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やってやれないことはない30話 『獣医学部学生51歳 卒業論文と獣医師国家試験と卒業式』

5年生も中盤を過ぎて卒業論文の執筆に追われた日々の中、一年あまり後に獣医師国家試験が待ち受けていることに気づきました。

このための勉強は、一年生の時から行ってきたつもりです。
国家試験の資料集めも順調でした。
ただ、悪魔が囁く国家試験に合格できるかはわかりません。
例え、学年成績が1番であろうとも落ちた人がいたという事実に狼狽します。
過去の問題を行っても、それが全然役に立たなかった夢を見ます。

国家試験に合格しなければ、ただの人以下になってしまうことは、最大の恐怖です。
一回落ちるたびに、合格する確率は50%ずつ下がると言われているのを聞いて、絶対無二の合格スケジュールが必要になりました。

先ずは先輩諸兄を見習って、小グループの国家試験対策勉強会を開くことにしました。

一年生の授業から講義室の席は決めていて、私の周りに集まる学生も決まってきていました。若い学生との意思疎通をやりにくいと思っている学生が殆どです。
おじさんとは話しやすいようです。いや・・お父さんかな?

10名前後の人数で丁度良いので勉強会メンバーとしました。
毎週1回から始め、無理ないスケジュールで確実に行うことにしました。

当番を決め、担当した過去問の問題は、なぜそのような解答になるのか教科書の記載箇所まで求めることにしました。
そこに到達するまでに調べた内容は、1つの問題で10以上の知識になるはずとの思いから、私がリーダーシップを取って決めていきました。

今こそ社会人経験者の力量発揮の正念場です。と同時に全員合格の重責を担います。
何もそこまで責任を持つ必要はないのでは・・・
自分が落ちれば済む話としては成り立ちません。
平等というには、29歳の年の差は親子ですので・・・

出入りは自由。出席欠席も自由。
但し、自分の解説当番日は代理がない限り出席を求めました。
規則はこれだけです。

解説の内容などには、紳士的・友好的に対応し、やる気をなくす言動や指摘には方向を修正するのが私の役目です。

最終的に合格する、しないはその学生の勉強態度や正確性に起因していることは歴然としています。
全体を網羅しながら、知らなくてはいけないことを必ず知っていること。
一問一問についてこの問題性質について、理解していれば、過去問解答も模擬試験解答も意味あるものとして大いに役立ちます。

1日に10問の解説の繰り返しで週1回とすると、40週可能ならば400問が確実に正解となるはずです。
解説を調べた者は、その10倍4000問分の勉強をしたことに匹敵します。
これで合格しなければ何をやっても駄目でしょう。

問題集は、私がすべて選択し印刷し配布したものを使用します。
これにも最大の神経を使います。
労力をかけた分だけ私の能力維持にもつながりますので必死です。

4月開始で12月終了。1月から3月の試験日までは、自己学習とします。

勉強会は、少なくともやる気のある集団ですから進捗内容によっては進まず、次回に持ち越し問題などいろいろありました。
しかし、充実とは安心を支えるものと実感した勉強会でした。

卒業論文作成は、順調です。しかし・・・

英語論文も早く読み進められるようになったころ、論文同士の矛盾解決に論文を探すなどに時間が割かれ、一時、整理作業に追われてしまいました。
論理の迷路に入り込まぬよう、構成を何度も練り直し、要旨を作成して提出締め切り日に間に合いました。
この卒業論文の作成で身に着けた技は、論理の焦点を如何に絞り込み明快な主張をもとに構成を展開させるということでした。

今までの私は、常にリスクマネッジメントを意識した病院経営に奔走していましたので、出来るだけ広範囲にアンテナを張り巡らしリスクを探し出し、それに対処していく作業の連続でした。
ある意味で真逆の思考転換でした。

国家試験対策勉強会も終了し、卒論発表会も無事終わり、いよいよ3月初旬の2日間にわたる国家試験受験です。
最後の大晦日と正月はありません。
いつものように起きて、いつものように図書館や自宅で勉強して、いつもの時間に就寝です。
特別なことは行いません。
唯々、6年間の総仕上げです。

試験前日は、多くの学生は試験会場周辺に宿泊します。
交通機関の遅れや寝坊などに対する万全の当日を迎えるためにです。

私も同じ研究室の同級生と3人で前泊をしました。
自分のペースを保つため、夕食後は朝のロビーで落ち合うまで干渉しません。

当日は、札幌市内の予備校が試験会場です。予想以上に多くの学生が押し寄せています。年齢幅はあるにしても矢張り私は別格に目立ってしまいました。

狭い長机に窮屈さを感じながら、全問を解いていきます。
自信のある解答にたどり着くときは早く、自信がない時は時間がかかります。
時計とにらめっこしながら、決断の連続です。

無事1日目が終わり、3人でホテルに帰りました。
帰路途中、一人が泣き出してしまいました。
全く解答に自信がなくて「落ちてしまった」というではないですか。
日頃優秀な学生ですから、少なくとも私より合格は確実と思っていました。
この一言で不安が過ぎりエネルギーが消費されたようです。

それでも、いつものように寝ていつものように起床し、2日目を迎えます。
淡々と解答していき、エネルギーと集中力の配分だけ気を付けました。
若い学生と同じ要領では続きません。
私のペースがすべてです。
試験時間も私の配分で進めます。

エネルギーと集中力がなくなる前にすべての試験問題解答ができました。

後はいつもの通り、「運を天に任せて」。

3人はそれぞれの自宅に帰宅しました。

次は、卒業式です。
何と合格発表日の前日が卒業式です。
明日の試験結果は、大学の知るところではないというものなのでしょうか?
卒業証書の日付は3月31日ですから、フォローアップはあるのかもと思いつつ。

女子学生も男子学生も和装洋装にそれぞれ晴れ晴れとした一世一代の服装です。
一人ひとり壇上に上がり、学部長より卒業証書を授与されます。
ご両親と同じ年齢の学生ですから、代理と思われているのか脳裏を横切りながら、学部長から授与を受けた時は、明日の発表を忘れさせてくれる一時でした。

獣医師国家試験合格発表は、農林水産省のホームページ上で行われます。
予定時刻になってもなかなか繋がりません。
日本中の受験生が一斉に開こうとしているに違いありません。

10分くらい経た時、パッと開いたwebページに出てきた受験番号から探し出します。
ドキドキしなから、見つけた時は異常に落ち着いていました。
感動もなく、冷静でした。
今まで幾度の国家試験を受験してきましたが、合格したときはいつも同じです。
すべてやり尽くしたからなのか、脱力もなければ気負いもなく、淡々としている自分が不思議でした。                                            

国家試験対策勉強会メンバーも同じ研究室の同級生も全員合格しました。

斯くして、私の53歳6年間の獣医学生生活は終わりました。

これから獣医小動物臨床と公衆衛生が定年までの仕事になります。

短い期間を如何に効率よく、目標達成するか、方針は決まっていました。

このnoteは、私の人生において成功・完結・失敗・後悔などのストーリーです。 若い皆さんのヒントになればと思って書いています。 書いてほしいことがあれば、気軽にご連絡ください。 サポートは結果であると受け止めておりますのでよろしくお願いいたします。