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#14 試行錯誤の末に見つけた事業のかたち。出囃子が目指す未来
前回、出囃子が生まれた経緯について書かせていただいたところ、思いがけず多くの芸人さんからリポストやいいねをいただきました。
この2年間の取り組みが少しは評価されているのかなと、正直ホッとしています。
今回は、その出囃子が今のカタチにたどり着くまでの紆余曲折と、これからの展望についてお話ししたいと思います。
何よりも大切なのは、「おもしろい」を提供すること
2023年3月。
出囃子は、8組のお笑い芸人にお声がけさせていただきスタートしました。とはいえ、最初から今のような事業に育てようという明確なビジョンがあったわけではありません。
僕たちが応援したいと思う芸人を中心に声をかけさせてもらったのですが、明確にビジネスモデルは決めず、やりながら良い方向を模索しようというスタンスで、「まずはできることから始めてみる」という感覚でした。
しかし、運営を始めてすぐに課題が見えてきました。
同じメンバーでライブや発信をやり続けると、どうしてもマンネリ化してしまう。企画も似たようなものになってくるし、お客さんの反応も徐々に薄くなっていく。
なんとか盛り上げなければ…と次に試したのが、オンラインサロン形式でした。月額制のサロンを立ち上げて、芸人たちのコンテンツを定期的に配信するというもの。
オンラインサロンの成功例はよく目にしていたし、お笑いでも通用するのではないかと考えたんです。
しかし、結果は期待したほどではありませんでした。
サロンの会員数は2桁には到達したものの、3桁には届かず。
ほかにも、芸人が書いた記事のPV数に応じてギャラを支払う、という取り組みを始めてみたものの続かず。
またもや方向転換をしなければと思ったときに頭をよぎったのは、NOMALが手掛けている アート通販事業のWASABI のことでした。
WASABIが人気を集めている理由は、たくさんのアーティストさんが協力してくれるからに他なりません。
つまり、買い手にとってはいろんなスタイルのアート作品が選べることが魅力なわけです。それってお笑いも一緒では?
そこで次に取り組んだのは、とにかく出囃子のステージに出てくれる芸人さんたちを増やすこと。
前回のnoteでも紹介しましたが、お笑いライブ界において出囃子はあえて報酬を高めに設定しています。そのため、芸人が芸人に評判を広げてくれ、ステージに立ってくれる芸人の数は少しずつ増えていきました。
この方針転換は、予想以上に良い結果をもたらしてくれました。
ライブの内容は毎回新鮮になり、お客さんの数も着実に増えていきました。
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そしてお笑いライブの入場料以上に芸人の収入源となっているのが、アーカイブ配信です。以前はオンラインサロンの限定コンテンツだったのですが、サロン制度を廃止したこともあり、最終的にはシンプルな買い切り型に落ち着きました。
アーカイブ配信はもともと、東京に来られない地方のファンの方々向けに始めたのですが、だんだんと、意外な需要が見えてきました。
それは「ライブに来てくれた人が、もう一度見たいと思ってアーカイブを購入してくれる」というニーズです。
ライブを見て面白かったから、家に帰ってからお酒でも飲みながらゆっくり見たい。ライブで味わった面白さを、友人や家族と共有したい。そんなリピート需要が想像以上に多かったんです。
これは僕たちにとって大きな発見でした。それは、「純粋におもしろいと思えば、自然とお金を使ってくれる」という当たり前の事実です。
「芸人さんを応援したい」という思いからスタートした事業ですが、お客さんからしたらそんなことはまったく関係ない。にもかかわらず、出囃子を立ち上げた当初は「応援しよう」という自分たちのメッセージを押しつけてしまっていたなあと反省しています。
お客さんが求めているのは「応援」ではなく、単純におもしろいお笑いや、ストレス発散できるコンテンツです。何よりも大切なのは、「おもしろい企画」「おもしろい芸人」を提供すること。
そのシンプルな出口に気がついたおかげで、運営の方向性はかなり明確になりました。おかげさまで今では有名な芸人さんに出演していただく機会も増え、お笑いファンの間でもだんだんと出囃子の知名度が上がっていることを感じ、ありがたい限りです。
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最近うれしかったのは、とある大手事務所から中堅芸人を出演させたいと言ってもらえたこと。若手芸人の応援を念頭に置いてスタートした事業でしたが、それなりのギャラを確約している出囃子は確かに、舞台を中心に活躍されている中堅芸人さんにも活用してもらいやすいはず。
その問い合わせをきっかけとして、2024年12月には「M-1ラストイヤー組」&「芸歴16年以上のTHE SECOND組」による漫才師のライブ「OLD ROOKIE」を開催。
出囃子のポテンシャルがまたさらに広がったなあと感じられるライブになりました。
「正当な対価を支払う」という当たり前を、当たり前にしたい
そんなこんなで注目される機会も増えてきた出囃子ですが、急激な成長は目指していません。芸人さんへの還元を第一に考えながら、着実に、そして長く続けられる事業にしていきたい。それが僕たちの考えです。
「芸人さんへの還元」という視点で避けて通れない話題が、報酬についてです。お笑いライブのギャラ問題については前回も少し触れたのですが、改めてもう少し詳しく説明させてください。
お笑い業界には「当たり前」と思われている慣習がたくさんありますが、僕たちはそれを一つひとつ見直していきたいと考えています。
その1つの例が「エントリーフィー」という制度です。
いわゆる「地下ライブ」と呼ばれるイベントでは、芸人さんがライブに出演するために料金を支払う仕組みがあります。でも、(これは私個人の感覚ですが)仕事をするために、なぜお金を払わなければいけないのでしょうか。
例えば居酒屋でバイトをするのに「出勤料」を取られることはありません。
それなのに、お笑いの世界ではまだ一部にそういうライブが存在している。
さらに驚いたのは、芸人さんたち自身がその違和感に気づかないほど、この文化が染み付いていることでした。
ある芸人さんに「なぜエントリーフィーを払うの?」と聞いたとき、「それが普通だから」という答えが返ってきました。
「芸人として食べていきたい」と言いながら、自分たちが「仕事」をするためにお金を払うーー。そこに違和感がないほど、業界の「当たり前」が強固なものなのだと驚かされました。
私が目指しているのは、この「当たり前」を変えることです。
もちろん、出囃子にエントリーフィーはありません。
さらに加えて、特に意識しているのが「対価」の考え方です。
僕たちのライブに4回出演すれば10万円程度の収入になるのですが、芸人さんいわく、他のライブと比べると3倍以上の金額だと言われます。僕はこれでもまだ安いと思っていて、出囃子の成長とともに、ギャラの水準も上げていけたらと考えています。
余談ですが、オンラインサロンを辞め多くの芸人さんを集めようと方向転換したタイミングで、30万円の賞金をかけた賞レースを開催したことがありました。
マイナーな賞レースにおいてはまあまあいい金額を設定したので「たくさんの芸人さんが参加してくれるはず!」と自信満々だったのですが、予想に反して、芸人さんたちの参加の数がめちゃくちゃ少なかったんです。
その理由は、「賞金が高すぎて怪しかったから」。
「絶対に裏がある」と、警戒していた芸人さんもいたと聞きました(笑)。
これは…全く予想していなかった反応でしたね。
30万円…もちろん安くはない金額ですが、企業が新規事業に投資する広告宣伝費として考えれば全然高くはありません。
「30万円で芸人さんに喜んでもらって、賞レースが話題になったら安いもんでしょ」と安易に考えていましたが、まさか怪しいと思われるとは。
芸人とは、歴史がある職業です。
だからこそ伝統を大切にしている人が多いし、「場を提供してもらっているから」「業界の当たり前に準じなければならない」という意識が強いことも理解しています。
しかしその一方で、エントリーフィーが発生するライブや安すぎるギャラは、今の時代には合っていないとも思うのです。
もちろん、他のやり方を否定するつもりはありません。
僕たちは「芸人さんの仕事に正当な対価を支払う」という当たり前のことを、当たり前にやっていきたい。そして結果的にこの取り組みが周囲にポジティブな影響を与えられるとすれば、それはとてもうれしいことです。
何度も言いますが、本当に素晴らしい職業で、リスペクトしています。
芸人さんたち一人ひとりの魅力を伝えたい
最後に少し宣伝を。
お笑いライブの開催とアーカイブ配信に加え、現在力を入れているのが芸人たちのインタビュー記事です。
絶賛売り出し中の若手芸人を中心に、プロのカメラマンとライターのもと、1組2時間以上をかけて取材・撮影をおこなっています。
この企画は、芸人さんから制作費も掲載料もいただいていません。完全なる持ち出しです。
取材すればするほど赤字なのですが、ここのクオリティにこだわる理由はシンプルで、芸人さんたち一人ひとりの魅力を伝えたいから。
事務所のホームページには、せいぜい身長・体重・出身地くらいしか載っていません。でも出囃子のインタビューでは、「なぜ芸人になったのか」「何が大変だったのか」「自分たちの売りは何なのか」といった深い部分まで掘り下げています。
このインタビュー記事は芸人さんたちの自己PRにも使っていただいていますし、写真も自由に使っていいよと伝えています。
もうひとつ事業的な観点で言うと、将来ブレイクする可能性のある芸人さんたちをしっかりと取材しておくことは、出囃子のブランド価値向上にもつながると思っています。
例えば今後、M-1グランプリで知られざる芸人が出てきたとき、日本中のお笑いファンが検索したら出囃子のインタビューページが検索結果の上位に表示されるーーなんて未来を夢見つつ。
芸人の皆さんが熱く語っているので、ぜひ読んでみてください。
お笑いという文化がこれからも長く続きますように。
芸人さんとお笑いファンのみなさま、これからもよろしくお願いします!
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。次回は、たぶんこれまでで一番聞かれてきた質問「友人と一緒に経営するって実際どうなの?」について答えていきたいと思います。いいね!やフォローしていただけると、モチベーション保てますのでよろしくお願いいたします!