FANG+銘柄 Netflix( $NFLX ) 2024Q3
今更決算分析シリーズ。今回はNetflix
決算の内容とその後の株価の反応
Netflixの2024年第3四半期決算が発表されると、株価が急上昇した。発表直後の10月17日には、株価が11%も上がり、終値は763.89ドルを記録。取引中には過去最高値の766.28ドルに到達する場面もあった。
各種ニュースを見ると、この株価の高騰を後押ししたのは、以下の材料をマーケットが良しと判断したと言えそうだ。
1. 業績の絶好調ぶり
売上高は前年同期比15%増の98.2億ドルに到達。さらに、純利益は45%増の23.6億ドルと圧倒的な成長を見せた。これだけ数字が好調だと、投資家が飛びつくのも無理はない。
2. 加入者数が予想以上の伸び
新規加入者が510万人増加し、総加入者数は2億8,270万人に達した。例えるなら、日本全人口の2倍以上がNetflixに加入している規模だ。このペースは市場予測を上回り、Netflixの成長力を再確認させた。
3. 広告事業の快進撃
広告付きプランの加入者が四半期ごとに35%増加しており、広告収入がさらに伸びる期待が高まっている。例えば、テレビの視聴者がネット動画に流れる現象を捉えた格好だ。
4. ライブコンテンツの成功
マイク・タイソンとジェイク・ポールのボクシング試合など、注目を集めたライブイベントが視聴者数を押し上げた。スポーツやライブイベントへの進出が新たな収益源として定着しつつある。
これらの要素が投資家心理を強気にし、Netflixの株価を押し上げた要因といえるだろう。特に業績や加入者数の拡大は、他の競合を大きくリードする結果となった。
アナリスト予想も軒並みビートしており、力強い決算だったことがわかる。
Netflixの戦略
ここでNetflixの戦略を基本的な部分からおさらいしよう。ストリーミング業界での競争力を維持・強化するため、以下の主要な事業戦略を展開している。
1. コンテンツ戦略
オリジナルコンテンツの制作: Netflixは独自の映画やドラマを制作し、他社との差別化を図っています。これにより、ユーザーはNetflixでしか視聴できない魅力的な作品を楽しむことができる。
ローカルコンテンツの強化: 各国・地域の文化や視聴者の嗜好に合わせた作品を制作・配信することで、グローバルなユーザーベースを拡大している。例えば、韓国発の「イカゲーム」やスペインの「ペーパー・ハウス」などが世界的な人気を博した。
2. 価格戦略
サブスクリプションモデル: 月額料金で多様なコンテンツを視聴できるサブスクリプションモデルを採用し、安定した収益基盤を築いている。
広告付きプランの導入: 価格に敏感なユーザー層を取り込むため、広告付きの低価格プランを提供している。これにより、新たな収益源を確保するとともに、ユーザーの選択肢を広げている。
3. 技術戦略
データ分析の活用: 視聴履歴やユーザーの行動データを分析し、個々のユーザーに最適化されたコンテンツを推薦することで、視聴体験を向上させている。
ユーザーインターフェースの最適化: 使いやすいインターフェースを提供し、ユーザーが求めるコンテンツに迅速にアクセスできるよう工夫している。
4. 新規事業への参入
ゲーム市場への進出: エンターテインメントの多角化を図るため、モバイルゲームの提供を開始し、ユーザーのエンゲージメントを高めている。
ライブコンテンツの配信: スポーツイベントやリアリティ番組などのライブ配信を行い、リアルタイムでの視聴体験を提供しています。例えば、マイク・タイソン対ジェイク・ポールのボクシングマッチや、クリスマスデーのNFLゲームなどを配信した。
5. 市場戦略
パスワード共有の取り締まり: 収益性向上のため、アカウントの不正共有を防止する施策を導入し、新たな有料会員の獲得を目指している。
新興市場への拡大: アジアや南米などの新興市場でのプレゼンスを強化し、グローバルな成長を追求している。
決算詳細
決算資料はこちら。
https://ir.netflix.net/financials/quarterly-earnings/default.aspx
NetflixのQ3 2024決算をより詳しく解説します。以下では各セクションの背景や重要ポイントを深掘りし、初めて読む人にも理解しやすい形で整理しました。
1. 決算のハイライト
売上成長
売上高は前年同期比で15%増の98.2億ドル(為替影響を除くと21%増)。
主要な収益ドライバーは平均会員数の15%増加。新規加入者が520万人増加した一方で、1会員あたりの平均収益(ARM)は前年とほぼ横ばい(為替影響を除けば5%増)。
背景: 有料会員数の増加は「アカウント共有有料化」の成功が大きいと考えられる。この施策により、家族や友人間で共有されていたアカウントが独立した有料アカウントへと移行した。
利益率の改善
営業利益率が30%に達し、前年同期(22%)から大幅に改善。
要因: 売上高の増加に加え、コンテンツ制作コストがコントロールされ、営業経費が効率化されたことが寄与。
EPSの大幅成長
1株当たり利益(EPS)は5.40ドルで、前年同期の3.73ドルから45%の増加。
背景: 営業利益の拡大と財務コストの最適化によるもの。
2. 地域別パフォーマンス
APAC(アジア太平洋)
売上成長率: 19%増(地域トップ)。
ドライバー: 日本、韓国、インド、タイでのローカルコンテンツの成功が牽引。
例: 日本の「Tokyo Swindlers」、韓国の「Culinary Class Wars」が視聴者に高評価。
補足: APAC市場はまだ成熟段階にあり、収益成長の余地が大きい。特に、モバイル中心の視聴傾向に対応した価格プランが機能している。
EMEA(欧州・中東・アフリカ)
売上成長率: 16%増。
注目点: 地域ごとに異なる市場環境に合わせたコンテンツが成長を支えた。
例: 「The Crown」など高評価のシリーズが会員数増加を促進。
LATAM(中南米)
売上成長率: 9%増。
背景: 価格改定により一時的に会員数が減少したが、Q4には回復傾向。
挑戦: コンテンツの多様性が他地域に比べやや不足している点。
UCAN(北米)
売上成長率: 16%増。
収益ドライバー: ARM(1会員あたりの平均収益)が5%増加。これは広告付きプランと価格改定の影響。
3. 広告事業の進捗
広告付きプラン
広告付きプランの会員数が前四半期比35%増加し、対象国では新規加入の50%以上を占める。
意義: より安価なプランを提供することで、価格感度の高い顧客層を取り込む。
広告収益の課題
現状: 広告在庫(広告枠)は急速に拡大しているものの、収益化(広告単価)が追いついていない。
展望: 2025年までに広告事業の基盤を構築し、長期的に主要収益源とする計画。
具体的施策:
自社広告技術基盤(AdTech)の開発を進行中(2024年Q4にカナダでテスト開始予定)。
大手広告代理店との契約締結で、広告販売の前進(前年比150%以上の増加)。
4. コンテンツ戦略と視聴者エンゲージメント
コンテンツの多様性
新規投入作品: 「The Perfect Couple」「Tokyo Swindlers」など、多文化・多地域に対応したコンテンツが成功。
ライブイベント: NFLクリスマスデー試合やマイク・タイソンvsジェイク・ポールのボクシングイベントも提供。
補足: Netflixの競争力の鍵は「質と量の両立」。多様な視聴者層に応える幅広い作品が強み。
エンゲージメント
ユーザー1人あたり平均視聴時間は1日2時間。
注目点: 有料アカウント共有施策により、一部アカウントで視聴時間が減少したものの、全体としては堅調なトレンド。
5. 財務面の強化
フリーキャッシュフロー(FCF)
前年同期比16%増の22億ドル。
意義: FCFの増加により、債務返済や株主還元の余力が拡大。
株主還元
自社株買いを1.7億ドル実施。残り3.1億ドルの枠あり。
資金調達
初の投資適格格付けで債券を発行し、18億ドルを調達。
背景: 新たな債務で古い債務をリファイナンスし、金利負担を最適化。
6. 将来の見通しと戦略
Q4 2024
売上成長率15%、営業利益率22%を予測。
主力コンテンツには「イカゲーム シーズン2」や「Outer Banks S4」を予定。
2025年以降
売上成長率11%-13%、営業利益率28%を目標。
新規事業として広告とゲームを成長分野に設定。
用語の詳しい解説
ARM(Average Revenue per Membership): 1会員あたりの平均収益。Netflixの収益性を測る重要指標であり、プラン価格や広告の影響を反映します。
FCF(Free Cash Flow): 営業活動によるキャッシュフローから設備投資を差し引いたもので、企業のキャッシュ創出能力を示します。
AdTech(広告技術基盤): 広告の配信と計測を効率化する技術。これにより広告主がターゲット層に正確にリーチできる。
Netflixは、競争激化が進むストリーミング市場で引き続き独自の地位を確立しています。今回の決算は、コンテンツ戦略の成功と広告事業の可能性が示された重要な四半期だった。
決算での質疑応答
トランスクリプトはこちら
1. 投資優先事項と2025年以降の計画
質問
2025年以降の投資優先事項は何か?それは過去12〜18か月でどのように進化したか?
回答(Ted Sarandos, Co-CEO)
成長実績:
2024年には計画通りの成長を達成。売上高15%増、営業利益率6%増。
平均視聴時間は1日2時間。視聴時間が多いほど会員満足度が向上し、解約率が低下する。
2025年の重点項目:
人気シリーズ(「Wednesday」「Squid Game」など)の新シーズン。
グローバルな視聴者向けに50以上の国でオリジナルコンテンツを制作。
解説
視聴時間の増加は、Netflixの収益基盤を支える重要な指標。人気シリーズと地域特化コンテンツが、会員獲得と解約防止に寄与している。
2. 広告事業の展望
質問
広告事業を主要な収益源にするには、どのような取り組みが必要か?
回答(Greg Peters, Co-CEO)
優先事項:
広告付きプランの会員基盤拡大。
広告主にとって魅力的なプラットフォームの構築。
進捗状況:
広告付きプランが新規加入者の50%以上を占める。
広告収益は前年比で約2倍に成長。
課題:
広告在庫の拡大スピードに対して収益化が遅れている。
解説
広告付きプランは、価格に敏感な層をターゲットに成功を収めている。長期的には広告が収益の柱となる見込み。
3. ラテンアメリカ市場の動向
質問
Q3でのラテンアメリカの会員減少の要因と、回復の見通しは?
回答(Spencer Neumann, CFO)
原因: 一部市場での価格改定が短期的な会員減少を招いた。
回復の兆候: 第4四半期初頭には会員数が回復傾向。
注目コンテンツ:
ブラジルの「Senna」、コロンビアの「百年の孤独」などが人気を後押し。
解説
価格改定による影響は短期的だが、地域特化型コンテンツが長期的な成長を支える。
4. ハリウッドのストライキが与えた影響
質問
ハリウッドのストライキが2024年の作品スケジュールに与えた影響は?
回答(Ted Sarandos, Co-CEO)
影響: 人気作品の公開が遅れ、上半期のスケジュールが不安定化。
回復: Q4からラインナップが正常化、2025年には完全復帰を見込む。
解説
ストライキの影響は主に北米市場に限定されたが、人気シリーズの新作で回復を図る。
5. 広告付きプランの価格設定と展望
質問
広告付きプランの価格設定や基本プランの廃止について、どう考えているか?
回答(Greg Peters, Co-CEO)
価格戦略:
価格設定は競合ではなく、Netflixの価値提供に基づく。
広告付きプランは低価格でアクセス性を向上。
進捗状況:
一部地域で基本プランを廃止し、広告付きプランへの移行を促進。
解説
広告付きプランの成功が、会員増加と収益多様化に寄与。
6. コンテンツとエンゲージメント
質問
エンゲージメント(視聴時間)が伸び悩む中、成長の見込みは?
回答(Ted Sarandos, Co-CEO)
視聴時間の現状: 視聴時間は1日2時間と健全。
ライブコンテンツの役割:
「Tyson-Paulの試合」「NFLクリスマスゲーム」などのライブイベントを強化。
ライブ配信はエンゲージメントの新たな柱となる可能性。
解説
ライブコンテンツは、従来のオンデマンド視聴を補完し、新たなエンゲージメントを創出する戦略。
7. 資本配分とフリーキャッシュフロー
質問
今後のフリーキャッシュフローの使い道は?
回答(Spencer Neumann, CFO)
資本配分の優先順位
優先順位:
事業への再投資による成長。
必要な流動性の維持(最低数十億ドルの現金を確保)。
余剰資金を株主に還元(自社株買い)。
追加措置:
$1.8Bの投資適格債を発行し、2025年の償還予定債務を再調達。
追加流動性として$3Bのリボルビングローンを確保。
解説
Netflixはバランスシートの柔軟性を重視しつつ、長期的な収益成長を促進する戦略を採用している。
8. YouTubeとの競争とAIの役割
質問
YouTubeの成長やAIの台頭がNetflixに与える影響は?
回答(Ted Sarandos, Co-CEO)
YouTubeとの競争:
YouTubeは視聴時間の競争相手だが、Netflixはプレミアムコンテンツに特化。
トレーラーをYouTubeに公開することでNetflixの視聴を促進。
AIの役割:
AIは「より良い作品を作る」ために役立つツールとして可能性がある。
制作コスト削減よりも、作品の質向上を重視。
解説
AIやYouTubeは競争要因である一方、補完的な役割も果たし得る。Netflixは高品質コンテンツに注力する姿勢を貫いている。
9. タレントの報酬構造
質問
タレントへの報酬を成果ベースに移行する予定はあるか?
回答(Ted Sarandos, Co-CEO)
現在のモデル:
Netflixは先払い報酬モデルを採用。これはクリエイターにとってリスクを軽減し、制作に集中できるメリットがある。
将来の方向性:
特定の契約では柔軟な成果報酬モデルを採用する可能性があるが、基本的な報酬方針は変更しない。
解説
現行の先払いモデルが、トップタレントを惹きつけるNetflixの競争力の一つになっている。
10. プランと価格戦略の進化
質問
価格やプランの調整について、どのように考えているか?
回答(Greg Peters, Co-CEO)
価格調整:
日本や欧州の一部地域で価格引き上げを実施。結果は期待通り。
広告付きプランの維持:
$6.99の価格でHD、ダウンロード、2ストリーム視聴を提供し、低価格層をターゲット。
解説
Netflixは顧客に提供する価値に基づいた価格設定を重視しており、収益とエンゲージメントのバランスを取る戦略。
11. 将来的なバンドル戦略
質問
Netflixが他のストリーミングサービスとバンドルを組む可能性は?
回答(Ted Sarandos, Co-CEO)
現在の方針:
Netflixは単独のパッケージで価値を高めることに集中している。
他社とのバンドルよりも、ゲームやライブイベントを通じたエンターテインメント価値の強化に注力。
解説
Netflixは他社と異なり、単一プラットフォームでの包括的なエンターテインメント体験を提供することで競争力を保っている。
投資を検討する上で今後確認したいポイント
Netflixへの投資を検討する際に確認すべきポイントを優先度順に整理した。それぞれがNetflixの成長や収益性にどの程度影響を与えるかを基準にしている。
優先度1: 広告事業の成長と収益化
なぜ重要か:
広告付きプランはNetflixの収益構造を多様化する大きな柱。特に広告収益の成長速度が全体の売上に与える影響は無視できない。
注視すべき点:
広告付きプランの利用者数: 新規加入者の50%以上を占めると言われているが、成長の持続性は?
広告在庫の収益化状況: CPM(千インプレッションあたりの広告費)が十分に高水準で推移しているか?
独自広告プラットフォームの展開: カナダを皮切りに開始された広告技術の効果とグローバル展開の進捗。
優先度2: コンテンツ戦略の成功
なぜ重要か:
Netflixの競争優位性の中心は、他にはない高品質なオリジナルコンテンツ。視聴者エンゲージメントや解約率に直接影響する。
注視すべき点:
人気シリーズや映画の続編: 「Squid Game」や「Stranger Things」などのヒット作が視聴時間や新規加入にどの程度寄与するか。
地域特化型コンテンツ: APACやLATAMなどの新興市場向けに制作されたローカルコンテンツの成果。
制作コスト管理: コンテンツ制作費用のコントロールが収益性を圧迫していないか。
優先度3: サブスクプランと価格戦略
なぜ重要か:
プランと価格の調整は、顧客層の維持・拡大に直結。収益性と市場競争力のバランスが問われる。
注視すべき点:
価格改定の影響: 一部地域での価格引き上げが加入者数やARM(1会員あたりの平均収益)にどう影響しているか。
広告付きプランと通常プランのシフト: 基本プラン廃止の動きが、どの程度広告付きプランへの移行を促進しているか。
優先度4: 地域別パフォーマンス
なぜ重要か:
APACやLATAMなど、未成熟な市場はNetflixの今後の成長余地が大きい地域。
注視すべき点:
ラテンアメリカ市場の回復: 価格改定の影響を受けた市場での回復状況。
APAC市場の拡大: ローカル作品の成功と収益寄与の度合い。
優先度5: フリーキャッシュフローと資本配分
なぜ重要か:
安定したキャッシュフローと株主還元が、株式の魅力を大きく左右する。
注視すべき点:
キャッシュフローの使い道: 自社株買いや債務返済にどう配分されているか。
投資適格債発行の活用: 新たな資金調達が成長投資にどのように活用されるか。
優先度6: 新規事業の進展(ゲームとライブコンテンツ)
なぜ重要か:
ゲームやライブイベントは、従来のストリーミング事業を補完し、エンゲージメントを高める可能性がある。
注視すべき点:
ゲーム事業の収益化: 利用率やユーザーのエンゲージメントが収益にどう反映されているか。
ライブコンテンツの普及: NFLやボクシングイベントのようなライブ配信が新規会員獲得に寄与しているか。
優先度7: 外部要因の影響(競争と規制)
なぜ重要か:
YouTubeやDisney+といった競合の動き、AI技術や規制の変化がNetflixの戦略に影響を与える。
注視すべき点:
競合他社との視聴時間シェア: YouTubeや他ストリーミングサービスとの競争状況。
AI技術の活用: コンテンツ制作やおすすめアルゴリズムでの活用進展。
特に広告事業とコンテンツ戦略の進展が短期的な焦点であり、フリーキャッシュフローや地域別パフォーマンスは中長期的な成長の基盤を構築する観点から重要になる。