「500円シリーズ」と「プレ便」
宣伝である。
そして快挙である。
世界の中心で、快哉を叫ぶ。そんな気持ちである。
ついに、この宣伝が結実したのだ。いや、まだ結実してはいないが、結実しそうな、なんとなくそんな雰囲気だけ味わえているのだ。
先日、本宣伝の読者様から連絡をいただき「えー松井さん。〇〇〇な案件があるんですが、こういう案件はワンパブさんがいいと思いまして」と。mtgの打診をいただいたのだ。
全然この宣伝経由じゃないじゃん。そう思われるかもしれないが、私は「間違いなく本宣伝があったからこそのオファーだ」とこじつけたい。雨垂れ石を穿つ。雨垂れよりも無価値なこんな文字の羅列でも、続けることこそが大事なのだなぁ、と思った次第だ。
さて、で、恒例の宣伝だ。
ワンパブは、「500円でわかるシリーズ」というPC周りの情報を届ける超ロングセラーシリーズを持っている。PCムックシリーズ売上No.1という金字塔シリーズであり、そのテーマも多彩だ。
今年は、「500円でわかるZOOM」がスマッシュヒットを記録。「LINE」や「エクセル」「ウィンドウズ10」といったような、「わからないことがいっぱいある」ツールではないだけに、市場に受け入れられるか心配だったが、しっかりと売れているのだ。
肝は、「誰にでもわかりやすく」という姿勢だ。これは、「科学と学習」をメイン商材としていた学研に深く根付く、アイデンティティのようなものなのかもしれない。学研出身の我々にもしっかりと根付いている文化なのだ。
「難しいものを、嚙み砕いて伝える」
やはりこれは、編集者の腕の見せ所なのだ。顧客の求める内容を、顧客が最も飲み込みやすい表現に組みなおして、顧客が求める体裁でお届けする。当たり前のことに感じるかもしれないが、この考え方は、本作りだけではなく、いわゆるコミュニケーション全般に言えることだ。
プレゼンテーションなども同じこと。例えば、その分野では常識となっている専門用語でも、それ以外の分野に従事する者にとっては、初めて聞く言葉が多いもの。それをそのまま伝えてしまっては、相手にその言葉のの意味を理解してもらうのは難易度が高いだろう。わかりやすい説明がなければ理解はできないだろうし、理解してもらえなければ納得も得られるはずがない。
500円シリーズが、紙のムックという体裁ながら、今も多くの読者に支持されている理由がここにある。自分も500円シリーズ読みながら、「相手本位」のコミュニケーションを学んでいる。
さて、最後に、プレゼンテーションの話をしよう。これは、ちょっと自分でもどうかな、と思う話だ。実はFBに5年くらい前に書いている話であり、起こったものそのくらい前のこと。とても、恐ろしい話だ。
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5年ほど前、五反田時代の話である。
ある日曜の朝7時。
私は、その日の14時までに仕上げなければならないプレゼンテーション資料制作のため、出社していた。
日曜日の、こんな時間である。当然フロアには誰もいない。パワポの残りはあと数十枚。かなりしびれる進行だ。時間がない。
気合いを入れるべく、まずはお手洗いに向かい、個室に入った。朝の嗜みである。一通りの所作を終え、水を流したその瞬間。「ゴポッ……ギュギュゴープスーゥ」みたいな音がした。
こんな音は、聞いたことがない。
不穏な気配。
ふと見やれば、原因は全く分からないが「水位」が赤丸急上昇中なのである。
こ、これは……!
オーバーフロー目前。
フタをする? 否、そんなものでは抑えられない勢いで、水位はぐんぐんと上がっている。
完全になすすべなし。こんなに自分の無力さを感じたことはない。慌てようとどうしようと、もうできることはない。胸の前で手を合わせ、微笑みさえたたえながら、コトの推移と水位を見守ることにした。
ギリギリで止まるかもしれない。
そんな思いもあった。
一般的に、トイレが詰まったときは、そんな奇跡が起きがちである。それは、トイレメーカーの「リスクヘッジ」なのではないだろうか。「すっぽん(ラバーカップ)」のような商品がいまなお売られていることからもわかる通り、「詰まる」というのはありえる事態のだろう。想定外のものを流す輩はなくならない。
ならば、メーカーは、「詰まることはあるが、溢れない設計」というものをしているのではないだろうか。きっとそうだ。間違い。
そう思って念仏を唱えていたのだが。
ザバババババーーーーッ!
全然そんなことはなかったのだ!!
何事もなかったように(いや、大事が起きているのだが)、その水は、器の絶対防衛ラインを突破した。
オレ、終わった!
この後の床の惨状については、詳細な描写は避けなければいけない。
一言で言うなら、プレ便テーション。そんな感じだ。
とにかく私は1時間床掃除に明け暮れた。日曜の7時ということで、トイレに足を踏み入れる者がなかったのが不幸中の幸いである。
一時間かけて床の上を掃除し終えた。
が、問題は、まだ残っている。
器だ。
まだその器の中は、アルマゲドン状態。だが、こればっかりは自分の実力ではどうにもならない。私は意を決し、管理センターへと向かい、言った。
「あのー。トイレなんですけどね、なんだか詰まってるみたいですよー?」
「みたいですよー?」
この「みたい」という表現に、別の犯人の存在を匂わせてしまっている。匂わせているのはもっと別のものだというのに。自身の小ささがイヤになる。
時計の針は8時半を回っていた。
その後のプレゼン資料作成の記憶は、ない。そのプレゼン先のクライアント様とも、成約とはならなかった。顧客の求める内容を、顧客が最も飲み込みやすい表現に組みなおして、顧客が求める体裁でお届けする。
そんな余裕は、あの日の私には、なかった。
さて、9月になり、急に涼しくなりました。新型コロナウイルスに対する不安はまだまだぬぐえませんが、ワクチンの接種も進んでいることでしょう。
この秋以降、皆様とリアルにお会いできることを楽しみに、本稿を終わりにします。
世界一良い週末を!