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浜村淳と韓国海苔②


―――地元の同級生に韓国海苔をお裾分けする。


この状況に、私は心のどこかで舞い上がっていた。
普段人との関わりが少ない私にとって、それはイベントも同然だったからだ。
そして私のサービス精神は歪んだ内面を経たことにより、あらぬ方向へと加速しはじめた。


さて。
どういう形で彼女に韓国海苔を送るか。

現物をそのまま送るというのは有り得なかった。
ラッピングをすることによって、届いたときに彼女の気持ちを少しでも高まらせたい。そう考えたのだ。


数日間ラッピングについて悩んだ末、近所の百均に行って無地の四角い箱と紙パッキン(ラッピングでよく使われる、細い紙がクシャクシャになっている緩衝材)、折り紙、スティックのりを購入した。

箱と紙パッキンは万人受けしそうな自然派のクラフトっぽいものにした。
箱は分かりやすく言えば結婚指輪が入ってるケースのような感じでフタが開く仕様となっている。


ようやく揃えた材料を前に私は緊張していた。
それほど私は真剣だったのだ。

まず、折り紙の中から金色を選び取った。
そして箱をパカッと開いて「フタの内側すべての面」にその金色の折り紙を丁寧に貼り付け始めた。
スティックのりで四隅まで隈なく貼り付け、その後さらに定規を使って折り紙の表面を均一に伸ばしていく。

それは壁紙のようにシワひとつない仕上がりであった。
「よし、ここまではイメージ通りだ。」
金色に輝く壁面には、満足気な自分の顔がぼんやりと見て取れるようだった。


続いて、今回のラッピングの主役となるパーツを慎重に取り出した。
実は事前に準備をしていたお手製のものである。

それはおよそ100枚以上の検索画像の中から時間をかけて選び抜いた「とびきり胡散臭い笑顔の浜村淳」の切り抜きであった。
私は選りすぐりの浜村淳を上質紙に高画質で印刷し、新品のハサミを使い、全神経を集中させて切り抜いたのだった。

人の写真をハサミで切り抜いた経験のある人しか分からないであろうが、髪の毛を自然に切り抜くのはとても難しい。
極力余白は残したくはないが、髪の毛の流れに反して不自然に切ってしまうと一気にクオリティが下がってしまう。
最高品質をお届けしたい。茶番にはしたくない。
その心はもう職人であった。

そのようにして切り抜いた渾身の力作である浜村淳を、私は慎重に金色の折り紙の壁面に貼り付けた。
貼り付ける瞬間は、息さえ止めていた。

そして最後に箱の底に紙パッキンを敷き詰め、その柔らかなベッドに韓国海苔をそっと寝かせた。
優しく包まれた韓国海苔はとても神聖な佇まいである。


やり遂げた。
ついに完成させたのだ!


作品は、とても満足のいく仕上がりであった。
一見すると何の変哲もない無地の箱。
しかしフタを開ければ目が眩むほどに輝く金色の世界に満ちており、その中央には静かに微笑む浜村淳が鎮座している。
彼の前にはへその緒のように大切に守られた韓国海苔がひとつ。
それはまるで神聖な祭壇であった。


そしてそれこそが私なりの「ラッピング」なのだった。


御満悦でそれを送った数日後、彼女からお礼の電話があった。
優しい彼女は笑ってくれていたし、私ももちろん嬉しかった。
しかし彼女との連絡は途絶えてしまった。



遠回しな嫌がらせだと誤解されたのかもしれない。





【後述】
当時の私は浜村淳のことが好きでも嫌いでもありませんでした。(今もですが)
ただ、一種の神聖さは感じていたように思います。
だからといって韓国海苔1個に対し、余りにも偏った世界観のラッピングだったと反省しています。
今では人に喜ばれるような常識的なラッピングを覚えました。
ですが、この時ほど内なる情熱を捧げたラッピングは他にありません。

最後まで読んで頂き、どうもありがとうございました。

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