[2024/04/08] ジョコウィ大統領とファミリービジネス~カギを握るルフット海事投資調整大臣〜(松井和久)
~『よりどりインドネシア』第163号(2024年4月8日発行)所収~
これまでの大統領選挙をめぐる動きのなかで、ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領による政治王朝化への批判が起こってきた。すなわち、憲法裁判所長官を義弟とし、憲法裁判断を通じて、法定正副大統領候補者最低年齢に満たない長男ギブラン氏の副大統領立候補を可能にし、国家機関を利用してプラボウォ=ギブラン組への投票を促し、同組を当選させた、との一連の批判はジョコウィ大統領とその家族へ向けられたものである。
ジョコウィ大統領の長男であるギブラン(Gibran Rakabuming Raka)次期副大統領は、まだソロ市長の任期(2021~2026)の1期途中であり、政治家経験はまだ乏しい。しかし、プラボウォ次期大統領の次の大統領を狙うポジションにある。次男のカエサン(Kaesang Pangarep)氏は、政治家経験ゼロのまま、インドネシア連帯党に入党し、その数日後に党首に選出され、政治家としての経験を積むべく、ギブラン氏の後を追っている。ジョコウィ大統領とその家族による政治王朝化、国家の私物化への警戒感は引き続いている。
ところで、ジョコウィ大統領とその家族に関しては、かつてのスハルト大統領のようなファミリービジネスの情報がほとんど表に出てこない。ジョコウィ大統領は自身の権力や財力によって他者を従わせるというよりは、他者がジョコウィ大統領に忖度し、支持せざるを得ないような状況をつくることで、自身への忠誠を誓わせてきたようにみえる。ジョコウィ大統領への忖度に対する報奨として、ポストや利権や事業権の配分を活用してきた。ジョコウィ氏が来たるプラボウォ次期政権下でも一定の影響力を持ち続けられるのかどうか、その下支えの一つとして、ジョコウィ大統領とその家族によるファミリービジネスの状況について考えてみたい。
ジョコウィ大統領自身は、以前から庶民的で、汚職や利権と縁遠い清廉なイメージを持たれているが、もともと彼は、家具製造販売業に従事していた実業家である。彼が興したラカブ社(CV Rakabu)は2009年にラカブ・スジャトゥラ社(PT Rakabu Sejahtera)となり、現在に至る。このラカブ社の変遷の経緯はどうだったのか。ギブラン氏やカエサン氏はどんなビジネスを行なってきたのか。
本稿ではまず、ギブラン氏とカエサン氏のビジネスについて見ていく。彼らのビジネスは、父・ジョコウィの政治家への転身がひとつの契機になっており、父が大統領になった後に発展・拡散・盛衰した様子がうかがえる。彼らのビジネスの大半は飲食業であり、成功したものもあれば、失敗したものも少なくない。
続いて、ジョコウィ氏が起こし、今も形を変えながら存続しているラカブ社をめぐるビジネスの現状について考える。ソロ市長選挙へ立候補して政治家へ転身した頃から、ビジネスは本業の家具製造販売業だけでなく様々な業種へ広がっているとの噂があり、公式には否定されているものの、一部メディアでは、ジョコウィ氏とその家族の石炭産業やその他鉱業とを関連づける記事も散見される。後述のように、ラカブ社をめぐっては、同社への出資企業を傘下に持つルフット・パンジャイタン(Luhut Binsar Panjaitan)海事投資調整大臣との関係を無視することはできない。
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