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『非モテ』と『通俗道徳』について

人間の集団に生きる以上、他者から認められたい・褒められたい・愛されたい、という感情を持つのは自然なことかもしれない(後天的なものだとしても)。
ある人に恋愛感情を持ち、その相手から好意を持たれたい、恋愛対象として認められたい、将来的には家族になりたいと思うこともある。

だが、この世は『智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。』(夏目漱石『草枕』より)ものである。

子供の頃から
・運動が得意か
・しゃべくりが得意か
・ポジティブ/外向的な性格か
など、特定の人に人気が集まる過程で『選別』され零れ落ちていく人々は存在する。
零れ落ちた人々が『選ばれないのは努力不足/自己責任/自業自得だから自助努力でなんとかしろ』と突き放されることも日本ではありがちなことである。
誰かから適切な支援を受けられず、他の楽しみやストレス解消の手段を得ることなく悪意を拗らせてしまえば最悪『闇』に堕ちてしまう。

闇に堕ちた人々はそこでまた石を投げられる/嘲笑される/自業自得・自己責任だから放っておけ、で排除される…それでいいのか?とここ数年、特にCOVID19のパンデミックの推移を眺めていくうちに改めて思うようになった。

『(俗説的にいえば)モテる』、そして愛する伴侶を見つけるための努力をしたくても、例えば経済面で苦しくそれができない、そういう余裕がなくなっている人々が増えている。
それどころか、勤めている業界自体が大規模な景気後退や産業構造の変化で衰退局面に入り、高収入ましてや安定した収入も見込めず、最悪の場合失業せざるを得なくなることも起こりうる。
それを『努力すれば報われる・報われないのは努力不足』という『通俗道徳』のロジックで切り捨てることが果たして社会の持続可能性の面で健全と言えるのか。

『通俗道徳』については、
『生きづらい明治社会(松沢裕作)』
が入手しやすく読みやすいのでご一読をお勧めする。
他にも安丸良夫氏も『日本の近代化と民衆思想』などで言及しているが、安丸氏の著書は時間などの余裕があればご一読いただきたい。

https://www.amazon.co.jp/%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A5%E3%82%89%E3%81%84%E6%98%8E%E6%B2%BB%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E2%80%95%E2%80%95%E4%B8%8D%E5%AE%89%E3%81%A8%E7%AB%B6%E4%BA%89%E3%81%AE%E6%99%82%E4%BB%A3-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%A2%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%9D%BE%E6%B2%A2-%E8%A3%95%E4%BD%9C/dp/4005008836


https://hbol.jp/218675
 にある
フリー記者・相澤冬樹さんの指摘を改めて引用しておく。
『この国は完璧なほどに『集団に所属する夫と専業主婦の妻による核家族』のみに最適化されて制度設計されてるからそこから外れてる者どもにはキビシイ社会なのだ。』
『男を戦場に駆り立てるための戦時体制は、戦後もビジネス戦場に駆り立てるための仕組みとして残り、女性はいずれも「銃後の守り」の専業主婦と位置づけられた。 …「集団に所属する」ことのメリットが、今なお最大限図られている。』

以前から個人的に思っていることだが、性別に関係なく、例えば
・中小零細企業勤め
・低賃金職種
・学校や職場などで異性の人気が低い趣味のグループ
で、異なる集団との交流が少ないグループも、本邦の制度設計から外れている人々ではなかろうか。

13世紀を源流とする武家社会を模範として形成されてきたと考えると腑に落ちるであろう、現代日本の諸制度やジェンダーロール(性別による社会的規範)が、『男は仕事・女は家庭』という基本大綱を揺るがない・未来永劫不変のものとしている限り、また、この基本大綱に沿わない人を選別して自分たちのムラ社会(コミュニティ)から排除し、就職や昇進の過程で排除していくことを続ける限り、私たちが『非モテ』をこじらせることからくる不幸を終わらせるきっかけを作ることはできないのではないか。

『人を…「ウチ」の人間なのか「ソト」の人間なのかという分け方をして、もっぱら付き合うのは「ウチ」の者に限定するような傾向がある。そのため相手と自分の同じところばかりを探し、その微妙な違いはなかなか視野に入ってこない』という日本人の悪癖。
例えば収入が安定し失業の不安がなくパンデミックの影響も少なかった集団が自分たちと住んでいる世界が違う「ソト」に対して想像力を働かせない/働かせる必要もなく済んでいることが、より『分裂』を深刻化させ、実質的な身分社会化しつつあるという危機感だけは持っておきたい。

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