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[2023/05/22] ジャカルタ寸景(8):創業100年、老舗喫茶室のアイスコーヒー(横山裕一)
〜『よりどりインドネシア』第142号(2023年5月22日発行)所収〜
グロリア小路
ジャカルタ北部の華人街コタに100メートルにも満たない小規模だが華人屋台が密集する素敵な小路がある。グロリア小路がそれだ。華人街を南北に貫く大通り、ガジャマダ通りからグロドック地区のパンチョラン通りへと入る。昔ながらの漢方薬店の並びを過ぎるとグロリア小路のアーケードの入り口が見えてくる。
アーケードに一歩足を踏み入れただけで、途端に店のおじさんやおばさんから声をかけられる。
「何人前にする?」「ここに座りな」
雑踏の熱気ととともに店主たちの商魂の逞しさが伝わってくる。小路はかろうじて人がすれ違えるほどの狭さで、その両脇に中華料理の屋台が所狭しと並んでいる。屋台のショーケースには豚肉やソーセージがぶら下がり、ガラスには数種類の豚肉料理を盛り付けた「ナシチャンプル」や鶏がらスープで炊いた「ハイナンライス」などの文字が並ぶ。
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華人街特有の光景ではあるが、屋台ではミーアヤム(鶏肉ラーメン)も扱っているためか、ヒジャブを身につけたムスリム女性が食事をとる姿も見受けられる。こうした熱気に包まれた異空間のような小路の中程に、目的でもあるアイスコーヒーで有名な老舗の喫茶室がある。
「徳記茶室」(Kopi Es TAK KIE)
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喫茶室はグロリア小路に面した建物の1階にある。約10メートル四方の店内は白壁で12卓のテーブルが並ぶだけだが、座るとなぜか落ち着く空間である。店舗奥の厨房入口に「徳記茶室・Kopi Es TAK KIE」と漢字とアルファベットによる店名看板が掲げられている。1927年創業、約百年続く老舗喫茶室だ。創業者は中国から渡来したリオン・キーチョン氏で、現在の店舗近くでコーヒー屋台を開いたのが始まりである。
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(引用:https://www.kopiestakkie.com/)
店名の「徳記」は創業以来変わらず、時には出身地である中国・福建省の言葉を用いて「徳記戈丕室」(徳記コーヒー室)としていた時期もある。「徳記」には「賢明で素朴ながら人々に記憶される(店)」という意味が込められているという。
創業者の息子、チェン氏が2代目として引き継いだ時に店舗を現在の場所に移す。そして1976年、チェン氏の息子アヤウ氏ら3兄弟が3代目となり現在に至る。古い店内写真を見る限り、様子は現在とほとんど変わらない。このためか現在ではレトロな雰囲気も醸し出されている。
目玉メニューはアイスコーヒーで、ブラックとミルクコーヒーの二種類のみ。店によるとスマトラ島最南端のランプン州で採れた5種類のアラビカ種とロブスタ種のコーヒー豆をブレンドしているという。コーヒー特有のコクがある一方で、喉に苦味が残らないスッキリとした飲み口が特徴だ。コーヒーを入れたプラスチックのコップはどこにでもありそうな素朴なものだけに、かえって昔ながらのスタイルが踏襲されていることを窺わせる。
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店内はクーラーを使わず、数ヵ所に配した扇風機によって空気が適度に流れるため、汗が出ない程度のほどよく涼しい空間が保たれている。このためかここで飲むアイスコーヒーは、クーラーで冷えた室内で飲むよりもより清涼感を味わうことができる。暑い外で冷たさだけを味わうこととも異なり、ほどよく心地よい店内空間はアイスコーヒーの味と清涼感を同時に楽しめる演出が施されているかのようである。素朴ながら店内はまさに「徳記」の意味を体現しているようだ。
コーヒー以外にはグロリア小路の他の屋台同様、豚肉の焼豚や揚げたものなど数種類をご飯に乗せたナシチャンプルや鶏肉ラーメンなどもあり、朝食や昼食時には食堂のように大勢の客で賑わう。そして、客らのテーブルには注文した料理の脇にお決まりのようにアイスコーヒーが並ぶ。
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創業百年としてメディアにもたびたび取り上げられたこともあり、店舗の壁には芸能人や有名人が訪れた写真が並ぶ。現大統領ジョコウィの顔もある。ジャカルタ最初のデパートで新装したサリナデパート内をはじめ、今や支店も数店舗あるという。しかし、妙に落ち着き、くつろげる空間は歴史ある本店だけの特徴のようだ。
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