気候変動と水害対策
本州に接近した台風13号は熱帯低気圧に変わり、上陸はしなかったものの茨城、千葉、福島の3県で線状降水帯が発生して大雨となり各地で土砂災害などの被害が発生しました。被災にあわれた方々にお見舞いを申し上げます。気候変動の影響に伴い災害が激甚化しこれまでの治水対策では間に合わなくなっている昨今。そんな治水対策の変遷についてまとめたメモがあったのでこの機会に公開してみます。
流域治水とは、事前防災対策の加速化と「水災害リスクを流域内でどのように分担させるか」が重要で、土地利用や流域での貯留、土地の遊水機能の活用など流域における対策のことで、令和3年に流域治水の実効性を確保するための法整備が行われ、河川整備基本方針にもその方向性が反映されている。
これまで、日本の治水対策は築堤や河川拡幅等の河川改修を進めることで、流域に降った雨を川に集めて海まで流すことを基本として行われてきた。堤防の整備に長期間を要することや気候変動による降雨量の将来的な増加予測などから、水災害対策と土地利用等を連動させた地域づくりや流域での貯留、土地の遊水機能の活用などの必要性が指摘され、流域全体の関係者が協働しておこなう「流域治水」への転換となった。
令和2年の国土交通省防災・減災対策本部において「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」として取りまとめた10のプロジェクトの一つとして「あらゆる関係者により流域全体でおこなう「流域治水」への転換」を位置づけることを示した。それを踏まえ一級水系において河川管理者、都道府県、市町村等で構成する協議会を設置し、対策のロードマップ等を記載したプロジェクト全国の一級水系において早急に実施すべき流域治水の全体像をまとめた「流域治水プロジェクト」が策定されて発表された。各プロジェクトでは「氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策」「被害対象を減少させるための対策」「被害の軽減、早期復旧、復興のための対策」に分けて具体的に推進する対策が記載されている。令和3年に流域治水の実効性を高めるため通称「流域治水関連法」が制定され、流域治水の全国展開と体制強化が図られている。
気候変動の影響を背景とした流域治水プロジェクトでは「氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策」として、大河川の水位低下にも寄与する利水ダム等の事前放流や、中小河川に有効とされる様々な流出抑制対策、保水・遊水機能のある土地の保全など、「被害対象を減少させるための対策」としては水災害リスクが高い区域における土地利用規制、リスクが低い地域への居住の誘導といった施策が打ち出された。また、流域治水関連法において法整備が行われ、流出増を抑制する装置の義務付けが地方部の河川流域でも可能になり、新たに雨水貯留浸透施設の整備を支援する制度や保水・遊水機能を有する土地を確保する貯留機能保全区域の指定、水災害リスクの高い土地の利用規制に関する浸水被害防止区域の指定が可能になった。
流域治水を推進する法整備や方向性が進められた一方で、関係者が増えたことによる調整が課題とされえている。上下流を始め地域間の負担を調整する仕組みの構築や、河川管理者は地方自治体、地権者の協力を得るために水災害リスクの情報提供や当事者間の合意形成の調整をしっかりと行う必要が出てくる。