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【#9】「いつか世界を変える力になる」のは、現地の人であってほしい

小さな冷蔵庫を置く木材テーブルの下に、顆粒だしのような細かい粒が大量にばらまかれていた。翌日も、さらに翌日も、同じような大量の粒。ChatGPTに聞いてみると、「シロアリかもしれませんね」と返ってきた。なにっ。確かに、シロアリのふんの特徴によく似ている。

大家さんに相談すると、息子さん達がやってきてくれた。テーブルの裏を見ると、穴の中からシロアリがチラチラと顔を覗かせていた。やっぱりそうか。息子さんたちは隣の倉庫からいくつか木材を引っ張り出してきて、新しいテーブルを作り始める。この木材、シロアリいそうだけど?そのまま一緒に作業をしながら、冷蔵庫置きを作った。また粒が出ないといいのだけど…。様子を見ることにする。

シロアリよりは、わんこの写真のほうがいいだろう

先生がいない教室で

ソロモンでは、登校時間に雨が降ると、児童の欠席が増えやすい。アウキ小学校も例外ではなく、特に低学年ほど顕著だ。週末の金曜日、この日は朝から雨が強く降っていた。「来る子が少なそうだなあ」と4年生の教室で待っていると、担任の先生も来る気配がない。教室の鍵はなんとか開けたものの、全然来ない。「明日の1時間目の算数、あなたの教室に行くからね!」「了解!待ってる!」とやりとりしたのにな…。

ここで突然、2つの選択肢が現れる。
① 担任の先生に代わって算数の授業をする。
② 何もせず、静かに待ち続ける。

あなただったら、どちらを選ぶだろう?それぞれに意義はあるので、どちらを選んでも間違いではない。僕はどちらも選ばなかった。いや選べなかった。

授業をすることの功罪

「魚を与えるのか、魚の釣り方を教えるのか」——協力隊を志望してから何度も耳にしてきた言葉だ。でも、どちらも単純に行えばいいわけではない。与えるだけでは依存を生みかねないし、意思や環境がなければ、教えるだけでも意味をなさない。

①の場合、授業をやることで、子ども達の学習時間は確保できる。でもその場しのぎだ。「Kazがいるなら、教室に行かなくてもいいか」となってしまえば、担任の先生がますます来なくなるかもしれない。ただのマンパワーとなる状況は、できる限り避けたい。

②の場合、①の状況は避けたにしても、ただぼーっと過ごす時間はあまりにも無駄すぎる。そもそもの問題は、先生が時間通りに来ていないことだが、先生に早く来る意思がないのに、早く来た方がいい理由を論理立てて話したところで意味がない。時間に間に合うように出勤するのは先生自身の課題であって、僕や子ども達の課題ではない。

もし著しく誰かが傷つけられている状況ならば、どんな状況だろうと介入する必要がある。それを見過ごすわけにはいかないからだ。そうでない限りは、待つ。つい手を差し伸べたくなるのが先生だからこそ、待つ。

結局この日は待った挙句、日本語教室の時間にした。算数の授業をするのは担任の先生の仕事で、僕の活動ではないと割り切った。その後、先生が姿を見せたのは、定刻から1時間40分後だった。

扉を開けようとする子どもたち。
開けるのはカギではなく、ネジのようだ。

「それ、やりたい!」の声を引き出す

僕が担当している体育の授業は、もちろん勝手にやっているわけではない。校長先生から「任せたい」という声があり、先生たちの「これまで体育の授業をしたことがないから、日本の体育教育を知りたい」という声に基づいている。一人で授業を完結させるのではなく、レッスンプランを先生たちに共有し、二人体制で授業を行う。授業後は、英訳した日本の学習指導要領を用いて解説し、記録に残す。最終的な理想は僕がサポートに回り、担任の先生が授業をすることだ。

協力隊の活動全般において、「何も求められていないけど、やった方がいいからやる」とか、「この人の行動は良くないから変えさせる」といった考えは、到底成り立つものではない。それはただ、こちらの正義を押し付けるだけになる。

協力隊としてできることは何か?それは、「『やりたい!』と言ってもらえる環境を作り続けること」が、一つの答えだと思う。僕の「やりたい」を押し通すのではなく、それは選択肢の一つとして提示するにとどめる。共感してもらえたら一緒に取り組み、納得してもらえなかったら、どんなに良さそうなことでも、一旦やらない。最終的な決定権は、現地の先生達にあるし、「いつか世界を変える力になる」のは、現地の人であってほしい。

「やりたい!」という声が上がらない背景には、単に興味がないパターンもあるし、信頼関係がまだ築かれていないパターンもある。それでも、求められていないものを押しつけるのではなく、時間と労力をかけて求められるものを作っていきたい。思わぬ出会いや出来事が、後押ししてくれることだってある。

たとえ、「きっかけを作れなかった」と思っていても、2年間が無意味になることはない。今は見えなくても、種は確実に現地にまかれている。必ず、誰かのきっかけになっている。協力隊の活動とは、きっとそういうものなのだ。

〇おまけ

依頼が通ってグラウンドの草刈りが始まった
うん、いい感じ!体育で使えそう
先生を待っていた日の教室。
黒板は昨日の日付のまま。
5年生、二乗とかやるっけ。。
4年生で指を使った計算をしている厳しさ。
指が足りない時は棒線を引く。
半ズボンで作業をするソロモン人、嫌いじゃない


今回はここまで。


福岡の小学校で3年間勤めた後、JICA海外協力隊2024年度2次隊になる。派遣国はソロモン、職種は小学校教育。現在はマライタ島アウキにある小学校で活動中。人生の目標は「いいパパになること」。



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ヤマトカズキ
読んでいただきありがとうございました!