■要約≪経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門≫
今回は石橋善一郎氏著の「経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門」を要約していきます。FP&A入門書となっており、戦略論と管理会計・ファイナンスの理論をどのように実務活用していくかを著者がCFO・FP&Aを務めたインテル・日本トイザらスでの経験や他社事例を引き合いに解説していく内容となっております。ファイナンス・アカウンティングについて、実務では直接活用しませんが視点の拡大を意図して、定期的にインプットを積み重ねている中でFP&Aの解像度を高めたくこのタイミングで読むに至りました。
「経理・財務・経営企画部門のためのFP&A入門」
■ジャンル:アカウンティング・ファイナンス
■読破難易度:低~中(半分経営戦略論・半分管理会計財務会計・ファイナンスという構成になっており、当該分野の入門書で理論を抑えておく必要があります。内容自体は非常に平易な記載がされており、サクサク読むことができます。)
■対象者:・FP&Aの解像度を高めたい方全般
・経理・財務・経営企画部門に従事し、経営意思決定に参与する役割を務めたい方
・事業部門でPLに関与する方全般
≪参考文献≫
■コーポレート・ファイナンス 戦略と実践
■管理会計・入門
■戦略サファリ
■市場と企業組織
【要約】
■FP&Aとは
・FP&Aとは(Financia Planning&Analysis)の略称であり、グローバル企業においてFP&A部門はCFP組織の中で経理部門・財務部門と並ぶ主要部門でCFOの下で事業管理を担当します。日本企業において経営管理を担当しているのは本社経営企画部門・事業部企画部門・経理部門および財務部門が一般的とされ、近年日本でもプライム上場企業を筆頭に(特にグローバル展開する企業において)、FP&Aを設定するケースが増えています。
・FP&Aの役割は事業計画の進捗のモニタリングと事業への提言の2点であり、事業部と本社それぞれにコントローラーが存在するのが一般的とされます。経営者のパートナーとして、株主価値の維持と最大化に関して財務と管理会計の面から関与するというたてつけになります。マネジメントコントロールを効果的に機能する為に定期レポートし、改善策の議論と助言・投資計画反映をするというのがポイントであり、短期のそろばんと中長期投資テーマのROIやポテンシャル証明などが事業企画から持ち込まれることを精査する役割になります。経営計画を提出してもらい、進捗のレポート・計画と実績の乖離の分析・統制による修正示唆出しなどを通じて経営者・株主の変わりに投資収益が出るようにコントロールすることがFP&Aの本質的なバリューになります。尚、BSCは財務と事業計画、戦略を連動させる優れたツールであり、KPIツリーのようなプロダクトマネジメントに近しい思想の管理会計のフレームになります。
・日本企業では約三年単位の中期経営計画を立てて、進捗をレポート・管理するという統制のされ方をしていることが多く、中計は経営企画部門が主導で作成することが多いです。財務経理がその定量面の監査をするという構図が一般的です。残念ながら日本企業の現実には利益計画のコミットメントを果たすのが精一杯で中期経営計画を完遂する・開示するということをやり切れている企業は多くないとされます。経営企画と経理に分離していること・経営企画が事業部にレポートラインを設けていないことなどが日本のちぐはぐな経営管理体制の所以とされるようです。経営企画の大半は庶務・調整業務が多く、組織風土など定性面の内容も多いという中で、グローバル企業のFP&Aのような生産性や専門性の高さはない状態に位置すると著者は痛烈に非難します。
■FP&Aプロフェッショナルのスキルセット・マインドセット
・FP&Aは管理会計と戦略のスキルに加えて、ビジネスドメインそのものへの造詣による示唆出しなどが具体的な要件になります。意思決定のオプションの善し悪しを定量的に現在価値や期待収益などの指標で横並びにして判断し、投資意思決定の精度を高めていくことで事業マネジメント・企業価値向上に組みするという具合です。具体的な業務知識としては原価計算やリスク管理・損益分岐点分析・バランススコアカード・現在価値理論・リアルオプション分析などを用いることが本書では例示されています。
・FP&Aは財務管理・経営管理が専門職としてのロールですが、戦略に明るく経営・事業の意思決定に示唆出しをする圧倒的な当事者意識・プロフェッショナリズムが前提に求められる役割となります。共通の物差しをもって改善要望する・原因分析をするというのは部分最適からすると監査のようですが、全社視点では適切な統制・資源配分をもたらすという意味を持つのであり、その視点に沿い(変化・環境適応する前提)で目の前の仕事に従事していくという姿勢が欠かせないのです。本社と事業部それぞれにコントローラーを置き、国内では経営企画と事業企画が担うような役割で財務と戦略を推進・レポーティングしていく役割が大切になるということであり、FP&Aが機能するかどうかは担い手のマインドセットにも依存するとされます。
■経営管理の計画・統制プロセス
・FP&Aは中期経営計画をベースとした予算と実績の差異を可視化・分析・改善要望するということを通じて、内部資源の配分の最適化とガバナンス強化という意味合いを持ちます。財務やFP&Aの人事権や指示命令系統に関してはその役割の性質上、独立裁量・不可侵であるようにすることが求められるものです。
・プロジェクトや事業部の現在地および未来予測などを並列で並べて投資意思決定を正確にするために、BSCや予測PL・現在価値・キャッシュフロー・損益分岐点分析などの管理ツールが用いられ、事業やプロジェクトの善し悪しを見定めるということが経営管理のミソになります。事業部制や機能性組織のマネジメントにおいては分権化と並列で予実管理が必要であり、定性的な戦略テーマの探索に合わせて定量の収支をしっかり収める・その要因分析と今後の見通しをレポーティング・評価するという管理の仕組みが必要になります。
■投資意思決定
・企業内部のプロジェクト投資意思決定についてはファイナンスの理論が適応され、期待収益やリスクの度合い、戦略整合性などを含めて総合的に判断されるプロセスでこの理論を用いることがあり、主に事業企画とFP&Aが実務に関わり、意思決定の参照者として事業部長や経営者がいるという具合になります。企業内部の投資意思決定というのは必ず外部資本投資との比較において優れる意味や成果を示す必要が伴い、なぜなら企業の存在条件のほとんどを株主や債券所有者などステークホルダーありきになるからです。
・利益計画・損益計算書をベースに部門や事業部別に年度予算が組まれ、月次モニタリング・PDSを経ながら投資意思決定・配分・間接支援をしていくというのが経営管理の実際的な動きになります。事業部制もあくまで経営者のように投資意思決定の承認を得る必要があるので、EBITDAやキャッシュフローを評価指標として判断されることは避けて通れないです。その上で歩留まりや量などのビジネス戦略に関わる戦略やチャレンジテーマが入ってくるという具合になるのです。
【所感】
・自身の仕事の関係者として事業企画・FP&Aなどがいる中で間接的に役割や価値基準を体感することがありましたが、本書にて期待役割・国際基準を理解することができ非常にイメージがわきました。FP&Aは専門スキル・知識は勿論のこと、事業・部門・経営に関するオーナーシップをもって示唆出し・提言をできるかどうかに大きくパフォーマンスが左右されるロールであると感じました。また、FP&Aは事業部長・CFO・経営者の代理人であり、内部資本投資・資源分配の最適化、ひいては株主の代理人としての投資収益・企業価値向上に対してバリューを発揮することが求められるとした時に、様々なレイヤー・観点の見解を持ち合わせその中でも真っ当に判断を下していく・コトを進めていくという精神的なタフさの求められるダイナミックさがあるように感じたのが印象的でした。専門性・希少性があるからこそ事業や各部門への解像度・想像力をどれだけ持つことができるかがクリティカルになる場面もあるのだろうと感じ、様々な活躍人材パターンがあるのだろうと感じた次第です。
・個人的にはFP&Aの役割・職業倫理を最大限理解、尊重した上で自分は事業サイドとしてPL責任を果たしていくロールを推進していきたいなと改めて考えることができて非常に学びになる内容でした。プロダクト分野のインプットも然りですが、自分の本業・専門性の近接領域に関して継続的にインプットして思考を深めるということを積み重ねていくことが大切と改めて考えさせられました。
以上となります!