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■要約≪OODAループ≫

今回はチェット・リチャーズ氏著の「OODALOOP(ウーダループ)」を要約していきます。軍事戦略論由来の意思決定フレームワークであり、不確実性と変化著しい現代においてビジネスの局面でも有効ではないかと評価されるに至ったOODAループについて体系的に論じた本です。OODAループはPDCAサイクルと似たような位置づけのフレームワークであり、時に補完関係・代替関係にあるとされます。環境変化に適応していく創発戦略システム思考のブームに伴い、注目を浴びて現代ではエフェクチュエーションと並んで一定の市民権を得た考え方になり、このタイミングで概略を理解しようと考え本書を読むに至りました。


「OODAループ(ウーダループ)」

■ジャンル:経営戦略・組織論
■読破難易度:中(豊富な事例があり、前提知識不要の為読むこと自体はそこまで難しくないとされます。戦略論やビジネスフレームに一定明るいほうがOODAループの凄みが対比的にわかるのでオススメです。)

■対象者:・環境変化適応していく組織をリードしていく立場にある方全般

     ・意思決定熟達・学習プロセスの解明に興味関心のある方

     ・戦略・組織論のトレンドを抑えたい方


≪参考文献≫

■戦略サファリ

■要約≪戦略サファリ≫ - 雑感

■エフェクチュエーション

■要約≪エフェクチュエーション 前編≫ - 雑感

■要約≪エフェクチュエーション 後編≫ - 雑感

■OKR シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法

■要約≪OKR シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法≫ - 雑感


【要約】

■OODAループとは

・OODAループは観察(Observe)→情勢判断(Orient)→意思決定(Decide)→行動(Action)の頭文字をとった概念です。OODAループは軍事由来の理論であり、第二次世界大戦湾岸戦争でその理論の有効性に関して日の目を浴びて、2010年代テックビジネスや国際化の波でビジネスの分野でも市民権を得るに至る考え方になったとされています。従来型の計画・統制に重きを置く戦略論(ポーターの5フォース分析やアンゾフの経営戦略論など)では動的に変化する不確実性の高いビジネス環境の変化に適応できないという中で既存の戦略論の有効性の低下が叫ばれるようになります。そんな中、現場主導で現実を直視、現状把握・判断を起点に計画と行動を組み立て素早く適応・学習して新たなサイクルを回すというOODAループの考え方が重視されるようになりました。

・OODAループを効果的に成しえるためには相互信頼・皮膚感覚・リーダーシップ契約・焦点と方向性の4つを兼ね備えることが強い軍事組織の文化的な特徴から明らかとされます。リーダーシップとモニタリングのバランスが強い軍事組織を作る要員であり、指示命令系統が採れていることに加えて戦略やゴールが明確であること、現実を直視して微修正・相互フィードバックし続けるシステムを構築・機能させるという具合になります。OODAループ起点にビジネス分野において大きく成果を上げた・変革を促した事例からフレームワーク化・理論化したものとして、リーン生産方式・カンバン・トヨタ生産方式があるとされます。


PDCAサイクルとOODAループの関係性

PDCAサイクル演繹的であり、OODAループは観察を起点にするので帰納法な営みであるとされます。一般的な企業との投資承認プロセスや事業計画は不確実性をある程度軽視したものにならざるを得ず、観察を起点にした動的な学習による変化を織り込まないことが多いとされます。一方で、これを実際に学習して高い成果を出す(プランニングベースよりも)というのは相当に難しいことが多く、内発的動機付けや自由演技による生産性低下との天秤にかける必要があるとされます。予定調和を遂行していく秩序を形成する従来型の戦略論やマネジメントコントロールが大事な場面・領域もたくさんあり、それと同じくらい創発戦略・リーダーシップ・相互学習が大切な場面も増えてきたということが現代のPDCAサイクル・OODAループが併存するビジネス環境の特徴と言えるでしょう。

・観察→情勢判断→意思決定→行動のサイクルにより高い成果を上げるにはスピード・機動性(アジリティ)の担保正しい判断をするための構造的な思考、理解・それに足る情報収集量と仮説検証設計~実行が大切とされます。エフェクチュアルな態度(起業家の意思決定熟達プロセス、我々は何者で誰と何を知っているかという前提をベースに意思決定する、学習することを想定に低い財務リスクでの仮説検証・探索を好む)で現在地を見定め判断し、改善・行動していくことで意思決定の精度を高める・戦略フレームを用いることで組織の統制を図る、正しい選択と集中を目指すといった細かな努力の積み上げもOODAループを用いて高い組織成果の実現には欠かせないとされます。

ポジショニング理論リソース・ベーストビューなどの経営戦略の理論は静的な環境を前提とした戦略論であり、創発的戦略やエフェクチュエーションなど動的な環境適応を前提とした、現代の経営学の態度を組織に導入していく・学習・変化し続けることが持続的な競争優位・連続的な勝利に寄与すると言えます。


■OODAループを高速で回すための組織文化

・文化と習慣化された行動は切っても切り離せない関係であり、OODAループを実践するには組織文化の構築・運用がセットとされます。相互信頼は自律性と調和をもたらし、その前提には高い組織成果の追求と適切な淘汰作用・新陳代謝もセットとされます。仲良しこよしだけではOODAループは実現出来ないということになります。管理型と自由放任型のバランス・意思決定基準をうまく組み合わせることは真の創造力と高い組織ケイパビリティに寄与しますが、それを適切に運用して組織の成果を上げることは難しいものです。

・外界から学び改善して高い成果を上げた人材を評価するということを続けることで組織文化を変容させ続け、アジリティの高い組織を構築することが不確実性の高い時代において連続的に成果をあげるための必須条件となります。主要な焦点と方向性を定めて、基本的には即応判断・環境適応していくことで高速改善をしていきなさいという組織文化を形成することが具体的な目指す姿となります。システムに仕事や文化は規定され、人間は長い時間軸の中でシステム最適化をしていく生き物であり、これを継続的に環境やゴールを見据えて定期チェック・時に壊し再編するということをしていく胆力・ラーニングアビリティというのが連続的な問題解決に必要であり、それを組織で体現していくフレームOODAループなのです。

トヨタ生産方式はOODAループの最たる例であり、現場主導で改善をしていく・動的に修正をしていくという動きは軍由来の組織構造に似ているのです。生産工程におけるJIT方式の導入と、早期アラート検知の仕組こそが生産性を高めるためのカギであり、ウォーターフォール型のPDCA形式ではないOODAループの強みと言えます。OODAループは計画をしなくていいということを言っているのではなく、戦略による焦点と方向性を定めた上での現状把握による軌道修正を行う相互作用の仕組みになるのです。変化適応をしていくには計画をしないということではなく、戦略や焦点が定まっているからこその仮説検証や学習の解釈の仕方の方向性をすり合わせる・権限移譲できるということを意味しているのです。


【所感】

・久々に正統派の戦略論・組織論の本を読みましたが、歴史的な変遷・論点の変化などが掴めて面白いなと再認識する内容が多かったです。OODAループはアジャイル開発やリーンスタートアップなどに通じる考え方であり、理論の正当性や価値観に対しての一段の理解が深まる感覚を得る読書体験でした。一見、非常に高尚で難しく見えるOODAループですがプロダクトマネジメントデザイン思考システム思考の原理原則を忠実に実践するとほぼイコールの関係にOODAループがあるということであり、その意味において適切な観点・手順を踏んで実践していく、言語化・文書化を怠らないという態度がこの手の分野の実践においては肝であるということを再認識させられました。

・知っているかどうか・実践して実践知として体得して積み上げているかという些細な差分が当該分野の成果を左右するということに思え、インプットとアウトプットの実践を通じて自由自在に活用すること・組織をリードしていきアジリティを高め組織ケーパを上げるということをロールとして果たせるようになっていきたいなと考えさせられる内容でした。東洋思想や戦略論は根幹をなす考え方として変わらず有用であるということも思い知らされ、当該分野の古典を読み漁る行為も再開したいなと思う次第でした。


以上となります!

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