青の家
青の家
「ぼくを水槽に閉じ込めないようなんて、まさか君は思わないよね?」
水たまりの魚は言いました。女の子は大きな紙袋に入れて持っていたガラスの水槽を、思わず後ろ手に隠しました。
どうして水たまりに魚がいるのかというと、こんな訳がありました。
女の子の住む街にある日、大嵐がやってきました。風がびゅーびゅー吹いて、雨はざーざー降って、大嵐がようやく過ぎ去った頃、街はずれの窪地に大きな水たまりが出来ていました。(そこは遊水池と言って、たくさん雨が降った時に、わざと雨が溜まるようになっていて、道や用水路が水浸しにならないように作られた場所なのです。)
女の子は突如現れた小さな湖に散歩の途中に立ち寄りました。台風一過で空は眩しく、水たまりは太陽を反射していました。しばらく眺めていると、水の中になにかキラキラ動くものが見えました。
「なにかいる!」
キラキラは右に左にせわしく動き、そしてぱしゃっと水面に跳ねました。それは女の子の手の平くらいの大きさの魚でした。
女の子は驚きました。ここは川からも海からも遠い街です。一体どうやって水たまりに魚がやってきたのでしょう。大嵐に運ばれて空から降ってきたのか、それとも水たまりの底がどこかに繋がっているのか。どちらにしても魚は1匹しかいないようでした。
「お魚さんはどこからきたの?」
魚はぱしゃっと跳ねました。
「食べるものはあるの?」
魚はまたぱしゃっと跳ねました。
女の子は嬉しくなって魚にたくさん話しかけました。あっという間に夕方になって、女の子は魚に毎日会いにくる約束をして家に帰りました。
次の日もまぶしい晴れの日でした。女の子が魚に会いに行くと、水たまりは昨日よりずっと小さくなっていました。その次の日も、次の日も、水たまりはどんどん小さくなります。女の子は天気予報と睨めっこしましたが、しばらく雨の降る日はなさそうです。
水たまりが、ふつうの水たまりと同じくらいの大きさになってしまった朝、女の子は真剣に魚に話しかけました。
「お魚さんはこのままだと死んでしまう。わたしはお魚さんを助けたい。」
魚はじっとしていました。
「でもこの街の近くには川も湖もないの。わたしにはお魚さんを連れていけない。」
魚は心なしがぶるっと震えたように見えました。
「それでね、お魚さん、わたしと一緒に住むのはどうかしら?」
魚はぱしゃっと跳ねました。「そうしよう」という声も聞こえたような気がしました。女の子はぱっと顔を輝かせ、実はもう用意してきた水槽を紙袋から取り出そうとしました。女の子にとってはとても大きな水槽です。
その時、魚がはじめてはっきりと喋りました。
「ぼくを水槽に閉じ込めないようなんて、まさか思わないよね?」