1999年カンヌ
1998年映像部門に異動になり、映画の仕事に関われるという興奮が、実はレンタル冬の時代で、映像部門の撤退が上の方で議論されているのを知って当惑に変わった頃、カンヌ国際映画祭と同時開催されているマーケットへの出張が、なぜか認められた。承認の条件は、買い付けて来るなという奇妙なもの。心優しい部下が申込みやセッティングをしてくれた。
で、カンヌの地を踏む。しかし、毎日が幸せだった。街中で映画の試写が行われ、世界中の映画関係者が集まっているのだ。初めは声をかけてくれた配給会社やレップも本当に買う気がないことが分かると、忙しいので、誰にも構ってもらえなくなる。しかしバイヤーのバッジの威力は絶大で、実は買付予算ゼロ、映画業界ズブの素人、拙い英語力の日本人でも全く大丈夫なのだった。いわゆる映画祭のコンペティション作品も話題作や人気監督作でなければ、見よう見まねで、朝イチ窓口に並んで入場券を貰えば、ドレスコードはあるが、赤絨毯を踏んでパレ(映画祭のメイン会場)で観ることも出来るし、学生時代に戻って、毎日一日中手当たり次第、映画を観ていた。カンヌはセレブな保養地なので、ホテル代、飲食代は高い。サンドイッチなどで過ごしていたが、裏通りに小さな中華料理の総菜店を見つけ、そこのイートインスペースが贔屓になった。
印象に残ったのは、美しいアートワークと裏腹にエログロバイオレンスな内容の韓国のキム·ギドク監督の『THE ISLE 』と、個人的に昔懐かしいダリオ·アルジェント監督の『SLEEPLESS 』、大作や話題作の映画ビジネスはやれなくても、こういうマニアックなものを手掛けられたらいいなと思ったものだ。勿論買わずに帰国した。
今では、性暴力で残念な評価になってしまったキム·ギドク監督は、当時、無名で国内で買う会社もなかった。日本公開時のポスターだが、監督名は、気づかないくらい小さい(笑)
帰国後、GAGA さんに相談をして買うことになり、公開時の邦題は『魚と寝る女』になった。その後、ヴェネチアとベルリンなどで連続受賞して、手が出ない値段になったが。#キナリ杯
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