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雇用観の変化から僕たちの働き方・Employee Experience(EX)を考える。


#はたらくってなんだろう

「ジョブ型」とか「メンバーシップ型」とか、2020年は働き方について考える年になりました。この際、型はなんでもいい。なぜこんなことを気にするようになったのか?こんなバズワードが飛び交う時代に企業は何を考えることが必要なのか、私なりに日本型雇用の特徴を踏まえて、この点についてもう少しだけ掘り下げて考えてみたいと思います。
そして、これを2021年に向けて取り組むべき課題の1つとして置いておきたいと思います。

(1)日本型雇用の「三種の神器」

人事に携わる方であったり、日本型経営について調べたことのある方だと耳にしたことがある言葉だと思います。戦後、焼け野原になった日本が欧米諸国に追いつけ・追い越せとばかりに成長するために編み出した、「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」です。
これらを「古い」「昭和」と思う方もいらっしゃると思いますが、個人的には「この難局をチーム一丸で乗り切っていこうぜ!!」という一致団結感があって、結構好きです。これら「三種の神器」とは雇用観を社会実装するうちに、日本人が編み出した経済で勝つための勝利の方程式、まさに「神器」です。

三種の神器

この当時、私にとっては祖父の世代、働き手にとっては「会社のために全てをささげて働くことで、会社が幸せにしてくれる」し、雇い手にとっては「働き手の雇用を守り、働いてもらうことで経済的に潤う」という考え方が生まれてきます。当時の日本の労働者1人あたりの平均年間総実労働時間は2,432時間(1960年※サービス業含まない)。まさに全てをささげていた時代です。(ちなみに、現在は1,733時間(2019年※サービス業含む)です)

こうした時代背景で生まれた雇用観は、「全てを委ねるから、全てを背負うってほしい」という働き手と「全てを背負うから全てを委ねてほしい」という雇い手の両社の利害が絶妙にバランシングしたことによって生まれたものであるといえます。

共依存

(2)「漠然とした不安」の到来

こうした「全てを背負うから全てを委ねて」という勝利の方程式で、高度経済成長を実現してきた日本人の働き方ですが、1990年代以降、日本の景気後退とともに少しずつその足元がぐらつき始めます。

それまでは「全てを委ねる」ことで勝手に幸せにしてもらえるはずだった働き手は「このままこの会社にいて大丈夫だろうか・・・」、「全てを背負う」ことにコミットすることで安定的に労働力を確保していた雇い手は「このまま従業員を雇い続けて会社経営は大丈夫だろうか・・・」とそれぞれに先の見えない不安を感じるようになっていきます。

「Restructure」(再構築)という単語が「リストラ」として首切りを示す単語として認知されたことからもわかるように、雇い手は経営の再構築(=会社経営の維持)のために雇用に手をつけることになります。高度経済成長期を支えてきた勝利の方程式の綻びです。

揺らぎ

その結果、三種の神器によってもたらされた絶妙な働き手と雇い手のバランスが崩れ始めます。働き手は「全てを背負ってほしいけど、全てを委ねるのは不安」、雇い手は「全てを委ねてほしいけど、全てを背負うのは不安」。働き手と雇い手は漠然とした不安を抱えながら、日本的雇用観を各々の立場で好意的に解釈するようになっていきます。

漠然とした不安

(3)雇用観バランスの変化~全てを背負えない&全てを委ねない~

働き手は「全てを背負ってほしいけど、全てを委ねるのは不安」
雇い手は「全てを委ねてほしいけど、全てを背負うのは不安」

私は、働き手と雇い手がそれぞれの立場で好意的に解釈しているうちに、次第にバランスが崩れていき、それが顕在化しているのが現在の私たちを取り巻く環境です。

「全てを背負うから全てを委ねて」モデルの崩壊
⇒雇い手が全てを背負うことを望まなくなった。
⇒働き手が全てを委ねることを望まなくなった。

・「全てを背負ってほしいけど全てを委ねたくない」という働き手の皆さん、本音は「雇用は守ってほしいけど、自分の好きなように働きたい」ですよね。

・「全てを委ねてほしいけど全てを背負いたくない」という雇い手の皆さん、本音は「会社の求めるとおりに働いてほしいけど、そうでない人の雇用は守れない」ですよね。

バランスの変化

私は、この働き手と雇い手の関係を再度バランシングしなければ働き方の課題は解決されていかないのではないか。
そして、働き手と雇い手双方の関係を高度経済成長の成功体験をベースにした『共依存関係』から『健全なビジネスパートナー関係』に変えていくべきなのではないかと考えています。

つまり、「自分たちのためにアクションしてくれる」ことに依存し合うのではなく、対等な関係を実現していく。目指す姿は「労使双方に雇用関係でありつづけるメリットを見出し、双方が最善を尽くす健全なビジネスパートナー関係」です。

これから日本の労働人口は加速度的に減少していきます。そうした中でも経済成長を獲得していくためには、雇用の流動性や柔軟性を一定程度確保していく必要があるでしょう。その中で、副業/複業といったマーケットはこれから拡大していくでしょうし、そうした個人の多様な働き方を認められる企業が選択されるトレンドになっていくのだろうとも思います。
そうした潮流が予測されるからこそ、「健全なビジネスパートナーとして、働き手が雇い手と対等に近い関係になっていく分、個人の選択の自由度が増すし、同時に自由に対する責任も増している」ということは忘れてはいけないと思います。

最近は、「終身雇用の崩壊」であったり、「副業解禁」といった働き方に関するトピックが取り上げられる機会も増えてきました。いろいろな方々がそれぞれの立場でコメントをされていますが、こうした1つ1つの単語にビビットに反応して単発施策を打つのではなく、将来にわたって安定的運用が可能な仕組みを作っていくには、1人ひとりの頭の中に刷り込まれている「当たり前」から考えていくべきではないでしょうか。

私は人事に携わる者として、こうした雇用観のアップデートに力を使いたいと思っています。

共依存からパートナー

(4)「健全なビジネスパートナー化」のために必要なこと

健全なビジネスパートナーであるためには、働き手1人ひとりが責任ある個人として適切な判断ができることが重要です。そのためにも企業人事としては、「キャリアの自分事化支援」「情報の非対称性の解消」がこれまで以上に求められていくと考えています。

①1人ひとりの「キャリアの自分事化」支援

まずは働き手1人ひとりが「自分にとっての将来目指すべき姿、そのために必要な経験を定義し、道筋を自ら描くことができること」です。高い専門性が求められますが、そのために必要な、本人やそのマネージャーに対する支援を企業人事として拡充していくべきではないかと思います。
これを実行するためには、マネージャーに高い専門性と1人ひとりのメンバーのキャリア形成をアドバイスできるだけのコーチング力が必要となりますので、人事としてはマネージャー登用時の見極めと部下をもつマネージャーのコーチング力を高める支援策を拡充していきたいところです。

②情報の非対称性の解消

働き手にとって「ここは自分のキャリアにとって最良の場所であるか」を判断してもらうためには判断できるだけの情報にリーチできること、個人のニーズに対して、「できること/できないことを明示すること」が大切です。

これを実行するためには、1人ひとりの判断に足る適切な情報開示がポイントになります。人事としてはメンバー1人ひとりが経営情報や経営メッセージを得ることができるようなコミュニケーション施策を拡充しておきたいところです。

これまでも、日本企業は「全てを背負うから全てを委ねて」モデルのとおり、マスとしてメンバーに最良のEmployee Experienceを届けようとしてきました。そこから数十年の時を経て、今後はこれまでと比較して個にフォーカスした取り組みが必要になるということなのだと考えています。

ビジネスパートナー

(5)キャリアの自分事化を促すEmployee Experience

 キャリアの自分事化を促すEmployee Experienceについて考えてみたいと思います。

私は、「目指すベクトルが組織と同じ向きであることを前提に、1人ひとりがプロとして能力を最大限発揮し事業に貢献することで成長できる経験」と考えています。

組織と個人の利害が一致した状態を作りづづけましょう。
経営のミッションやビジョンに共感しバリューを体現したいという方と良いプロダクトを世の中に出し続けましょう。
そういう関係を維持できるよう互いに努力しましょう。

これが、目指すべきEmployee Experienceの姿ではないでしょうか。

だからこそ、組織のぶれない価値基準やルールがポイントなります。それが企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)ですね。強固な組織は、その価値観が合う人にとって心地の良い場所であり続けます。

メンバーの皆さんにとっては、最良のExperienceが得られる場所であるかを判断軸としていっていただければと思います。そういった組織では、基礎となる倫理観がすり合い、自身の目指すべき姿にまっすぐに向かっていけるのではないでしょうか。
小さくまとまらず、プロ同士の良い緊張関係で良いプロダクトを世の中に出し続け、価値を生み続ける存在でありましょう。

自分事化

(6)最後に

雇い手はもっとオープンになるべき。他方、働き手自身の選択に対する責任意識を高めることも重要です。「ジョブ型雇用」という言葉が流行り言葉になりましたが、そうした「箱」の議論の前に、その前提となる雇用観をアップデートし、もっと対等に腹割って話せる関係を目指していきたいですね。

「全てを背負うから全てを委ねてモデル」から「プロとして自立し、双方にメリットある長い関係でありたいねモデル」への変革です。

そのうえで、1人ひとりにとってのExperienceというのは、何も1社のみで作り上げるものではありません。そこには、それぞれの人生があり自由があります。だからこそ、人事機能は彼/彼女の自己実現を適切にサポートする機能でありたいと思います。

今年は変化の多く、そもそものあるべき姿を根っこから考える機会がたくさんありました。本質的なモノと向き合い続けた1年でした。

福澤諭吉は「一身独立して一国独立す」という言葉を残しました。2020年は約150年前に残されたこの言葉の意味を再度噛みしめながら過ごした年であったような気もします。
私としては、労働人口が減少する未来においても競争力を維持・向上させていくために自立した個人を作り上げるEmployee Experience作りに2021年も貢献していきたいと思います。

2020年に考えていたことは2020年のうちにアウトプットに残しておこうということで、大晦日に書き上げました。

2021年も良い年になりますように。

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