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PEANUTS KING ピーナツキング誕生秘話 伝説の始まりは🇺🇸N.Yだった
世界は〝刺激〟と〝発見〟に溢れている。
生まれ変わるきっかけは、きっとそこにある……。
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これは、やますの看板商品「ピーナツキング」が誕生するまでの物語……。
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2020年、JR東日本おみやげグランプリ
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2020年、やますの「ピーナツキング」が、その名の通り戴冠しました。
JR東日本おみやげグランプリにおいて、東日本1都16県のおみやげ全201品の中から、南関東エリア金賞を受賞したのです。
千葉県産のピーナツをたっぷり使った、香り高いサクサクな逸品が、たくさんのお客様の心をつかみ、まさに〝キング〟となりました。
しかし、キングがキングになる前、やますの落花生商品は過渡期にありました。
落花生商品の過渡期
その昔、ピーナツキングは「豆絞(しぼ)り」という名前で販売されていました。
クッキー生地の上に、素煎りしたピーナツを散らすスタイルは変わらず。
唯一違っていたのは、ピーナツの産地。
当時は〝中国産〟を使っていたのです。
それでも、たくさんのお客さんに愛され、1990年代、大ヒット商品として君臨していました。やますにとって大事な〝柱の商品〟だったのです。
唯一の不安は、豆絞りは〝ライバル社から仕入れていた〟こと。
加えて、周囲から「落花生は千葉県産にしたら?」という声も上がり始めます。
……しかし、落花生を千葉県産に切り替えると、価格が6〜7倍に跳ね上がってしまいます。
千葉県産を使った豆絞りを、自社で作る。
これはやますにとっても悲願でした。
この、新たな〝豆絞りプロジェクト〟は、やます社内で何度も立ち上がるのですが……、その都度、頓挫するを繰り返します。
そんな折、2008年、あの問題が世間を騒がせ始めたのです……。
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苦肉の策、胸を張れない売り場スタッフ
覚えているでしょうか。
2008年といえば「食品偽装問題」が世間を騒がせていました。
北海道苫小牧の食品加工会社による食品偽装事件(2007年)
京都の某高級料亭の産地偽装、賞味期限偽装(2007年)
中でも大きな話題となったのが、2008年に起こった「中国製冷凍ギョーザ中毒事件」です。
中国の食品に対する不信感が高まり、世間の風当たりが強くなっていったのです。
そんな中、こんな声がやます社内からも上がります。
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今こそ千葉県産へ。
当時、豆絞りから自社製の「豆らっか」に商品名が変わっていました。
ならば、落花生も「中国産から千葉県産へ」と、いきたいところでしたが……
この時、やますが選んだのは、千葉県産よりコストが安い「南アフリカ産」。
……生まれ変わることはできませんでした。
「豆らっか」の売上げ自体は悪くありません。
それでも、千葉県産への切り替えを熱望している人たちがいました。
それが、売り場のスタッフたちです。
時折、お客様からこんなことを聞かれていたのです。
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胸を張って「千葉県産です!」と言いたい。
でも、それが言えない。
「……南アフリカ産です」と答えた後のお客様の白けた顔。
「……それならいいわ」と、豆らっかを置いて去っていく後ろ姿。
胸を張って自分たちの商品を売りたい。
でも、それができなかったのです。
食品偽装問題の余波をなんとか南アフリカ産で乗り切り、迎えた2015年。
後から思えば、やますにとって大きな意味を持つ出来事が起こります。
それが、房の駅代表:諏訪聖二(すわ せいじ)のN.Y(ニューヨーク)行きでした。〝房の駅を、N.Yに作る〟という野望のもと、旅立ったのです。
しかし、そこにはキビシイ現実が待っていました……。
N.Yで味わった〝挫折〟と〝気づき〟
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2015年と言えば、
ラグビーW杯で、日本代表が優勝候補・南アフリカから歴史的勝利を挙げ、
訪日観光客が家電やブランド品を大量に購入する「爆買い」が注目を集めた、そんな年です。
房の駅代表・諏訪聖二氏は海を渡りました。
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「千葉を世界に」
アメリカ進出の足がかりを作るため、N.Yで奔走します。
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店舗を開くための土地探し、房の駅を知ってもらうためのイベント開催。
……しかし、立ちはだかったのが〝言葉の壁〟と〝アメリカの契約社会〟
複雑な契約書類と格闘している内に、目ぼしい土地や物件はどんどん欧米人たちに先を越されてしまいます。
思うように、ことが進まない悶々とした日々……。
N.Yで壊された〝常識〟
その一方で、N.Yは諏訪氏に〝刺激〟をくれました。
例えば……
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普通、食品やパッケージに〝青色(寒色)〟を使うことはしません。
でも、N.Yは世界のトレンド、その最新鋭が集まる街です。
「食品に青色は使わない」
そんなつまらない縛りや概念はないのです。
タブーをおかしつつ、それでいて〝カッコいい〟
諏訪氏がこれまでの人生で築き上げた、ありとあらゆる概念・価値観が壊されていきました。
中でも衝撃を受けたのは〝ブランディング〟です。
自分たちの商品を、いかに価値ある、かっこいいものとして発信するか。
それぞれの企業が、真剣に頭を捻っていました。
ある日、街中を歩いていたら、日本では考えられない光景がありました。
それが〝恋人たちがデートのディナーで、一杯2000円のラーメンを美味しそうに食べている姿〟です。
それは日本でも有名なラーメンチェーン店でした。
出しているラーメンは日本と全く同じです。
それでも、街に合わせて、
「うちのラーメンはこんなスタイルで楽しんでくださいね」と、ブランディングすることで、一杯2000円のラーメンがデートのディナーとして受け入れられる……。
諏訪氏はつくづく思います。
「まだまだ自分の視野は狭い。
日本の外には、こんなにも知らない世界があるのか」
結局、2018年までN.Yに滞在したものの、房の駅のアメリカ進出は幻に終わりました。
……帰国して、本社のある千葉県市原市にもどります。
その時、これまで当たり前だった世界が、ガラッと変わって見えたのです。
浦島太郎が見た〝世界〟
当時の心境を諏訪氏はこう語ります。
「ハッキリ言うなら〝ダサい〟
当時のやますの商品パッケージを見た時の印象です」
N.Yから帰国した諏訪氏は、改めて、やます・房の駅の商品を見回しました。
もちろん、中身には自信があります。
地元・千葉の海産物、農作物をじっくり丁寧に加工して作っています。
〝味〟は絶対に美味しい。
でも、それを包み込む〝側(パッケージ)〟が、どうにも野暮ったく、その目には映ってしまったのです。
こんな風に思ったそうです。
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諏訪氏
「これまで商品開発に携わってくれた方には感謝しています。
でも、今までのモノを変えずに使い続けることにギモンを覚えました。
N.Yからもらってきた〝刺激〟を〝カタチ〟にしたいという思いが、
フツフツとわき上がってきたんです」
そう考えた諏訪氏は、一つの大きな決断を下します。
それが〝商品企画部門の刷新〟でした。
人員を数名入れ替えるとか、一人二人加えるとか、生半可な変革ではありません。
文字通り〝すべてゼロにした〟のです。
これには確固たる理由がありました。
諏訪氏
「他の会社でも、商品企画には若い世代も入れて
「若者の意見も取り入れる」なんてやってるじゃないですか。
でも結局、それだと〝責任が分散〟してしまうんです。
自分が考えなくとも「他の誰かが考える」そんな風になってしまうので、
一人一人が、真剣に商品開発と向き合わない。
だからこそ、自分と一緒に熱意を持って責任を背負ってくれる人間が
一人か二人いればいい、そう思ったんですね」
自分自身は必ず〝商品開発〟に携わる。
……では、誰に仲間になってもらうのか。
そう考えた時、一人の社員の顔が浮かびました。
雹が降る中で見つけた仲間
正解の見えない新たな商品開発。
やますの仕事の中でも〝茨(いばら)の道〟といっても過言ではありません。
「どんな困難な時もケツを割らない」
そんなメンタリティを持った信頼できる仲間が必要です。
そう考えた時、N.Yで見た〝ある光景〟がよみがえりました。
それが、雹(ひょう)が降る中で行った催事でした。
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予想外の雹、そして突風。
いつ止むともわからず、次々とやますの商品に降り注ぎます。
そんな中、一つでも商品を救おうと、一人の社員が必死になっていました。
やますの現・戦略本部 商品企画/開発課 バイヤーの今井啓太(いまい けいた)でした。
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その奮闘する姿を見た諏訪氏は素直に感心しました。
「普通、あそこまで雹に降られちゃうと、
途中から諦めてしまって、ダラダラ動くものなんです。
でも、彼はずーっと必死で、やますの商品を救ってくれました。
だからこそ、こう思ったんですね」
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人間、口ではいくらでも調子のいいことは言えます。
でも、追い込まれた時に〝どんな行動が取れるか〟
その瞬間、ごまかしようがない、その人間の本性が現れます。
今井啓太は、ピンチに立っても投げ出さず、粘る人間でした。
こうして一度ゼロにした商品企画チームに、
今井啓太という〝仲間〟が加わりました。
商品開発に大人数はいらない。
一人一人が「自分がやらねば」という責任感を持って、目の前の仕事に取り組む。
N.Yで味わったキビシイ現実と、シビレル刺激を糧に、ようやく戦う準備が整ったです。
目指すは、新たなロングセラー商品の開発です。
最初に着手するのは、あの商品しかありませんでした。
商品には〝物語〟が必要だ
新たなロングセラー商品。
白羽の矢を立てたのは、「豆らっか」でした。
「豆らっか」という商品を、どうブランディングし直すか?
来る日も来る日も頭を捻ります。
ある時に、ふと頭をよぎったのが、幼い頃の思い出です。
あなたも覚えがありませんか?
人気キャラクターの消しゴムを使い、空想の中で戦わせて遊ぶ。
「やますの商品に〝物語性〟を持たせたらどうだろう?
ならば、まず必要なのは〝主人公〟だ」
ピーナツ、物語、主人公……
そんなイメージを頼りに、N.Yで学んだ刺激も込めて描き上げたのが、この一枚のラフスケッチでした。
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諏訪氏
「主人公だから〝キング〟
豆らっかという言葉は、完全に忘れて描きました」
もう一人の仲間
このラフスケッチの仕上げを頼んだ人物がいました。
当時、やますで魚を捌(さば)きながら、漫画を描いていた安藤英之(あんどう ひでゆき)です。(※現在の肩書きは「戦略本部 販売企画課 チーフ」)
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安藤氏
「自分は特別に絵が上手いわけではありません。
世の中には、もっと上手い人がいることもわかっています。
それでも、自分にしか描けない世界観があると思っています。
ピーナツキングは、ラフを見せてもらった瞬間、
〝描いてみたい〟という気持ちがわき上がりました。
プレッシャーはなく、楽しく描かせていただいた記憶があります。
商品開発の中で、デザインの仕事に関われることは光栄です。
そして、なにより一番嬉しかったのは……」
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安藤氏
「聖二さんに声をかけていただき、今でも本当に感謝しています」
魚の加工→商品のイラスト担当
この〝自由な人材起用(配置転換)〟の裏にも、N.Yでの学びがありました。
諏訪氏
「N.Yって、今の立場とかキャリアとか気にせずチャレンジするんですよ。
アイスホッケー選手がメジャーリーグ(野球)に挑戦したり。
これは人材起用にも言えることなんです。
安藤くんは漫画(絵)が描ける。
ならば魚を捌(さば)くより、イラストを描いてもらった方が絶対にいい。
そう思って声をかけたんです」
こうして出来上がったのが、今のピーナツキングのパッケージです。
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商品の側(パッケージ)は出来ました。あとは中身です。
新たなピーナツキングを作らねばなりません。
〝新たな〟という時点で、南アフリカ産から千葉県産に切り替えることは決めていました。
問題は、どのランクの落花生をどう加工するのか……ということでした。
扱いづらい等級(ランク)
落花生には全部で5つの等級があります。
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実はこの中で、扱いづらいとされてきた等級(ランク)がありました。
それが……3等です。
2等なら、質の高い素煎り、上質な甘納豆に加工できます。
4等は、やますの看板商品の一つ「Enjoy Peanuts(エンジョイ・ピーナツ)」になります。
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ところが、3等は素煎りにすると、2等にやや劣ります。
かといって「Enjoy Peanuts(エンジョイ・ピーナツ)」にすると、豆に含まれる油分が多いので、うまく仕上がりません。
3等の一部を2等にもっていっても、
3等の一部を4等にもっていっても、やはり品質のバランスが崩れてしまいます。
〝3等は扱いづらい〟
これは加工する側にとっても、困った問題でした。
しかし、この3等をピーナツキングに起用し、人気商品にできれば、今後のやますにとって大きなチカラになってくれる……。
ボロボロとこぼれる落花生
大きな問題がありました。
「3等は粒がいびつなので、クッキー生地に均等に載らず、
ボロボロとこぼれてしまう」
そうなのです。
これは、クッキー生地に素煎りしたピーナツを載せる商品です。
粒が均一であれば、上から載せた時、クッキー生地からこぼれ落ちません。
つまり、機械によって〝自動化〟することができるのです。
粒はいびつなものの、適度な油分を含んだ千葉県産の3等とクッキー生地の相性は悪くない……。
「なんとか3等を活かしたい」みんなの思いは一つでした。
ここで、やますがくだした決断はシンプルなものでした。
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良いものを作るためなら、額に汗することを厭わない。
やますらしい決断でした。
こちらご覧ください。
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載りきらないピーナツがクッキー生地からはみ出しています。
このままでは商品になりません。
そこで、最後は手作業でクッキー生地の上にピーナツを置いていきます。
個体差がでないように、一つ一つ、丁寧に。
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そして、2019年3月。
3等の千葉県産・落花生を活かした「ピーナツキング」が誕生しました。
売り場が胸を張れる〝キング〟
最初は苦戦しました。
実は「豆らっか」の販売も続けており、自社内のライバル商品として、根強い人気を誇っていたのです。
ピーナツキングは、商品の中身や特徴が一切わからないパッケージです。
お客さんもなかなか手が伸びません。
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そこで奮闘したのが〝売り場スタッフ〟でした。
かつて悔しい思いを味わいました。
お客さんに原料を聞かれ「南アフリカ産です」と答えるしかなかったのです。
ところが今は、胸を張って堂々と言えます。
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売り場の頑張りもあって、ピーナツキングは少しずつ売れ始めます。
そしてついに……。
JR東日本おみやげグランプリにおいて、南関東エリア金賞を受賞。
おみやげグランプリは、お客さんの投票によって決定します。
王様は、たくさんの人たちに支持されてこその〝キング〟です。
こうして、パッケージに描かれた王冠が、本物の輝きを手に入れました。
これは、新たなロングセラーの始まり。
ピーナツキング誕生の裏にあった、挫折と挑戦の物語……。
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※こちらはやますの公式HP(この記事の取材・構成を担当しました)
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