「やさぐれ魔法の王女様」 8、刺繍家ナリア
次の日の朝、ユイはカレンの部屋で目を覚ました。あの話が終わった後、クロムは今日どうしても外すことが出来ない授業があったため、自分のメイドに迎えに来させて大学へ向かった。「一緒に行きたかった」とずっと嘆いているとカレンが「あなたにも付き合ってもらう場所があるわ」と伝えるとクロムは笑顔で手を振っていた。
ユイは自分の寝室から大きめの箱を持ってくるとテーブルの上で開く。中身は化粧品や髪飾りなどが丁寧に収められていた。その中から髪を整えるアイロンを手に取り、寝ぼけ顔のカレンを化粧台の前に座らせると金髪縦ロールに立ち向かった。
縦ロールをアイロンで挟むとまっすぐにしていく。カレンの髪は癖が強く、矯正したとしても風呂に入れば一発で戻ってしまう。
カレン
「見事なモノね。これこそ魔法よ」
しばらく作業を続けると見事な金髪ストレートになった。慣れた手つきで丁寧に結っていき縛って留める。次に普段全く化粧をしないカレンに変わってユイがメイクを施していった。メイクが終わると部屋のクローゼットの奥の方に掛けてあるシスターの服を取り出すとカレンに着せた。お忍び変装はもうお手の物。何回やったからわからないほどに手慣れていた。
カレン
「どう?どっからどう見てもシスターでしょこれは。あんたのために幸せを祈ってやってもいいわよ」
ユイは呆れて首を横に振っていた。
2人はガレージに向かうとシャッターを開ける。そこには車が2台停められていた。1台は王宮からの支給品の高級車。もう一台はユイの20歳の誕生日の時にプレゼントとして送った物・・・と言えは美しいのだけれど、本当はそうではない。国から支給されている王族の高級車では目立ちすぎる為にカレンが購入したものである。私的にメイドに送った物であればお咎めも少ない。
車に乗り込むとユイはキーを回してエンジンをかける。車は少し古いタイプの大衆車で一般公道でも見かけることが出来る。カレンはスマホで地図を表示すると備え付けのスタンドに固定した。
カレン
「そんなに遠くはないわ。アポは取ってないけど多分いるでしょう、間違いないわね」
ユイはクラッチを切ってギアを入れ、アクセルを踏み込んだ。カレンの住んでいる屋敷は王都の端の方。小高い丘の上に建てられており、その道は人気のない山道が続いている。車を走らせているとある事をユイが聞いてきた。
ユイ
「1つだけわからないことがあるのですが」
カレン
「なによ?」
煙草を咥えながらカレンがユイを見た。
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【物語】やさぐれ魔法の王女様
完結済みのオリジナルの小説です。全21話。文字数は大体18万字あります。少々長いですが良ければどうぞ。
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