第6回:商品の価格・事業の損益分岐点を計算できるか?
みなさま、こんにちは。
食の6次産業化プロデューサーの松田高政です。
特別講座「新たな時代に新商品・サービスを生み出す能力とは(全11回)」の第6回目のテーマは、「商品の価格・事業の損益分岐点を計算できるか?」です。
皆さんは、自分の商品またはサービスの価格をどのように計算して決めているでしょうか。私は商品の価格設定が経営の生命線だと思っています。
自分の商品が1個売れたら何円の利益が残るのか。そして、その事業を1年間行う上で一体いくら売り上げがないと黒字にならないのか。このことを、商品を販売する前から事前に把握し、黒字になるための損益分岐点売上高と経常利益の目標を設定しなければなりません。
どんぶり勘定で売上・利益目標がない経営は、経営とは言えません。
では、商品の価格・事業の損益分岐点をどのように計算するか。具体的な手法と事例を見てみましょう。
問題:商品の価格・事業の損益分岐点を計算できるか?
【問いかけ】
取組や活動、商品やサービスの適正価格、事業の損益分岐点売上高をどのような方法で計算するか。
理論と手法を学ぶ
【理論・手法】
新たに商品・サービスを開発する場合は、事業の収益性・規模感を事前に把握するために、損益分岐点分析による収支シミュレーションを行うことが理想的です。
そのためには、商品に直接関わる直接経費が製造原価であり連動費であることと、商品に直接関わらない間接経費(諸経費)が固定費であることを理解した上で、事業として利益がでるために、価格設定や製造原価コストの削減、製品の固定費算出(商品アイテムが複数の場合は案分計算)などを検討しなければなりません。
◇損益分岐点売上高の算出方法
①原価率=変動費(製造原価)÷売上高(販売価格)
②粗利益率=(1-原価率)
③損益分岐点売上高=固定費÷粗利益率
損益分岐点売上高=固定費÷粗利益率(1-原価率(変動費÷売上高))
固定費が300万円、原価率が0.4(40%)の場合
損益分岐点売上高=300万÷0.6=500万円
となります。
次に、商品の販売価格の決め方ですが、商品には家庭用(小売店等)と業務用があり、家庭用は希望小売価格とお店に卸す卸価格を設定する必要があります(業務用は卸価格のみ)。
また、商品を送る際の送料は卸価格に含めるのが理想です。
まずは、卸価格を決めるためには、損益分岐点売上高の算出に用いた、製造原価(変動費)と諸経費(固定費)について、仮に商品を1,000個作ったときの製造原価(原材料費・人件費・包材費・諸経費)を積み上げて1個当たりの製造原価を把握する必要があります。
図:原価計算シート
その製造原価に自社の利益を含めて、卸価格が決まり、さらに流通マージンを加味して、希望小売価格が決まります。
(計算例)
製造原価(諸経費含む)÷(1-利益率20%)=卸価格
300円÷0.8=375円
卸価格÷(1-値入率40%)=小売価格
375円÷0.6=625円
注)値入率(マージン)は販路によって違う
直接取引(30~40%)
帳合取引(40~50%:卸10~20・小売30)
実際の事例・経験談から学ぶ
写真:のむジュレ
【実際の事例】
原料代・人件費・包装資材など、毎日の製造記録にコスト面も記録しているため、年間の製造コスト・原価(流動費)の設定・検証が正確に行われていました。
原料の果汁で利益を上乗せ(一次加工)、さらに最終製品に対しても利益を乗せる形で、2重で利益を含め卸価格を設定し販売しました。
損益分岐点に関係する固定費は製造アイテムが多いため、直近の決算報告書(損益計算書)の固定比率を採用し、その固定費を商品アイテムの売上比率で案分して、商品1個あたり固定費を算出しました。
加工部門の利益率は秘守義務のためオープンにできませんが、食品業界の平均値程度となっています。
その結果、自社の利益率を確保しつつ、流通マージンにも配慮し、商品1個当たりの販売価格は250円程度(消費税別)に設定しました。
また、卸価格は希望小売価格の60%程度、問屋・商社10~15%・小売店25~30%の値入・マージンを想定して設定しました。
結果的には、小売店の流通マージンだけでなく、問屋・商社の流通マージンも配慮して卸価格を設定したことで、小売店との直接取引だけでなく、問屋・商社との取引も増えて、全国に流通できるようになり、販売開始1年目で10万個の販売を達成することができました。
もし、できるだけ安く売りたいと販売価格を下げて、卸価格を販売価格の70%程度に設定したら、おそらく県内流通と直接取引可能な小規模店舗くらいの取引にとどまり、損益分岐点売上高は達成できていなかったでしょう。
◇参考:販売場所・流通形態別流通マージン(例)
販売場所・流通形態によって価値・価格が違うことも意識する。上代(販売価格)は同じでも下代(卸価格=生産者の手取り)は所によって変わる。
例えば、販売価格1000円のお菓子を作るとして
直販所:手数料15%(委託)・手取り850円(地元で1000円のお菓子が売れるか)
道の駅:手数料20%(委託)・手取り800円
県内量販店:マージン30%(買取)・卸価格700円
県内土産店:マージン35%(買取)・卸価格650円
県外百貨店:マージン40%(買取)・卸価格600円(間に帳合・卸が入る)
その他サービスエリア等:マージン50%(買取)・卸価格500円(50%で利益が出るか)
*掛け率60%・卸価格600円に抑えないと県外流通は難しい。
出口をはじめから想定して価格設定、販売場所別利益ミックスで収支計画を立てる。
まとめ
以上、第6回目の「商品の価格・事業の損益分岐点を計算できるか?」はいかがだったでしょうか。
商品の価格を決める際の製造原価は、実際、製造した時の費用を正確に記録に残し、1円単位で把握する必要があります。
また、目標となる損益分岐点売上高を実際の原価率・固定費で計算できたとしても、卸価格と希望小売価格の差額である流通マージンの比率を考慮しなければ、小売店も問屋・商社も相手にしてくれません。いくら商品が良くても全国流通したければ、そのために流通マージンが経費として必要なのです。
逆に言えば、流通マージンの比率によって、流通範囲・市場規模も決まります。後から全国流通したいので、値段を上げる、卸価格を下げることは計画性のない戦略と言わざるを得ません。みなさん、価格設定は事業・経営の生命線ですので、計画的かつ慎重に決めましょう!
次回、第7回は、「商品の多角化のために最適な方法を選択できるか?」です。お楽しみに!
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