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雨の日の物語1
昨年の梅雨の時期から夏にかけて、兵庫県高砂市の町家Tentofuという場所で個展をしました。個展では、雨をテーマに私と店主さんがそれぞれ数冊の本を選書し、その本を元に絵を描いて展示しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1673399609953-HkGwoNvWAQ.jpg?width=1200)
その際、以下のような試みをしたいと、noteの記事をアップしていました。
今回の個展では「雨」をテーマに本を選び、その本を題材に絵を描いています。
では、その絵を題材に物語を書いてみたらどうなるだろう?という実験を、こちらのnoteでしてみようと思い立ちました。
本の言葉から絵を描き、絵から言葉を書き、そしてまたその言葉から絵を・・・なんてことを続けていけば、永遠に絵と言葉がリレーして行くことが出来ますね。
その後、予告編は予告編のままに放置されてしまっていたのですが・・・年末にふと物語が一つ思い浮かんだので、半年のタイムラグを経て、ひとつ掲載します。
雨の日の物語1
![](https://assets.st-note.com/img/1673399969878-Xv7c9bFoGw.jpg?width=1200)
「なんてこった。」
目覚めた道化師はつぶやきました。しとしと雨の朝でした。
今日は愛しのコロンビーナの結婚式。と言っても道化師と結婚をするのではありません。伊達男のアルレッキーノと結婚をするのです。
道化師は結婚式にやってくる人たちのために、教会の前の広場で大道芸を披露しようと、数日前から考えていました。
それは道化師からコロンビーナへの結婚祝いでした。また精一杯の強がりでもありました。
「なんてこった、雨だ。」
道化師はもう一度つぶやきました。雨が降っていては、広場で大道芸は出来ません。
ウェディングドレス姿の美しいコロンビーナをひと目みたいと、道化師は思っていました。たとえ他の男との結婚式であっても、愛しい人の晴れ姿は見てみたいと思うものです。
「大道芸は諦めて、教会の隅っこから、こっそり見にいこうか」
でも道化師は、道化師ではない自分の姿で、二人の結婚式を見届けるのは、たえられそうにないと思いました。
道化師はしばらく鏡を見つめていましたが、心を決めて、化粧をはじめました。
ごーん、ごーん。
教会の鐘が鳴り響きました。コロンビーナとアルレッキーノの結婚式はおごそかにとり行われました。
誓いのキスを交わした二人は、招待客に見送られながら教会の通路を歩き、広場に面した大きなドアを開けました。
広場では道化師が傘をさして踊っていました。ひどく陽気に、リズムよく、口元に大げさな笑みを浮かべて飛び跳ねました。
「コロンビーナ、おめでとう!おめでとう!」
傘をくるくる回して、水たまりを飛び越えて、ときにはわざと水たまりへ飛び込みました。
足早に広場を行き交っていた人たちは、道化師を見て立ち止まりました。
「雨の日に道化なんて珍しい」
「素敵なダンスね」
道化師は、ときどきコロンビーナに視線をやりながら、踊り続けました。
コロンビーナは声をあげました。
「あら、道化師さんが踊っているわ!」
アルレッキーノも言いました。
「愉快だね、これはいい。」
雨の日でよかった、と道化師は踊りながら考えていました。道化師のこぼす大粒の涙は、雨に紛れて消えました。