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[2024/04/08] 往復書簡-インドネシア映画縦横無尽 第78信:多彩な言葉遊びで病みつきになる可笑しさ~長寿コメディドラマ『オジェック運転手はつらいよ』から~(横山裕一)

~『よりどりインドネシア』第163号(2024年4月8日発行)所収~

轟(とどろき)英明 様

4月に入り、関東も桜の季節かと思います。こちらはまもなく断食月も終わり、本稿が発行される頃にはレバラン(断食明け大祭)休暇に入っている人がほとんどかと思われます。

私はというとここ1カ月、残念ながら映画館に足を運ばない日が続いています。あくまで個人的趣向ですが、観たい作品がないためです。調べてみると約10年前の記事ではありますが、大手映画館シネプレックス21によると断食月の劇場への観客動員数は通常月よりも30~40%落ち込むようです。多くの人が断食月、夕方は一日の断食明けに備え、夜はゆっくりと寛ぐためかと思われます。このため、劇場も話題作などはレバランまで上映を控える傾向にあるのでしょう。

だからというわけではありませんが、今回は私がハマっているテレビドラマ、『オジェック運転手はつらいよ』(Tukang Ojek Pengkolan)を紹介したいと思います。以前、別稿(「よりどりインドネシア第129号:いんどねしあ風土記(40)」)でもジャカルタの下町事情をテーマにした際取り上げましたが、民放局RCTIが2015年から放送を開始し、3,500エピソードを超えるアジアでの最長寿番組です。番組タイトルの頭文字を使って「トップ」(TOP)の略称で親しまれています。

約1年前に主要登場人物の一人を演じた俳優が亡くなったのをきっかけに放送が中断し、そのまま番組は終了してしまいましたが、嬉しいことに、今年1月からタイトルを『オジェック運転手はまだまだつらいよ』(TOP Masih Ngojek)として放送が再開されています。

物語は3人のオジェック運転手を中心にそれぞれの家族や、町内の利用客の家族、屋台など人々の日常の何気ない出来事やハプニングを面白おかしく描いています。このため最初から観ていなくともすんなりと内容に入り込めるところが人気長寿番組にまでなった所以です。出演者は常時、数家族分の20人くらいがレギュラーで登場するだけでなく、出演者スケジュールの都合もあってか、家族単位で定期的に他の家族が入れ替わりに再登場するため、レギュラー陣の延べ人数は倍以上にも上ります。

『オジェック運転手はつらいよ』(写真上)と放送再開後(写真下)の番組ポスター。
(引用:MNC PICTURES : https://mncpictures.com/series/80-Tukang-Ojek-Pengkolan)

舞台はジャカルタの多くを占める低所得者層の住宅地の一角で、東京で言えば生粋の江戸っ子と地方出身者とが混在する下町のような地域です。ジャカルタでは地元民族のブタウィ民族と地方から来たさまざまな民族が混在する民族のるつぼでもあります。こうした設定で特筆すべきはキャラクター作りが優れていて、それぞれが印象深く際立っていることです。そしてキャラクター作りのキーポイントがドラマの魅力の一つでもある、インドネシア人が好きな言葉遊びで、コメディならではの面白さだけでなく、ジャカルタの下町の状況を生き生きと映し出すことにも繋がっています。

言葉遊びでいうと、タイトル(Tukang Ojek Pengkolan)から気を利かせています。オジェック(バイクタクシー)の待機所や溜り場を意味するインドネシア語、パンカラン(pangkalan)と音が似ていて、曲がり道を意味する単語、プンコラン(pengkolan)を使用し、オジェック運転手の人生がままならない様子を表しています。いわゆるダジャレの手法です。

言葉遊びでは、舞台が民族のるつぼであることを反映した地方色を交えたもの、登場人物の口癖、略語など様々ですが、これらを繰り返し多用することによって笑いに転化させる手法が採られています。地方色を交えた言葉遊びでは、インドネシア語ではあっても地方言語を反映した独特な訛り、イントネーションをはじめ、全国的に知られている各地方言語の一部が使われていて、各民族の性格的な特徴傾向とともに多様性を浮き彫りにしています。

西ジャワ州に家族を置いて出稼ぎに来ているスンダ民族のテディは、控えめだと言われる民族特性をデフォルメして、スンダ語による「すみませんが・・・」(Punten punten ato ini mah)を会話の最初につけるのが口癖です。ある事件が起きた際、通りがかった友人にどうしたかと訊かれると「すみませんが、実は・・・」と事情を話す。友人が町内の組長に報告したかと聞いても「すみませんが、まだです」と答え、理由を問われて「すみませんが、携帯電話のプリペイド料金が切れてて」。呆れる友人にダメを押すように「すみませんが、携帯電話を貸してもらえませんか?」。

北スマトラ州出身で金儲けに長けていると言われるバタック民族のパタルは、儲け話にはなんでも飛び付きます。そして、インドネシア語の「e」を何でも「エ」と発音しがちなバタック民族の傾向そのままに話します。「本来、そんなに重要なら・・・」(Sebenarnya begitu penting)も「セベナルニャ、ベギトゥ、ペンティン」とユーモラスな発音で視聴者を笑わせます。

またジャワ民族のインドロ夫婦もインドネシア語ながらもジャワ語訛りのイントネーションで、会話の端々にジャワ語がつい出てしまう。語尾にジャワ語で「そうでしょ?」(Iya toh?)と言ってしまうのが口癖です。一方で、主人公の一人、オジャッはじめ生粋のブタウィ民族であるジャカルタっ子の住民は皆、否定詞の単語「ティダッ」(Tidak)をブタウィ語で「カガッ」(Kagak)と話します。

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またほとんどの出演者に口癖が設定されていて、ユニークなキャラクター作りに一役買っています。主人公の一人、オジャッの姑マエサロは娘婿とはいえ、収入が不安定なオジェック運転手をしているオジャッが大嫌い。名前さえ口に出したくないようで、娘に対してもオジャッのことを「あんたの男は」(Laki lo)と呼びます。また「ああ、そうなの」(Ohh seperti ituuu)と言うのが口癖です。朝、娘の家を訪ね、オジャッが朝食を食べているのを見て、「ああ、そうなの、まだ食べてるのね」と暗にまだ仕事に出かけないことを皮肉ります。しかし、オジャッの嫁である娘も母親のしつこい婿いびりに嫌気がさし、たまに母親の口癖を真似て言い返します。「はい、そうなのよ、いいじゃない」(Iya seperti itu, ngak papa lah)。

口癖の最も多いのが主人公の一人で恐妻家のティスナです。気が弱いくせに、生真面目で何かと「父が言うには・・・」(Kata bapak saya)と父親の言葉を引用して説教じみたことを言いたがります。奥さんに話す時は生真面目さがさらに増して、「父で、君の舅でアント(子供の名前)のおじいさんが言うには・・・」。生粋のジャカルタっ子で気の短いオジャッは、オジェック運転手仲間のティスナが「父が言うには・・・」とまどろっこしい話をし始めると、途中で遮って「もう分かった、お前のカミさんは何て言ってんだ?」(Iya udah, kata bini lo gimana?)と口癖の一部を引用しながら、恐妻家であるティスナを皮肉ってからかいます。

撮影ロケ現場での主人公の二人(左からオジャッ、ティスナ)

ティスナのもう一つの口癖が、間違いを指摘された時に発する「なんで気づかなかったんだろう」(Kenapa saya gak kepikiran ya)です。しょっちゅう奥さんに怒られては「なんで気づかなかったんだろう」と独り言。それを聞いた奥さんは苛立ちが増して、旦那の揚げ足を取りながら「気づかない、気づかないばっかで、気づきなさいよ!」(Gak kepikiran gak kepikiran, kepikiran lah)とドヤしつけ、ティスナはさらに追い打ちをかけられる始末です。

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