■要約≪戦略サファリ≫
今回はヘンリー・ミンツバーグの「戦略サファリ」を要約していきます。
「マネジャーの実像」という本が有名な経営学者で、戦略サファリは戦略論を10に分類しそのアプローチの特徴や相互作用について体系化した本です。図鑑のようなもので、個別論点の深堀は参考文献に委ねるという振り切り具合が特徴的です。
「戦略サファリ」
■ジャンル:経営学
■読破難易度:中
■対象者:・経営戦略論の全体感を理解したい方
・マネジメントの手段としての戦略の位置づけを知りたい方
・経営学の歴史について興味関心のある方
【要約】
・マネジメントが狙って組織の成果を最大化させるための仕組みとして戦略論を捉え、経営学の歴史において提唱されてきた戦略論を10の学派に分類し、それぞれの特徴を検証していく構成となっています。サファリパークのように概観を掴む形で回っていく仕立てであることから「戦略サファリ」というタイトルになったようです。
・「マネジメントが成果を成すにはサイエンス・アート・クラフトの三要素のバランスが大事である」というミンツバーグのマネジメント理論に忠実に、地に足の着いた理論を構築しようという氏の強い意志が垣間見える構成です。
■学派毎の概観
・デザインスクール:コンセプト構想プロセスに重きを置く戦略で、戦略論はトップマネジメントが打ち出すものとするスタンスです。SWOT分析などがこの学派です。
・プランニング・スクール:形式的策定に重きを置く戦略で、経営企画部門などが描いた計画偏重でマネジメントしていくスタンスです。アンゾフの「企業戦略論」などが代表例で、ミンツバーグ自身はこの学派を非常に蔑視していることが伺えます。
・ポジショニング・スクール:分析に重きを置く戦略で、過去のデータや経験から「勝てるフィールドを抽出し特化する」というスタンスです。ポーターの「競争の戦略」などがこの学派で所謂、経営戦略論として日本でイメージされるのがこの学派です。
・アントレプレナー・スクール:ビジョン創造プロセスに重きを置く戦略で、企業家精神・市場機会の追求が戦略の要であるというスタンスです。「イノベーションと企業家精神」や「ビジョナリー・カンパニー」などがこの学派の代表文献です。
・コグニティブ・スクール:認知プロセスに重きを置く戦略で、経営学に心理学の視点を盛り込み、組織学習を戦略の要に据えるスタンスです。「学習する組織」がこの学派の代表文献です。
・ラーニング・スクール:創発的学習に重きを置く戦略で、市場機会や自社の取り組みに対して学習するサイクル・仕組みを高度に構築し、見出した示唆を戦略の要に据えるスタンスです。コア・コンピタンスの概念はこの学派に分類され、「知識創造企業」が代表文献です。
・パワー・スクール:交渉に重きを置く戦略で、内部向けの社内営業・外部向けの戦略的提携やジョイントベンチャーなどの戦略オプションがこの学派に分類されます。
・カルチャー・スクール:集合的プロセスに重きを置く戦略で、この学派から派生して「企業が抱える資源が競争優位の源泉・戦略オプション決定に寄与する」というリソース・ベースト・ビューの概念が形成されました。
・エンバイロンメント・スクール:環境適応に重きを置く戦略で、外部環境の分析を通じた市場最適化の柔軟性を戦略の要に据えるスタンスです。不確実性の高い事業フェーズにおいては必ず取り込まないといけないとされる概念で、アジャイル開発などがこの学派の概念です。
・コンフィギュレーション・スクール:変革プロセスとしての戦略で、「長期的な時間軸では狙って組織は自己変革を促し、戦略を編みなおすべき」とする学派です。ターンアラウンドやリエンジニアリングなどがこの学派に分類される概念で、他学派のアプローチを複数駆使する前提に立っているのが特徴です。
■10の学派の関係性
・「外部環境と内部プロセスをどのように認識し、何にレバレッジポイントを置くかによりその場面で重視すべきアプローチ(相性の良い学派)は異なる」ということを本書では言わんとしています。「業界構造・事業フェーズ・成長曲線をどの様に描きたいか」により、「何を市場機会・競争優位の源泉と認識するか」が変わるので、最適なアプローチは都度変わるということです。
・詰まる所、「マネジメントが戦略を形成し組織を用いて成果を出す上においては複数のアプローチが必要であり、複数の学派の論を実践できるように経験を積むないしは疑似体験をしながら引き出しを増やしていくことが連続的に成果を出せるマネジメントである」ということを示唆しています。
【所感】
・あくまで戦略論は実践の産物であり、実践知を棚卸する形で本書の内容を読み解いていかないと何も意味がないなと感じました。その分、何度も読み返し、自分のマネジメントや戦略構築に対して内省を促すことに最適の内容と理解しました。置かれた場面や環境に応じて、柔軟に戦略論やアプローチ方法を組み替えるようにしておかないと、特定場面でしか成果を発揮できないのは組織の責任者としてイマイチということだと思うので、俯瞰する内容になっている本書はとてもいいなと感じました。
・「外部環境・内部資源を冷静に分析・把握し、登るべき山や大事にするビジョンに応じて戦略を策定し、組織マネジメントとレバレッジポイントを都度決めていく」というのは言うのは簡単ですが実践はとても難しいと感じると同時に、これが出来たら連続的に組織で成果が出せるということでワクワクするようなことが組織で出来るのだろうなと感じた次第でした。
以上となります!
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