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数字で見る熱海市の観光業

2月13日に熱海の行ったとき、中心市街地で建て替え含めてホテルの建設が相次いでいるのを見て、熱海に今、それだけの需要や今後のポテンシャルが認められている?そんなに開発して大丈夫??という疑問が湧きました。
ChatGPT先生に聞いても数字は導けなかったので、統計資料を見て調べました。
結論だけ見たい方は最後の「まとめ」をご覧ください。


はじめに

熱海はこんな町

令和5年時点での人口は34,042人、うち65歳以上が16,376人で高齢化率48.1%の街です。3.4万人の人口に対して年間500万人以上の観光客が来る街です。
その他町の特徴はWikipedia先生に聞いてください。

2025年2月の熱海で見たこと

Facebookにて投稿しましたが海岸線にあるホテル跡地を開発して新しく大型のホテルが複数建造中でした。また、市街地の中にあるホテル跡地も新しいホテルが建造中でした。同時にこれだけ大規模な開発が行われていることに不思議だなと感じたものです。
毎月熱海に来ていて、熱海の街中には飲食店が増えたと感じますし、コロナの時よりは観光客数も増えていると思いますが、本当に観光客は増えているのか、観光客は増えていたとしても宿泊客数は増えているのか、などが気になりました。
Facebook投稿のリンクを貼りますが、アカウントを持ってない人は見れないかも。

月に1度は熱海に来ているのですが、木曜に来た時にはどこを歩いても工事の音が聞こえました。 サンビーチ前に複数あった大型ホテル跡地に新しいホテルが建てられたり、既存のホテルが建て替えられたりしています。海岸線だけでなく街中の土地でも工事が進ん...

Posted by 松岡 桂祐 on Sunday, February 16, 2025

統計資料を見てみる

基本的には熱海市が出している統計資料を見ています。
(PDFだけでなくデータだけCSVでも公開してほしい…)

観光客数

熱海市統計書から令和4年までの観光客数を引用し、令和5年は1~3月までの観光客数と過去2年分の推移を参考に試算しました。
令和2年はコロナ禍の影響で大きく減っていますが、令和4年に大きく増えています。これは緊急事態宣言の解除が令和3年(2021年9月)からだったので、そこから増えているのかもしれません。また新型コロナウイルスの5類以降が令和5年5月からなので、それの影響で令和5年は大きく増えそうです。
ちなみに熱海市統計書での観光交流客数の定義は宿泊者数、宿泊施設での休憩者数、観光レクリエーション客数、の合計のようです。
(「観光レクリエーション客数」の定義は謎です)

熱海市統計書より(令和5年は松岡試算)

熱海駅の乗降客数と熱海市内の主要な駐車場の利用台数の推移をまとめてみました。もちろんそれらの交通機関は観光客だけでなく地元住民の方も使いますので、観光客数を把握するというより傾向の把握を目的に見ています。
令和4年までのデータしかありませんが、令和元年の水準まであと少しな回復具合なのは観光交流客数の傾向と同じですね。

熱海市統計書より

外国人観光客数はどうなんだと思いましたが、宿泊数のデータしか見つからなかったので、これについては後述します

宿泊客数

宿泊客数も令和4年(2022年)から一気に増えたものの、令和5年(2023年)時点で伸びが鈍化したようです。令和4年までは統計資料、令和5年の数値はネットの記事をもとにしているので、数字の取り方にずれがあるかもしれませんが、熱海市としても令和5年の宿泊客数はコロナ前の水準までは戻らなかったと発表しているので、概ね間違いないかなと思います。

熱海市によると、宿泊客数が伸びなかったのは宿泊施設の人手不足により、宿泊需要を取りこぼしてしまったからだそうです。

熱海市統計書より(令和5年は以下の記事参照)
https://www.asahi.com/articles/ASS337RQWS2VULOB00H.html

令和2年の観光交流客数と宿泊客数を1とした指数で見てみると、宿泊客数は令和4年までは観光交流客数よりも好調に回復していましたが、令和5年では鈍化したことが分かります。

熱海市統計書より

ちなみに統計資料だと令和5年(2023年)の3月までの月別宿泊客数が公開されていて、グラフにすると下記の通りです。
令和5年の宿泊客数は年全体では大きく増えませんでしたが、3月までは令和4年(2022年)を大きく上回るペースで推移していました。

熱海市統計書より

令和5年は3月まで宿泊客数が大きく伸びていて、令和3年と4年の1-3月と4-12月の数字の変化率の平均を掛け合わせて、3月までの勢いが続いた場合の令和5年の宿泊客数を試算してみました。
試算:3,621,403
実績:2,832,911
差分:   788,492

熱海市統計書をもとに松岡が試算

試算の数字は綺麗な右肩上がりを描いた場合、ですね。
さすがにここまで綺麗に増えはしないのかもしれませんが、3月までのペースを維持していたら達成できたかもしれない数字なので、ホテルが増えた背景にはこれぐらいの宿泊客数を入れることを目指していたのかもしれません。

宿泊施設数の推移を見てみると、ホテルや旅館の数は令和2年から増えていることが分かります。コロナ禍真っ最中ですが、上記の見込みのように、底から回復していく見込みで投資がされたのでしょうか?

熱海市統計書より

上記まとめると、コロナ後の宿泊客数増を見越してホテル旅館の建設が進んだが、従業員がいないので供給が足りず、実際には宿泊客数の伸びを維持できなかった、と推測します。

なお外国人観光客について。
全国ではインバウンドの動きがよくニュースになっていますが、熱海では控えめなようです。
平成30年(2018年)のデータですが、宿泊客数のうち外国人宿泊客は1%の29,459人とのことです。インバウンドの流れで仮に人数が倍になったとしてもそこまで大きな影響はないということになります。
確かに街を歩いていて外国人観光客と思わしき方はあまり見かけません。
新しくできるホテルは増える日本人観光客を狙うのか、希少な外国人観光客(富裕層が多い?)を狙うのか。

2022年1月「熱海市の観光施策」より

詳細はこちら
https://atami-taut.com/wp-content/uploads/2021/04/2022.01.25_熱海市の観光施策.pdf

人手不足が問題

宿泊客数が増え、ホテルが増える一方で、従業員が足りていないことはニュースにもなっています。

有効求人倍率

熱海市の宿泊業における有効求人倍率、は調べてもデータが見つからなかったのですが、全国的には宿泊業・飲食サービス業の有効求人倍率は既に3を超えているそうです(令和5年厚生労働省の発表)。
つまり「うちで働いてほしい」という求人3件に対して、「働きたい」という求職が1件もないということです。

ガイダブルジョブズより
https://guidablejobs.jp/contents/how-to-recruit/10237/

静岡県の職業別の調査で令和3年の「サービス業」の有効求人倍率が約2であり、上記の全国の調査でも令和3年の有効求人倍率が2なので、静岡県の宿泊業・飲食サービス業の有効求人倍率も現時点で3を超えているのかもしれません。

静岡労働局「静岡県内の最近の雇用情勢」
https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/000889396.pdf

人材不足の原因としてはもともと熱海市内に生産年齢人口が少ないことや、コロナの時期に従業員を解雇してしまい、それから再確保が難しくなっていることなど、色々ありそうです。

最低賃金

宿泊業は賃金が低い業界だと聞いたことがあります。
熱海市は静岡県の東の端で、神奈川県の湯河原町と接しています。以前、神奈川県は静岡県よりも最低賃金が高いので、熱海よりも湯河原で働くことを選ぶ人が多いと聞きました。

令和6年10月時点の最低賃金は厚生労働省の資料によると下記の通りです。
静岡県 :1,034円
神奈川県:1,162円
  差分:   128円

時給が100円以上違うなら、一駅隣の湯河原で働こうと思うのも無理はありません。実際には最低賃金以上で求人を出しているかとは思いますが。

賃金を上げても働き手が来ない時代、今までより賃上げをしても近隣の街よりも高く設定できなければ、人材獲得で勝つのは難しいのかもしれません。

家賃相場

働き手にとって苦しいのは家賃の違いもあります。
東海道線で熱海周辺の家賃相場を比較すると下記の通りでした(2025年2月時点、SUUMOより)
小田原~沼津間で熱海が最も高い結果です。

小田原:5.3万円
早川 :4.3万円
根府川:3.6万円
真鶴 :4.1万円
湯河原:5.6万円
熱海 :6.0万円
函南 :4.2万円
三島 :4.6万円
沼津 :4.3万円

家賃が高いのに賃金が低いのだとしたら小田原とか他の街で働きますよね。
なお本当は前職のLIFULL HOME'Sを使って調べたかったのですが、熱海のデータが無かったため泣く泣くSUUMOの家賃相場で調べました(神奈川静岡

熱海は観光業が盛んな一方、それにより地価が上がったり、物価が上がったりしているのだと思います。
熱海の土地を中国資本が買いあさっているという噂も聞いたことがありますが…

まとめ

熱海市の観光客数、宿泊客数もコロナ前の時点で増えていた訳ではなく、現時点でもコロナ前まで回復している程度なので、なぜこのぐらいの需要でホテル開発が決められたかのは結局よくわかりません。令和5年(2023年)の頭までは過去最高レベルの宿泊客数になりそうなペースで好調に推移していたので、それを見込んでホテルの開発が相次いだのかもしれませんが、実際には令和5年の時点で宿泊客数の増加は鈍化しています。
鈍化の原因が熱海市の発表の通り従業員の人手不足なのだとすれば、ホテル側が近隣の市町の宿泊業者よりも高い賃金を設定し、家賃の補助など手厚いサポートをして人材獲得競争に勝っていかないといけません。
しかし人材については奪い合うより前に人口減少で生産年齢人口は減っていくわけなので、人手をかけずに運営する仕組みを強化する方が現実的なのかもしれません。または、そもそも無理な人材供給が前提となる宿泊業の拡充に限界があるのかもしれません。
いずれにせよ、ホテル事業者側にとって十分な人手を確保できず、客室稼働率が目標を下回って採算が取れないとなれば、廃業するホテルもでてくる可能性があります。
熱海では2025年4月から一泊200円の宿泊税が導入されます。熱海市にとっては観光業が主要な産業である分、経済的にも財政的にも強化していきたいのだと思いますが、時代に合わせた対応が求められているのではないでしょうか。

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