「やさぐれ魔法の王女様」 13、それぞれの思惑
次の日、ニュースは大々的にカレンの魔法の伝授成功を伝えたのと同時に、カレンに与えた魔法が強力なモノを与えたと報じた。それにより一時的にカレンは副作用に苦しむことになり、しばらくの間安静を取る必要があると国民に説明がされた。
カレン
「もちろんでたらめである。おじいさまが流した嘘の物語。隠ぺい工作」
カレンは自室でお茶を飲みながら新聞を広げてユイとクロムに話していた。
クロム
「・・・つまりカレンの突拍子もないわがままで父上のご機嫌を損ねた。その罰が決まるのを待っているってことでしょ?」
カレン
「ええ、そういうことよ。一応父上は国王。だから高官に対しても自分は嘘をついていないということを証明しなければならない。私に罰を与えれば少なくとも自分の娘を守ったって言う私的な理由を弾くことにはなるかもね」
ユイ
「弾けませんけどね、でもそれが〝けじめ〟ってやつになるんですかね」
クロム
「それにしたって私が凄いなって思ったのはおじい様だよ。そうでしょ?いくらでもでっちあげることは出来るじゃないの。カレンと私たちが国家転覆を企てて魔法の儀式を壊したーとかの理由にするとか出来たはずじゃん」
カレンの素行を考えれば自然なストーリーを作ることだって出来る。わがままなはねっ帰りの世間知らずの娘が一国の王に歯向かったとしたら国民も納得するだろう。
ユイ
「そうですねぇ、おじい様や王宮側にとって今の体制を維持するというのがどれだけ大切かという事はわかりきっているはずです。その危険因子である私達を殺さないとは確かに不思議ですね」
カレン
「それは多分私たちが思っているよりも〝王族の魔法による統治〟というブランドが強いってことなのかもしれない。私は腐っても直系。その人物を反逆罪で殺すことはそれだけで薄れてきている国民の信用を失う理由になりかねない」
クロム
「思ったよりもってことだね」
カレン
「それともう一つ。私達を野放しにしても何も問題ないという事を表しているのがこういう存在の人達ね」
カレンは持っていたスマホの画面を見せた。そこには各界の著名人や有名な王宮の高官、一般のインフルエンサーの人たちの言葉が躍るSNSでカレンのニュースを話題にしている。
カレン
「・・・おかしなことよね?これって」
ユイ
「どういうことですか?」
カレン
「私はあの儀式の後から限られた人間にしか会っていないの。つまり、私の状態を確認していない人たちがこういう情報を正しいって飲み込んでそれで杞憂してくれいている」
クロム
「・・・まあ、確かに」
まだ「嘘の物語を通すことが出来る」
誰も事実確認をしに来ないのに、報道や話題だけで信じてしまう環境。その環境があるからこそ王宮はカレンたちを野放しにしている。
カレン
「この嘘の物語が通るのは魔法でも何でもない。本質は〝まだ王宮は嘘の物語を鵜呑みにする頭をもがれた民衆に甘えることが出来る〟それが可能だという事を私たちに教えてくれているのよ」
この国の人々の意志を操るのは意外と簡単。既に多くの民衆には自分で考えるという頭が無くなっている。誰かの意見に賛同し、誰かの意志について行く。
クロム
「まあ、SNSとか動画サイトを金で叩けば簡単に出来るよね」
例えそれが嘘の情報であったとしても、それを人々に人気があるインフルエンサーと呼ばれる存在に金と「嘘の情報」をもって要請すれば全てが上手く行ってしまう。
彼らが主張を始めればどんな嘘でも通すことが出来る。情報を渡されたインフルエンサーは大概の場合、正しさとか真実とかを確かめない。彼らは「どれだけ数字がとれるのか」「どれだけ注目度が有るのか」そして「幾ら自分に入るのか」と言うことだけを気にしている。「見ている人たちに楽しんで欲しい」「自分が楽しんでいるのを見てくれる人がいる」という意味不明な大義名分の自分を守る理由だけがあればそれが「間違っているか」「正しいか」はどうでもいいことになる。
見ている人たちと同様、数字が彼らの〝自分証明書〟数字が下がればやがて彼らは自然消滅していつか忘れ去られてしまう。インフルエンサーと呼ばれる人が沢山出始めて十数年が経った今、競争の果てに数字を取れず生き残りに負けた人たちは次々と姿を消していった。気が付けば公園で暮らしている人が元々有名なインフルエンサーだったという話は特別珍しくない。
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【物語】やさぐれ魔法の王女様
完結済みのオリジナルの小説です。全21話。文字数は大体18万字あります。少々長いですが良ければどうぞ。
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