よよこ、研修生活に涙する
父から譲り受けた銀のアタッシュケースはとても格好よかった。
しかし、重すぎて実用的ではなかった。
何せカメラのボディもレンズも1台では足りない。
2台のボディとレンズ数本、そしてストロボ2台。
これがミニマムのスタートだった。
カメラバッグも新調し、いよいよプロカメラマンっぽくなってきた。
とはいえ、スクールを卒業したから、
「明日からプロです。さあ、お仕事です!」
というわけにはいかない。
先輩カメラマンにくっついて本番の結婚式に研修生として入る。
ここからが本当の修行だった。
自分が写真を撮るより、とにかく先輩を見失わないことに必死だった。
さらに、邪魔にならないこと。
先輩の対角線にいてはいけない。
映り込むから。
カメラはスチールだけではない。
本番ではビデオも入る。
配膳の方もいる。
最初のうちはただただ動きを知るだけで精一杯だった。
それでも撮らなければ評価をしてもらえない。
だから必死に撮った。
いや、必死にシャッターボタンを押した。
毎週末はそうして研修に入る生活だった。
結婚式は披露宴まであるので、5〜7時間は撮影をする。
終わるとぐったり。
よよこは運動経験もほとんどないので、
疲労は溜まる一方だった。
そうして数ヶ月が経ち、次第に動き方もわかるようになり
研修生でもバリバリと撮影をこなすようになった。
邪魔にはならないようにしつつも、いい写真が撮りたいから
だんだんと前へ前へと出るようになった。
そんなとき、ある会場でケーキカットのシーンを撮影しようと
新郎新婦の近くによったとき、前にいた会場を取り仕切るキャプテンが後退りしてきた。
キャプテンの真後ろにいたよよこは避けきれず、
キャプテンに足を踏まれた。
足を踏まれたのはよよこである。
でもキャプテンにとっては、邪魔な研修生が自分の行く手をはばんだのである。ものすごい形相で睨まれた。
すぐに会社のスタッフから呼び出され、
「今日はもう撮らずに帰って。キャプテンが怒ってるから」
と言われた。
悔しくて悔しくて涙が溢れでた。
何が悔しいのかわからなかったけれど、とにかく悔しかった。
よよこは真っ赤な目のまま静かに会場を後にした。
怒られたことは数えきれないほどあったが、この日は妙に堪えた。
よよこはその時30代後半。キャプテンは自分よりもずっと若い。
「私、何してるんだろう」
この歳になって自分よりずっと若いキャプテンに怒られて泣くなんて。
プライドも傷つき、自分が情けなく、辛かった。
それでも、自分を鼓舞できたのは応援してくれる家族の存在が大きい。
スクールに入ったとき「目標は?」と聞かれ
「子どもに夢を背中で語れる親になりたいです」
と、ザ・昭和な目標を堂々と語った。
だから、あきらめるという選択はよよこにはなかった。
そうやって苦しみながらも前に進み、
数ヶ月後いよいよデビューを告げられた。
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『よよこ、プロカメラマンになる』
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