食で稼げる人になる!
~高知大学土佐FBCの取り組みと食Pro.レベル6の役割~
高知大学(本部・高知市)の土佐フードビジネスクリエーター人材創出事業(土佐FBC)は、食品に関する生産・加工・流通・販売を総合的につなげることができる専門人材を育成することを目的に、高知県の産学官が連携し、主に県内の社会人向けに専門教育プログラムを提供している。2008年度にスタートし、現在17年目。この16年間で延べ757人の人材を輩出している。
土佐FBCの教育プログラムは本科、入門、部分受講、イノベーション創出基礎という四つのコースを設けている。このうち、メインの本科コースは「食品学」「品質管理」「マーケティング」「食品ビジネス」について、計96時間を1年で履修し、商品開発や分析・品質管理などの技術業務を担えるスキルと考え方を身に付けてもらう。「食の6次産業化プロデューサー(食Pro.)」制度のレベル1~3にも対応したプログラムである。
◇土佐FBCが目指す人材像と将来ビジョン
土佐FBCは、これまでに多くの人材を輩出してきた。食品の教育専門機関として育成する人材像は、「食の分野で地域を良くするという高い志を持ち、単にものづくり・もの売りができるだけでなく、生産者・販売者・消費者すべてに利益を配分できる人材」である。そのために食品加工(2次産業)を中心に、農林水産業(1次産業)、流通・販売業(3次産業)など食品産業全体を理解した上で、それぞれの利害関係を調整し、協力・連携(コラボレーション)させることで、新たな商品・ビジネスモデルを創造できる人材「フードビジネスクリエーター」の育成を目指している。
また、土佐FBCは「食で稼げる人になる!」というキャッチフレーズを掲げているが、そこに込めた思いを紹介する。「稼ぐ」という言葉は、一般的には一生懸命に働き、お金を得るという意味である。しかし「稼」という字は、「家に禾(穀物)」という成り立ちから、「家」は高知県(高知県のキャッチフレーズは「高知家・高知県はひとつの大家族」)、「穀物」は人や地域にとって必要なもの・ことだと考えている。
すなわち「稼げる人になる」とは、地域に貢献する人になるという「志」の意味が込められている。土佐FBCの本科コース受講生には、修了時にバッジが授与される。このバッジのマークは、FBCの文字を用いて「人」と「志」を表している。
このように土佐FBCでは、高い志を持ち、地域に貢献できる人材を輩出するために、教育だけでなく、さまざまなサポートを行っている。具体的には受講期間中に限らず、修了後も修了生同士の交流会や定期的な勉強会を開催するとともに、教員への相談を随時受け付けている。最大の強みは、修了生および教員・専門家のネットワークを生かし、受講生・修了生が夢(地域貢献ビジネス)を実現できることである。
実際に、土佐FBCでは数多くの商品開発や品質改善をサポートしている。土佐FBCの受講を契機とした商品の売上総額は、22年度で13.2億円に上る。08~22年度の累計では77.1億円を超え、その経済波及効果を加えると124億円規模に達する。
◇食Pro.レベル6の第1号として
私は、土佐FBCが生まれた背景・経緯を知る者として、土佐FBCに対して特別な思いを持っている。それは私が民間シンクタンクの研究員時代、土佐FBCが始まる3年前にさかのぼる。
経済産業省四国経済産業局の委託業務で、高知県の南国市・香美市・香南市をモデル地域に、農産物の高付加価値化と食品産業の振興を図るための方策を2年間、研究した。その成果の一つとして、07年度に産官学の連携を深めるための「高知県食料産業クラスター協議会」が立ち上がり、翌08年度には人材育成のための教育プログラム「土佐FBC」が始まったのである。
私も食品産業の振興と人材育成の必要性を感じ、07年に研究員を辞め、「食品のプロ」を目指すために食品コンサルタント会社を立ち上げ、主に高知県内をフィールドとして、食品開発に関する知識を磨き、経験を積んだ。その結果、15年度に当時は食Pro.段位の最高位だったレベル5の認定を受け、翌16年度から食Pro.レベル2を取得できる教育機関となった土佐FBCの非常勤講師として教壇に立つこととなった。
18年度からは、食Pro.レベル3の教育機関となった土佐FBCの特任講師として運営面にも関わるようになり、受講生のリクルートや複数の講義を担当するとともに、6年間でレベル3(主に社会人)31人、レベル4(プロ級人材)1人の認定申請をサポートしてきた。
食品産業の振興という面においては、受講生・修了生からの商品開発などに関する相談に積極的に応じ、その成果として生まれた商品の売り上げは、前述のように22年度で13.2億円と、私が土佐FBCに関わるようになった16年度(4.2億円)と比較して3倍以上の実績を挙げることができた。19年度には、土佐FBCとして多くの人材を育成していることなどが評価され、食Pro.段位における現在の最高位であるレベル6の第1号に認定された。
このように、私が食品ビジネスの専門家として独立・起業したのは土佐FBCの影響が大きく、私の成長は土佐FBCのおかげであると言っても過言ではない。今後はその恩を返すため、以下に示す新たな目標を掲げ、自身の行動・取り組みが土佐FBCの成長と食品産業の振興および人材育成につながるよう、引き続き努力していきたい。
【新たな目標】
1.模範となる人物になるため、高い志と理念、新たなビジョンを持って活動する
2.地域に根差す土佐FBCになるため、公開講座・相談会などを開催する
3.土佐FBCの波及的な効果をさらに高めるため、修了生の交流機会を増やす
4.土佐FBCの次世代および後任の講師育成に取り組む
5.新たな事業として、土佐FBCの海外展開(特に新興国)を目指す
時事通信社 デジタル農業情報誌「Agrio(アグリオ)」寄稿文
~食農から更なる連携を講じる地域社会の未来図と人材の重要性~
松田 高政(まつだ たかまさ)
1972年高知県生まれ。株式会社こうち暮らしの楽校(がっこう)代表取締役として、食品コンサルティング・研修事業を手掛ける。現在は高知大学土佐FBC特任准教授も務め、人材育成と実務者支援の二足のわらじを履く。食Pro.レベル6。
⇒自己紹介「はじめまして、松田高政です。」