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【800字 ショートショート】#45 多力本願

 素直に素敵だと思える気持ちを持っていることは何とも素晴らしい事であろうか。と私は思うのであります。今まで見聞きした中で最も印象に残っていることは何か?と聞かれると、それは今である。という風に答えるくらいに私はそういう「何かにとりつく性質」は持ち合わせていないのです。

 何かのファンに成れる。何かを応援できるというごくごく当たり前の力でさえ、私はうらやましいと思いますし、そう思うでしょう。

 毎日つらい労働があっても、日に一杯のビールを飲み干すことで、その日一日を忘れることが出来るということは、それは才能です。

 毎日つらい勉学があっても、週に1回のデートが有って、夢中になれる異性がいれば何もいらないと感じるのであれば、それも才能です。

 毎日つらい社会があっても、月に一度の旅行が有って、そこで何かを食べたり、観光したりすることで、それを忘れられるのであれば、それも才能です。

 では、その才能を持ち合わせていない人はどうしましょうか?ビールも、異性も、旅行も、何もかも。自分に熱を与える何かを見つけることが出来ない人は、いったいどうやってこの世にある嫌なことから目をそらして、そして、生きるということを見出せば良いのでしょうか。

「この世にある嫌なことは人が作り出しているということを知ればいいんです」

 ビールを飲み続ければ何かしらの不具合が体に起きるかもしれません。
 異性と付き合ったとしても浮気や不倫、喧嘩は絶えないのかもしれません。
 旅行先で強盗に襲われたり、昨今のような情勢になれば海外渡航の回数は減るでしょう。

「ごまかしを他へ依存していると、その他が全部あなたの全てを決めてしまうのですか?そうではないでしょう」

「さて、そろそろ行きませんか?ここでしゃべっていてもらちが明きません。それにー」

彼女は僕の目を見た。

「この先ご一緒するのが私ではご不満でしょうか?」僕は戸惑って立ち上がった

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