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■要約≪賃労働と資本≫

今回はカール・マルクス「賃労働と資本」を要約していきます。主著資本論への最良の入門書として名高く、マルクスが19世紀にマルクス経済学の原理原則を労働者向けにわかりやすくパンフレットに記載した内容をまとめた本です。資本主義経済を批判的に分析・考察する意味においてはマルクス経済学・社会主義/共産主義思想は避けて通ることが出来ず、考えさせられる内容です。


「賃労働と資本」

■ジャンル:経済学

■読破難易度:低(賃金労働者向けにわかりやすく記述されているので、読みやすいです。需給バランスの概念を筆頭とした基本的な経済学の考え方がわかれば読めます。古典派経済学の理論を学んだ後に読み返すと理解が深まります。)

■対象者:・マルクスの思想に関する理解を深めたい方

     ・マルクス経済学の原理原則を理解したい方

     ・資本主義経済の構造を批判的に分析・考察したい方


≪参考文献≫

■経済原論(マルクス経済学を体系的に分析・考察)

■要約≪経済原論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■経済学・哲学草稿(マルクスの経済学・哲学における思想のエッセンス)

■要約≪経済学・哲学草稿≫ - 雑感 (hatenablog.com)

共産党宣言資本論と並ぶマルクスの代表作)

■要約≪共産党宣言≫ - 雑感 (hatenablog.com)


【要約】

■賃労働と資本の関係性について

人類の歴史は地主・貴族と平民・資本家と労働者という階級間闘争の歴史であるという有名なマルクス史観から本書の論は始まります。資本主義経済において、資本家は賃金という形態で労働契約を買い、労働者は時間分労働力を供給するという形の取引を行います。貨幣経済・資本主義は万人に労働力という商品を提供し売買取引の範囲を拡大させることで経済発展を可能にしたその一方で、奴隷的なように労働に従事して生きていかざるを得ない(封建制は崩壊しているので)という社会構造をも引き起こしたという問題提起が行われます。

・資本主義経済において労賃は商品価格の一部を構成する原材料のようなものであり、「商品の需給関係」や「労働力そのものの希少性」などにより規定される性質があります。労働者側が労賃を決定する主導権を握ることは不可能であり、原材料価格とほぼ同じような変数・関係性なのです。資本は利潤を求めて様々な産業や市場への配分移転を繰り返します。そうなると、資本家は効果的な経営・生産活動の為に「生産費の構成要素である労働力は資本の誘因となるべく切り詰める(たくさん活用して労賃は短くしよう)」というインセンティブが資本家には働く構造になり、労働者が資本家に搾取される構図が引き起こされるとマルクスは指摘されます。※資本は蓄積された労働であるという有名なマルクス経済学の考え方がここで登場します。


■資本主義経済の構造が引き起こす作用

・資本主義経済の構造として、労働者は資本家に従属的な関係になりうる・労賃と利潤は逆比例の関係にある・資本はスケーラビリティがあるので資本家間においてもし烈な競争があり、少数が利潤の大半を専有するという構造は避けられないなどの構造的な負が挙げられると指摘します。

・資本家の立場から考えると、人間の労働にはボラティリティがあり、習熟リードタイムがあり投資対効果の観点からもできるだけ単純化・分業化・機械置換をしていくのが経済合理的になります。資本家の競争に原材料同等の労働は巻き込まれ、必然的に労働者による「単純労働×長時間労働の構図」が出来上がるのです。こうして、ジョブセキュリティの低い被搾取人材が市場に蔓延る構図は企業努力の行く末として避けられないが、それは社会の大半の人材にとって害悪な愚かな営みであるマルクスは痛烈に批判します。つまり、「生産的資本が増大すればするほど機械の使用と分業が拡大し、それは労働者間の競争を拡大し、需給バランスの市場原理により労働賃金は縮小する構図になるという搾取構造を更に助長するメカニズム」が資本主義経済にはあるという指摘です。こうして資本家間のバトルの中で小資本家や金利業者が労働者階級に没落・飲み込まれていく恐ろしい構図が出来上がるという社会構造の負を炙り出し、抜本的な社会システムの刷新が必要である(労働者革命による社会主義共産主義への移行)という問題提起に繋がっていきます。


【所感】

・自分自身は賃金労働者として資本主義経済で働くのが好き・心地よいのでなんとも思いませんでしたが、記述された当代の社会背景を考えると非常に多くの共感を呼び、影響力を与えたのだろうと考えさせられる内容でした。絶え間ないイノベーション経営学により理論化された手法による労働生産性の向上知識労働者階級の台頭などのトレンドを経て現代の資本主義経済が誕生したという歴史的必然性を再認識させられました。

・本書は近現代の歴史や哲学・古典派経済学・ケインズ経済学などの周辺領域の知識や考え方の理解も深まる非常に考えされる内容であり、読み応え抜群でした。社会科学の古典に薫陶を受けるという営みは定期的に行い自分の思考を見つめ直す・アップデートするという鍛錬を絶やしてはならないなと再認識しました。継続的に学びを積み重ねていきたい次第です。


以上となります!

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