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[2024/08/23] 8月20日憲法裁判所決定の衝撃(松井和久)

~『よりどりインドネシア』第172号(2024年8月23日発行)所収~

8月22日、ジャカルタの国会前に学生や労働者や一般市民が集結し、大規模なデモがありました。今回のデモはジャカルタだけでなく、バンドゥン、スマラン、ジョグジャカルタ、ソロ、スラバヤ、マラン、タシクマラヤ、チレボン、パダン、パレンバン、ブンクルー、サマリンダ、マカッサル、クンダリ、アンボン、ソロンなど全国各地で同時に起こりました。

しかも、前々から計画されていたものではなく、前日の8月21日にSNSで呼びかけられたものでした。また、全国統一行動という形で誰か仕切ったものでも、特定の政治勢力が動員したものでもありませんでした。筆者は、2019年8月に全国へ広がった汚職撲滅委員会法改正への抗議デモを思い起こさせるものでした。


青いガルーダの「緊急警報」

SNSでの呼びかけに使われたのが、青いガルーダに「緊急警報」(Peringatan Darurat)と書かれたシンプルな画像でした。あっという間に、この画像がSNS上に広まっていきました。

「緊急警報」(Peringatan Darurat)の画像
(出所)https://indonesiaexpat.id/news/peringatan-darurat-goes-viral-on-social-media-large-scale-demonstrations-loom/

この画像自体は、EAS Indonesia Conceptが1991年に制作したアナログのホラービデオが基で、インドネシア国営テレビ(TVRI)で国歌が流れ、国旗がたなびく映像が15秒続いた後、突然映像が乱れ、ホラー的な音楽とともにこの画像が現れる、というものです。日本などの災害警報を参考に制作したとも言われているようです。

では、青いガルーダが意味した「緊急警報」とは、何のための「緊急警報」だったのでしょうか。

それは、8月20日、地方首長選挙の候補者選定方法の変更を命じる憲法裁判所決定が出されたことに基づきます。しかし、国会はその決定に従わず、独自の解釈で地方首長選挙法の改正を進めました。立法委員会はわずか7時間で改正案を策定し、22日の本会議で可決させることを目論見ました。国会内では、闘争民主党会派を除く全党会派が改正案に賛成していました。

この国会の動きを受けて出されたのが、青いガルーダの「緊急警報」でした。すなわち、憲法裁判所決定を守り、国会による地方首長選挙法改正を阻止することが目的だったのです。デモ隊は、事態が鎮静化した夜中にこっそり国会が法改正を可決することを警戒し、夜まで抗議行動を続けました。こうした国会前だけでなく全国に広がった抗議デモを受けて、8月22日夜、国会は法改正を断念し、今年11月27日投票の統一地方首長選挙は8月20日の憲法裁判所決定に従って行われる、と言明するに至りました。「緊急警報」は、わずか1日で事実上解除されることになりました。

国会前のデモ。国会の門を押し倒して中へ突入しようとするデモ隊。
(出所)https://www.tvonenews.com/berita/nasional/239006-kemarin-pagar-dpr-ri-jebol-hari-ini-demo-kembali-membahana-di-beberapa-kota

では、「緊急警報」で守られた8月20日の地方首長選挙に関する憲法裁判所決定とはどのような内容なのでしょうか。また、国会はその決定に従わずにどのような地方首長選挙法改正を行なおうとしたのでしょうか。以下では、それを少し詳しく見ていきます。

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