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職業運転手を守るために

1:動ける人が動く時代へ

ここ数年『運転手不足』の問題がバスやタクシー、トラックなど自動車運転の職業の現場各所で噴出している。
確かに運賃収入以外の収入が見込みにくく、トラックの場合は運賃を上げにくく、旅客運送の場合は『総括原価方式』に基づく運賃設定+国交省の認可が必要…というビジネスモデル的に収入の劇的アップが難しい面があるが、果たしてそれだけなのか。

そもそもの話だが、(差別語としてマスメディアにはまず出ない禁忌語だが)時に『雲助』という俗語が差別の文脈で使用されたり、世間の目も運輸職に対して冷淡であり続け、あって当たり前の空気のような存在であり続けてきたのではないか。
コロナ禍の中では『エッセンシャルワーカー』としてちょっとだけ有り難がられていたが、根本にある蔑視的な扱いや『お客様は神様』の誤った利用により『お客様』のサンドバッグ・SNSなどによる攻撃対象にもなっている。
他の業種と比べて低い賃金、お客様は神様で問題があれば現場の責任という業界の管理者、そして第一線の労働者が使い捨てのコマ・管理者の盾とされ、見返りもかつてほどではない…
若い人がもっと割りの良い職種・職業に流れ、そうではない人達(例:人員整理で退職せざるを得なかった人、サラリーマンの世界に馴染めなかった人、就職氷河期に遭遇し割りの良い仕事に就けず今に至る人…)の『受け皿』『最後の行き場』化しているのが現在の運輸業界である。


例えばタクシーの場合。
(東京方面の事情に疎く下手なことは言えないのは百も承知だが)往々にして東京タクシーセンター(タクセン)やタクシー会社が『お客様は神様』という基本方針をなかなか変えないように思える。
タクセンは、元々は事業者向けに例えば乗り場の運用など、業界関係者の互助・サポートのためにある団体だったはずだが、タクセンが乗客や一般ドライバーにとって『水戸光圀の印籠』化しているのではないか。

これは地方でも似たような傾向にあるようにみえる。
『お客様は神様』という、管理者側にある基本の思想を改めるべき時期が来ているのではないかと以前も書かせてもらった。

労働者個々人がXやnoteなどで不満をぶちまけるのは十分にアリだし少しずつだが世論の変化を促していると思っているが、事ここに至った今、インターネット世論だけではなく、
・労働組合(全自交・自交総連や上部組織推薦の連合・全労連)
・使用者側の立場にある業界団体
・プラス労働組合、業界団体推薦の政治家(地方、国政問わず)
への働きかけや未組織の人たちを巻き込むための取り組みを行い、動ける人が今以上に動き、ロビー活動も含めてさらなる運動化を図り、将来的にマスメディアに対し働きかけることができる行動力が自分達に求められているのではないかと思う。

2:交通法令と運転職

約10年ほど自動車運転の仕事をやってきたが、その中で諸々トラブルを見聞きしたり不本意ながら自分で体験してした。
交通法規の条文や実際の運用でも二種免許保持者のメリットが、コロナ禍を経た今ではお客様から料金をいただいてお送りできる営業権くらいしかなくなっていると実感している。

あくまでも個人の意見だが、二種免許については
・事故時の法的な免責・責任軽減措置
・運行時の緊急車両に準じた優先通行権
・自動車保険における優遇措置
を与えるなどの法的保護も必要ではないかと思う。

また、乗客や第三者からの暴力行為や嫌がらせ・妨害行為に対する罰則強化も必要ではないか。
そこまでしないと二種免許ドライバーを守れない・旅客運送事業の衰退を止められない、と思う方も少なからずいらっしゃるだろう。


バスの場合は鉄道警察隊のような警察組織が抜き打ちで乗車し、運転士・バスガイドなど乗務員への暴力行為や業務妨害・他車両(自転車や電動キックボード含む)による運行妨害・他乗客への不法行為があった場合速やかに検挙・逮捕できるような態勢づくりも必要かと思っている。

(参考リンク)

3:地域の足を守るために

地方だと
・マイカー普及
・生活習慣の変化(夜の飲み会の減少、リモートワークや事業再編など社用族の利用減少…)
・インフレ
といった要因による『売上高の減少』が事業者に与える影響が大きいと思われる

そして『人手不足』は上に述べた事例にあるように
・売上減少→低賃金、不安定収入→副業や副収入なしで生活設計不可能
・職業ドライバーよりも一般ドライバーや歩行者・自転車寄りの道路法令
・旧い意識の事業主(お客様は神様、コトがあれば運転手が悪い、車を出せば客は増える…)
・ハラスメント対策の弱さ
が影響しているのではないかとみている

そして業界の全体的な傾向として、需要(お客様のご利用状況)と供給(タクシー:稼動台数、バス:運行ダイヤ)のバランスの変化に対応できてきたのか、という点を懸念している。
・需給の短期的な変動、中・長期的変化に対してどこまで対応できたのか
・収益の柱が他に確立できたのか
について、業界団体や管理者側は振り返って反省点や改善点を探るべきではないか。
コロナ禍前には戻らないし時代の変化を受け入れ、自己変革しなければ公共交通の未来は暗い。
ライドシェアのビジネスモデルについては個人的にも疑問を持っているが、需給の問題をクリアできる余地がまだ業界にはあると思う。

だが、明治維新以来政・官が公共交通網の整備に財界の力を借りざるを得なかった時代、そして今よりも乗り物に対する需要が高かった時代の成功体験から抜け出せなかったのではないか。

1980年代の『中曽根行革』以来の民間活用がここにきて限界値に近づきつつある今、三日月大造・滋賀県知事が考えている『交通税』構想など、公的資金を使い『公共の福祉』のために交通機関をバックアップし、交通機関の持続可能性を維持する時代が来ているとみるべきだろう。
ただ、ガソリン税や車検制度など一般の人々の税負担や保険料負担がインフレの中で重くなっていることを踏まえ、既存の税制を見直し、複雑化した諸税の簡素化・整理統合と合わせて交通税を検討していくべきではなかろうか。

4:交通手段の変化のマイナスの面について

先日拝読した宇沢弘文氏の著書『自動車の社会的費用』で触れられているが、かつての高度経済成長期の自動車の普及において自動車がもたらすマイナスの面(マクロ経済学でいう『外部不経済』=例:公害や交通事故、歩行者保護の問題…)が無視されてきた

2020年代の今は首都圏の一部や京阪神圏など都市部を除きほぼ車社会化しており、都市部ではレンタサイクル・シェアサイクルや電動キックボードなど手軽な乗り物の提供サービスが拡大しているが、自転車などは性能が向上しており、自己の技量を過信したユーザーによる危険行為・迷惑行為・法令違反の問題、新サービス提供事業者の責任負担についての問題も話題になっている。
これは『外部不経済』の典型例といえそうだ。
性能が向上した車両類は、道交法上の区分変更等で規制内容を改めるなど、安全性確保のため必要性が高い措置を取れるようにすべきだと思う。

時代の移り変わりや技術革新・性能向上を道路行政や法令が後追いする状況、その狭間で第一線の労働者の多くが苦境にあることだけでも皆さまにご理解いただけると幸いである。

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