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もしもあの時、世界が変わってなかったら

8年ぶりに、浅草橋から秋葉原への道を歩く。目指すはパズル浅草橋。3rd classで出会い、互いに受講生とメンターの関係性を経験したナオトと、記憶の中のヒントを頼りにパズル浅草橋を探す。あんなに毎週歩いていたのに、駅からの道がどうしても思い出せない。覚えている出来事を語り合いながら、覚えていない建物の角を曲がっていく。なんとか見つけたパズル浅草橋は、記憶から消えてしまったみたいだ。欠片程度の記憶では、懐かしさに浸ることもできなかった。

その帰り道、秋葉原駅前にある「59周年」と看板を見つける。「59周年?キリ悪くない?」と思いながら、訝しげにそのお店に入った。火曜日の閉店間際なこともあってか、店主さんは時間を持て余していて、ちょこっとお話することができた。どうやら59年間、ご家族で切り盛りされてきたらしい。こちらがソロモンに行く話をすると、

「2年後またここに帰ってきてな。61周年だから」
「駅前の再開発で2年後は残ってるかわからんけどな」

と笑っていた。一期一会的な出会いだったのに、なんとなくまた顔を見せたいと思ってしまった。そう思える人が日本にいれば、途上国で2年間を過ごす元気の源になる気がする。ナオトとの別れ際、「成田にお見送りに行くかも」と彼は言ってくれた。そんな友達と店主さんに囲まれて過ごした時間は、日常にある小さな幸せの1つだ。



最寄駅まで着いて、家まで歩いて帰る。たまたま元バイト先の学童の横の道を通った時、「そういえばここで任地変更の連絡が来たなあ」とふと思い出した。2020年度1次隊だった僕は、大学卒業後にバヌアツに派遣される予定だった。職種は今と同じ小学校教育。その時は、

「同じ島内にある小学校に任地変更になります」

という連絡だった。「せっかく赴任する小学校の前任者と繋がりを持って情報集めてたのに・・」と落胆しながら、「とんでもないです!行かせてください!」と張り切った声で返答した。協力隊一本の進路選択をした僕の返事は、「はい!」か「Yes!」か「喜んで!」の3択しかない。世界中どこへでも行く覚悟は持っていた。結局、コロナでどこにも行けない世界に変わってしまったのだけど。

コロナがなかったら、その小学校に派遣されていたんだろう。そこで生きるはずだった自分の人生は、今と全く変わっていたに違いない。出会うはずだったバヌアツ人とも出会えなくなってしまった。絶望こそしなかったけど、無念さだけは残った。

「人生思うようにはならない。でも思った通りにしかならない」

訓練所で出会ったこの言葉は、訓練中止が決まった時の自分と今の自分、つまり候補生止まりだったあの時と協力隊になった今の状況を如実に表している。20年度1次隊の隊員とは出会えなかったけど、24年度2次隊の隊員とは濃い時間を過ごすことができた。それが運命だったと片付けてもいいし、協力隊に恋焦がれた結果とも言える。

ソロモンに行くことが決まり、先輩隊員のnoteをちょこちょこ読んでいる。そこには、思い描いていたソロモンのイメージとは、全く異なる内容が書かれてあった。綺麗だったはずの海に浮かぶ無数のプラスチックゴミ。ゴミ山で暮らすたくさんの人々。これがソロモンの現実なんだろう。大きなギャップがあるように感じたのは、自分が大きな期待をソロモンに抱いているからだ。南国に浮かぶ島々。たくさんの苦難に直面しても、温かいソロモン人に支えられて何とか乗り切って、充実した気持ちで心を満たして帰国する――。

そんな勝手な期待をするからこそ、勝手に失望し、怒りが湧く。押し付けがましくなり、主張を無理に通そうとする。僕が直さなきゃいけないクセである。「期待する」ことの概念を、まだ自分の中で上手く整理ができない。「期待する」ことについては、ソロモンでたくさん考えそうだな。他人は変えられないし変える必要もない。変えるべきは自分であって、健全な劣等感を持ってして、自分に期待をする。誰に何を期待してしまっているのか、それを自覚するところから目の前の人とのコミュニケーションは始まるのかもしれない。そんな自問自答を任国でも忘れたくない。

なんだかいつも、アドラー心理学に戻ってきてしまうな。ひとまず任国へ出発した皆さん、これから出国する皆さん、どうかお気をつけて。僕はもう一ヶ月日本食を堪能します。みんなが明日も、美味しいご飯を食べられますように。

追伸1
訓練所での日記は、途中で止まってしまいました。それだけ日々忙しかった。 忙しく過ごせていました。自分が打ち込みたいことに打ち込めるだけの環境があり、多くの尊敬できる人やコトに出会えたことに、ただ感謝です。

追伸2
ソロモン検定1級に合格しました。ネットで調べられる範囲のソロモン知識ですが。笑


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ヤマトカズキ
読んでいただきありがとうございました!