雲の上の音楽家の家
雲の上の音楽家の家
誰かに愛された小鳥は、空よりもっと高い天に昇ったあとも、人の姿をした天使を恐れません。
小鳥は、天使の小屋を訪れては、天使の指にとまったり、朝食のサラダをついばんだりします。サラダがないときは、チッチっと鳴いてねだります。
天使は少し深さのある小皿に、朝露を集めた水を張り、テーブルの上に置いておきます。小鳥はそこで気持ちよさそうに水浴びをします。
水びたしになったテーブルを、乾いた布巾で拭く天使の肩の上で、小鳥はぶるぶると体を震わせます。天使はくすぐったくて笑います。
天使が紅茶を飲んでいると、小鳥はカップのふちにとまって身を乗り出し、紅茶をのぞきこみます。天使は、小鳥が紅茶の中に入ってしまうのではないかと、ヒヤヒヤします。小鳥は実際、ときどきうっかり足を滑らせそうになって、あわてて羽をバタバタさせます。
天使が竪琴を奏でるとき、小鳥は一緒に歌います。かつて、地上の鳥かごで歌った歌です。
小鳥のねだる鳴き声、朝露をまき散らす音、羽ばたき、天使の笑い声、小鳥と天使の合奏、彼らが雲の上で奏でる音は、すべて音楽になります。
天上の音楽は、目に見える光の粒のように、きらきらと地上に降りそそぎます。それは星のまたたきに似ています。
奏でられた光の粒は、小鳥を愛した人の部屋の、今は空っぽの鳥かごに、25グラム分の重みを持って降りそそぎました。そこには、まあるい愛の記憶がありました。
*25グラムは文鳥の平均体重
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