです。
(演目には医学的なテーマのものもあったようで、そうやって医学的な知識を農村に広めていった、そういう側面もあるとあとで聞きました。)
若月先生が、すごく革新的で、こういう天才的な人が佐久にいた。
そして、外から来た人が、地域を良くしてくれたっていうことも、佐久地域がオープンで、いろんな人が入りやすい雰囲気の源泉になってるようなきもしました。
若月先生は『宮沢賢治のように、「演説するな。酒を飲め。一緒に話す。演説しないで、演劇をやれ。中に入って、飾らない言葉で共に語れ』のように、話していたのだそう。(このエピソード、出典がもしわかったら、誰か教えてください。)
でも、もし、なのか違ってたとしても、偉ぶって、上から目線で、何かをしようというのではなく、一緒に、この地やここの人達をよくしよう、役に立とうという気持ちは、伝わってきます。
地域を知るには、地区・居住地という切り口もあるし、仕事の切り口もとても理解になると思いました。
佐久と酒は、やっぱり切り離せない
佐久病院は”酒病院”、と呼ばれてしまうほど、当時、仕事の後にみんなで飲んでいた、らしいです。
佐久には水系が3つあって、それぞれの水系ごとに異なる味わいのお酒ができるそう。また、かつては家ごとに酒米を作って醸造を頼んでいたのだとか。漬物のように、我が家のお酒がある文化、だったのですね。
そして今でも、一旦一緒にお酒を飲んでしまえば「友達」という感覚があるのだそうです。
佐久はやっぱり酒のまち、ですね。
いずれ住む地域を決めるということ
聞き書きとは離れるのだけど、定住するということは、そこのご近所さんと共に暮らすということ。今回のお年寄りたちの話を聞いていて、私も将来、定住する場所には、人間関係があってほしいなあと、感じました。
プロジェクトと主宰者のキャラクター
このプロジェクトの進め方は、副島さんのキャラクターだって、大いに影響していると思うのです。
埼玉から、佐久穂町に住んだ価値観。ただ「住む」「生活」が成り立つ味気ない場所ではなくて、地に足がつき、自然とも近い生活がしたいという想い。
メディアの仕事をしてから、佐久穂が大好きで協力隊になった経緯。だからこそ、ローカルの最先端の話からお年寄りの話まで、会話が成立する幅の広さ。好奇心、取材力と編集力。
男性であるということ。こういうことは現代ではなかなか言いづらいけども、やはり、副島さんだからこそ、協力者もコミュニケーション上手な女性が多い気がするのですよね。
(その点、私などが地域にいると、ある意味、男性の方におもしろがっていただける感覚があります。これは、私の切り取り方で、感覚ですけど。)
見返すと、聞き書きの生の話は、やっぱりかわいくて、おもしろい
聞き書きを見て、メモをとり、まとめようと思った時、聞いた言葉の1つ1つが本当におもしろい。そして、文字ではその場のいい雰囲気が伝わらないのが残念。
本当におばあちゃんもめっちゃかわいいし、おじいさんも照れながら色々教えてくれたのが、ありがたく。聞き書きはいいなって思います。
あとは、自分の時間が十分に取れればいいのですが。
【質問】どれもすごい話なんだけど、これ、どうやってまとめているの?
本当に聞いた話を情報としてまとめてしまうのは、惜しいくらい。人柄、キャラクター含めて、お話をおもしろく聴きました。
これ、どうやってまとめてますか?
新先生はどう考えるのでしょう?
聞いてみたいです。