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[2024/01/24] インドネシア政治短信(8):あらゆる手段を行使してプラボウォ=ギブラン組の勝利を目指す(松井和久)

~『よりどりインドネシア』第158号(2024年1月24日発行)所収~

大統領選挙は終盤戦に入ってきた。各種世論調査によると、プラボウォ=ギブラン組が支持率50%前後と依然優勢で、決選投票にもつれ込むかどうか微妙な状況にある。ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領とその周辺は、ありとあらゆる手段を用いて、決選投票なしの1回の投票でのプラボウォ=ギブラン組の当選を目指している。

ジョコウィが「後継者」と定めたプラボウォの大統領選挙勝利のための方策は、かなり前から採られてきたが、大統領の長男ギブランがプラボウォの副大統領候補に決まった2023年10月からはさらに拍車がかかっている。村に至るまでの行政機構、国軍や警察などを通じたプラボウォ=ギブラン組への投票へのアメとムチを駆使した緩やかな強制、対抗馬のアニス=ムハイミン組やガンジャル=マフド組の選挙運動に対するあからさまな妨害(会場使用許可取り消しなど)など、実は枚挙にいとまがない。

本来、選挙不正は総選挙監視庁(Bawaslu)によって摘発されるべきものだが、依然として高いジョコウィ人気の下、ジョコウィ批判が許されず、ジョコウィへの感謝を示すことさえ政府から求められる現状では、選挙不正の摘発は後手に回ってしまう。そして、仮に摘発された場合、他の理由を伴って、大統領に対する名誉棄損などで犯罪化(kriminalisasi)され得る。実際、国家戦略プロジェクトであるニッケル製錬に伴う環境破壊を訴えた住民らが、政府に対する妨害行為を行なったとして犯罪化された事例さえあると聞く。

さらには、1月23日、選挙での中立を厳格に表明してきたはずの国内最大のイスラーム社会団体であるナフダトゥール・ウラマ(NU)が、「勝つほうを支持する」とプラボウォ=ギブラン組への支持を表明するに至った。そのほか、アニス=ムハイミン組やガンジャル=マフド組への支持を表明した団体の一部が、プラボウォ=ギブラン組の支持への変更を表明した。その変節は手の平を返すようであり、まるでオセロのようでもある。路線転換を促すために、プラボウォ=ギブラン組は次期政権での入閣や国営企業幹部への登用など様々な便宜を約束している可能性がある。


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