よよこ、初陣で大失態
何度かの研修を経て、新しい会社でのデビューが決まった。
初陣はいくつになっても緊張する。
といっても、これまでのように初めましてでいきなり撮影ではない。
新しい会社ではカメラマンは指名制。
そう、お客様から指名をいただかないと撮影はない。
ご指名を受け、まずは打ち合わせを行う。
人伝では、人の受け取り方次第でこちらに伝わるニュアンスも変わってくるが、
カメラマン本人が打ち合わせを行えば、お客様の想いを直接受け取ることができる。
初陣の打ち合わせはまずまず。
よよこは40歳だったので、人生経験はそれなりに豊富。
結婚するカップルも年下の方が多かった。
ゆえに、初っ端から安心してもらえるケースが多い。
たとえ初陣であっても、第一印象は上上だった。
いよいよ晴れの日。
お天気にも恵まれ絶好の撮影日和だった。
結婚式の撮影では式の前にお二人の記念写真を撮ることが多い。
ここが最初の”見せ場”だった。
よよこは洗練されたフォトグラファー集団の一員になったから、
「さすが!といわれる写真を撮らねば」と思っていた。
お二人の正装写真を撮影したのち、
「ではちょっと走ってみましょうか」
よよこは動きのあるショットを撮りたくて、そう、花嫁に持ちかけた。
花嫁はとてもノリが良く明るく元気な女性。
嬉しそうに全力で走ってくれた。
そう、全力で。
そして
次の瞬間、ドレスを踏み転倒した。
よよこの頭の中は一気に真っ白になった。
「だ、大丈夫ですか?」
カメラを脇に花嫁の元にかけよった。
すると花嫁は、
「大丈夫!転んだところ写真に撮った?」
と、にっこり笑顔でそう答えた。
懺悔の気持ちでいっぱいだった。
よよこはすっかり気が動転していたが、
この花嫁の笑顔に正気を取り戻した。
その後は冷静さを取り戻し、式は無事に終わった。
しかし、よよこには反省しかなかった。
「なぜ、走れなんていってしまったのだろう」
自分の結果ばかりに目がいき、一番大切なものを見失っていた。
撮影後、社長に一部始終を報告。
クビを覚悟した。
社長は、
「なぜ走らせたの?」
よよこ
「動きのある姿を撮りたくて」
社長
「僕もよくスキップしてもらって写真を撮るけど、あれはスキップしている写真を撮りたいからなんじゃないんだよね。
スキップをすることで和む二人を撮ってるんだ」
そう、走らせたことの目的がよよこはめちゃくちゃだった。
珍しい写真を撮りたかったというエゴでしかなかった。
写真を撮るときは、常に先を見据える。
その先に見える絵を予測して指示をだし、撮影をする。
瞬間を切り取るからこそ、瞬間を生み出すこともまたカメラマンの力である。
よよこにはそれがなかった。
これがよよこの初陣。
この会社ではアルバムも担当したカメラマンが制作する。
よよこもAdobeのソフトを駆使してアルバムを作った。
アルバムを作ることで、何が必要で何が足りていないのかがわかる。
できあがったアルバムはカメラマンから直接お客様へと手渡す。
その時間もまた、式の一部なのだ。
仕上がったアルバムをキラキラした目で眺める二人。
転ばせてしまう状況を作ったことは反省しかなかったが、
何よりそれすらも二人が楽しかった思い出の1ページに入れてくださったのは、
お二人のやさしさと全スタッフの対応によるものだ。
担当したカメラマンだけでなく、結婚式を支えるすべてのスタッフの力でそれは実現する。
あの日、どれだけスタッフに支えられたか。
それがあったからお二人は幸せな気持ちで式を終えることができた。
よよこはそのことをこの初陣で学んだ。
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『よよこ、プロカメラマンになる』
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