カルテ記載方法について 基礎編
きちんとしたカルテ記載ができることは医師として、とてもとても重要な素養だと考えています。
カルテ記載をみればその医師がどのような能力をもち、どのような考えをもって診療に当たっているかがわかります。また的確なカルテ記載は、周囲もその患者さんの病状や重症度、今後の方針を認知することができ、チーム医療の質の向上となり、また、いざという時に自分を守ってくれるものになるでしょう。
最初に断っておきますが、カルテ記載にこの方法が正解というものはありません。しかしながら、常により良いものを心がけて更新し、精進していく必要があります。
初期研修医あるいは専攻医となり、数ヶ月前の自分のカルテをみて、「よく書けているな」と思うのであれば、それはあなたが成長していない証拠に他なりません。
ぜひ定期的に振り返り、より良いカルテ記載をするにはどうすればいいか、これからこだわってほしいと思います。(内科医になる方は)
まず患者さんの診療にあたって、問題点(プロブレム)を定義することは重要です。カルテ記載はそもそもプロブレムを立てる能力に依存するといっても過言ではないと思います。私自身、カルテの記載について勉強不足であったときには、その場で思いついたプロブレムを上から順番に特に脈絡もなく記載していました。これは、患者さんの問題点に対する対処の漏れ、そして遅れを招くため避けなければなりません。 したがって、まずはプロブレムの記載方法について、自分なりの方法をお伝えしたいと思います。
以下に提示する症例はいずれも架空の症例です。
プロブレムリストの作成
以下のとある症例の入院カルテのプロブレムリストをご覧になり、改善点を可能な限り列挙してみてください。脳梗塞の既往、高コレステロール血症、糖尿病の背景にある方が発熱、食思不振を主訴に受診、入院されました。
# 高コレステロール血症
# 糖尿病
# CVA叩打痛
# 食思不振
# 発熱
# 白血球増多
まず、本プロブレムリストの良くない点たくさんあると思いますが、以下の3つをまず上げたいと思います。
① プロブレムリストの優先度が不明瞭である。
② プロブレムリストにまとまりがなく、また記載も不十分である。
③ 時系列がわからない。
の3つです。
具体的に説明したいと思います。
① プロブレムリストの優先度を明確にする。
カルテ記載方法についてはいくつかの流派があり、(a)時系列に記載する、(b)優先順位に記載するという流派があると思います。個人的には、時系列を重視しつつ、優先順位に応じて記載する方法をおすすめしたいです。私は脳神経内科医ですからどうしても神経内科疾患がプロブレムリストの上位に来がちですが、何科に限らず患者さんの最も重大な問題を一番上にもってくるべきでしょう。そのため、#にはきちんと番号を振り、優先度を明確にしましょう。また、重要な脳梗塞の後遺症が漏れているので追記してみましょう。
② プロブレムリストにまとまりをもたせ、記載漏れがないようにする。
同様の病因pathogenesisによって生じていると考えられるものは、一つにまとめたほうが良いとおもいます。
食思不振は、腎盂腎炎の初期症状として有名ですよね。右CVA叩打痛があること、発熱があることとあわせて、急性腎盂腎炎が原因と考え以下のように書き直してみましょうか。
だいぶすっきりしましたね。また糖尿病については、二型糖尿病か一型糖尿病なのか、発症時期はいつなのか、糖尿病があるとすれば糖尿病合併症はあるのか、あるとすればそのステージはなんなのかを必ず記載しましょう。高コレステロール血症も、診断時のLDLコレステロールの値などを入力しておくと良いと思います。
もちろん最初は、同様の病態で生じているかわからないことがよくあります。たとえば、以下のようなプロブレムで入院しましたが、後にいずれもサルコイドーシスによるものとわかった場合はどうでしょうか。
上記プロブレムリストを更新後。
プロブレムリストは上記のように随時更新することで、より今後の治療戦略が明確になります。
③ 時系列を明確にする。
よく漏れがちなのですが、私はプロブレムリストには日付を絶対にいれるべきだと考えています。それはプロブレムをつけた日、あるいはその疾患の診断日あるいは発症日である場合もあるでしょう。その日付をいずれかわかるように入れなくてはなりません。なぜならば、プロブレムリストに日付が入っていなければ、経時的変化が全くわからなくなってしまうからです。
二型糖尿病についても、今後腎機能などが変化してくるようであれば、更新していく必要があります。このようにプロブレムを記載すれば、腎機能評価のため微量アルブミン尿の測定の忘れ防止やCKDの早期治療につながりますし、専門科への適切なコンサルトにもつながると思います。#1の脳梗塞についても、2019/1/11に発症し、どのような経過であったのか、またその脳梗塞の原因はなんだったのか、もう少し具体的に書くともっといいかもしれません。またどのような治療を行っているかも併記しておくといいと思います。
さて、その後尿検査にて膿尿、培養検査にてE.coli(ESBL)が検出され、そのままセフメタゾールを継続し、抗菌薬投与によって治癒しました。その場合は、以下のように更新しましょう。
これでプロブレムリストができるようになりましたね。今回はプロブレムリストに主に疾患のみを列挙しましたが、そういった生物学的なもののみならず、Psychologicalなもの、Socialなものも入れて記載すべきです。例えば、不安が強い、独居であるなどです。
私はこのプロブレムリストの下に3行程度で患者さんの要約を書くようにしています。万が一自分が不在のときに患者さんが急変した際に、別の医師が適切に病状をすばやく把握できるようにするためと、現状なにをしているのか、今後の方針を病棟内、チームに共有するためです。
上記のような感じです。そして上記文章を随時更新していき、そのまま退院サマリとしています。あくまですべてを記載せず、見やすく簡潔にし、要約をするというのがポイントです。適宜不要な部分は削除して短くするように私はしています。
SOAPの記載方法
理想は各プロブレムごとにSOAPを記載するというのが理想です。
しかしながら、大学病院のカルテではそのような記載方法にしにくいのと、カルテがどうしても長くなってしまい読みづらくなってしまうため、私はプロブレムはプロブレム、SOAPはSOAPで分けて記載するようにしています。
Subjective (S)
その人がおっしゃったことをできる限り患者さんの言葉で記載。ただし「今日は晴れてるな」などではなく、その人の病状や現状、病気に対する考えがわかることなど重要な点を記載します。
Objective (O)
入院患者さんであれば、呼吸数を含めたバイタルサイン、その日実施した採血結果、検査結果を記載します。全身状態が悪い方であれば、全身状態も記載します
Assessment (A)
上記検査結果に対する評価、解釈を記載します。
Plan (P)
今後の方針を記載します。明確な指針が固まれば、先程記載したプロブレムリストやプロブレムリスト下部の要約に反映させます。
脳神経内科疾患におけるプロブレムリストの作成
さて、さきほどは内科疾患にかかる治療のプロブレムリストを作成しましたが、実際に神経内科疾患の患者さんのプロブレムリストを作成してみましょう。神経学的所見から以下のプロブレムを作成してみました。
さて、今回は#1-3と神経学的所見ごとに分けましたが、疑い病名で総括できる場合には以下のように、まとめてしまってもよいでしょう。
#1 筋萎縮性側索硬化症の疑い 2022/2/22
あるいは神経学的所見を重視し、#4を振り直してもいいかもしれません。ただし、いずれの神経所見についても十分にAssessmentし、原因を特定し治療していくことが重要です。
いかがでしたでしょうか。簡単にみえるカルテ記載も非常に奥が深いものです。最も大事なことは自分なりのカルテの土台を作り、それを常により良い物に変えていこうという気持ちです。一緒に勉強していきましょうね。
カルテ記載にあたり参考にある図書。
①型がみにつくカルテの書き方
佐藤健太 著
②カルテはこう書け! 目からウロコ「総合プロブレム方式」
内科学研鑽会 著
いずれの本もとてもいい本です。ぜひ読んでみてくださいね。
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