夕方、真南に輝く謎の光を追って自転車に乗る日のために
2022年12月24日(土)🌑0.7 🌤6:48-16:33
24:冬至 72:乃東生(なつかれくさしょうず)
少し間があいた。
年賀状は出した。夫の持ち物を整理してものすごくすっきりした(これについてはおいおい詳しく書きたい)。クリスマスの料理とおせちは概ね買ってラクすることにした。
先日ひとつ歳をとり、さっきクリスマスケーキとチキンも買ってきて、今すでに正月休みの気分である。
「次回書く」と前々回のnoteに書いてすっかり忘れていた事柄がある。
私の住む部屋は真南にベランダがある。そこから見えるちょうど正面、建物の間の低い位置に、夕暮れ時になると必ず、一等星よりも明るい光が瞬いているのだ。
この光は日が落ちて空が闇になると、そこでしばらく輝いて、いつの間にか消えている。何時に消えているのかは把握できない。輝き出すのと消えるのが、いつも同じ時間なのか違う時間なのかもわからない。
私は長年それをなんとなく、金星や火星など明るい惑星なのかなと思っていた。もしくは航空関連の照明かと思っていた。それ以上は考えないようにしていた。
イレギュラーな瞬き方は星に極めて似ている。が、しかし、その光は不動だ。そして、いくらなんでも明るすぎる。マイナス10等星くらいである。この部屋に住んでもうすぐ丸15年。ここにさらに15年住むという可能性も濃厚になってきた。いいかげん、あれがなんなのか、考えることから逃げるのをやめる時が来たような気がした。
長年のこの光の謎について、私ははじめて夫に話した。夫はその光を認識していなかった。
地図上で我が家から真南にあるのは、川崎の工業地帯である。
夫は「フレアスタック」ではないかという返答を私に提出した。製油所やガス施設の煙突から出る炎で、「フレアスタック 川崎」で検索候補が出てくる。
あの方角には、製油所、製鉄所、そして火力発電所がある。我が家からちょうと真南、あの距離感で見えるのが、それらのうちどれなのかはわからない。
ただ、その光は煙突のようなものからは出ていない。何時間も宙に浮いているのだ。
そして、その左隣には昼夜問わず、いつもクレーンがあり、時折向きや形状をかえている。東の品川方面にあるコンテナのクレーンは赤白のそれだが、南のクレーンは無骨な鉄の黒に見える。あれと同じ施設からの光なのか。
「わからん。もう、見に行ってみたら? 自転車とかで」と夫が言った。
私の胸は高鳴った。
できるだろうか、私にできるだろうか。
夕方、ただ光を追って、自転車で行けるところまで行くのだ。
そのなるべく近くでレンタサイクルを借りるのだ。46歳の女が。「あの光はなんだろう」というだけの理由で、自転車を一日借りて走るのだ。
まわりの同じ年頃の女がみな子育てをし、世の中の役に立つ労働をしている横で、私は世の中の全く役に立たないことをするのだ。
工業地帯に、中年の女がひとり、自転車に乗っている。おそらくまわりには誰もいないだろう。私を目撃した人すべて怪しむだろう。その視線に耐えられるだろうか。そしてじき夜が来て、人気のない夜の工業地帯を走ることになる。夕飯を作らなくていいのか。
それでもやるのだ。私は。やってみせよう。
これは、以前から検討していた鶴見線沿線ぶらりだの、工場夜景クルーズだの、そんなことよりはるかに私がすべきことで、私の人生にとってもっと大切なことなのだ。
結果、近づけなくても、見失っても、結局何かわからなくても、構いはしない。「あれは○○の光ですよ」と誰かが教えてくれたって知るものか。46歳の女がひとりであの光の謎を追うことは、たぶん、私以外にとっても、必要なことなのだ。
2023年、私は真南の光を追って自転車に乗る。