夫婦、親子の氏が違うということ
自民党総裁選は決選投票の結果、石破茂議員が新しい総裁に決まりました。就任後のあいさつで「日本国をもう一度、皆が笑顔で暮らせる安全で安心な国にするために全身全霊を尽くす」と決意を述べていました。今回の総裁選は現在の制度になってから最多の9人が立候補し、期間中に多くの政策テーマが議論されていました。地方創世担当大臣として地方を巡っていたのが功を奏したのか、決戦投票では都市部と地方で投票先が分かれていた。さて、様々な政策テーマがあった総裁選ですが、今回は個人のアイデンティティが深く関わるとして自民党内で30年以上議論されてきたと言われる氏の問題。夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める「選択的夫婦別氏制度」について少しだけ考えていきたいと思います。
「姓」か「氏」か
総裁選期間中に各候補やマスコミは「選択的夫婦別姓制度」と話していたが
数人の候補者は「選択的夫婦別氏制度」と言っていました。「姓」なのか「氏」なのか、どちらが正確なのかというと「氏」である。民法等の法律では、「姓」や「名字」のことを「氏」と呼んでいることから、法務省などの省庁では「選択的夫婦別氏制度」と呼ばれていいるので法律の話題の場合は「氏」を使うのが正しいと言えると思います。氏は本来、親族集団、血筋を表す名称のことでかつては天皇から賜ったりしたものなのに対し、姓は朝廷が各氏族や個人に与えた位というように分けれていました。氏姓(うじかばね)制度という名前を聞いたことあると思いますが、かつては氏と姓の両方を名乗っていた時代もありました。
同氏と別氏
現在の民法のもとでは、結婚に際して、男性又は女性のいずれか一方が、必ず氏を改めなければならない「夫婦同氏制度」がとられています。令和3年に実施された「家族の法制に関する世論調査」において、夫婦の名字の在り方に関する設問において、
現在の制度である夫婦同氏制度を維持した方がよい 27.0%
旧氏の通称使用についての法制度を設けた方がよい 42.2%
選択的夫婦別氏制度を導入した方がよい 28.9%
という結果になりました。夫婦同氏制度が憲法に違反しているのではないかが争われた裁判で、最高裁判所大法廷は、平成27年と令和3年の2度にわたって、夫婦同氏制度は憲法に違反していないと判断しました。しかし、この判断は、いずれも選択的夫婦別氏制度に合理性がないとまで判断したものではなく、夫婦の氏に関する制度の在り方について「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」と判示しています。
別氏制度を導入すると
選択的夫婦別氏制度導入に賛成する側の意見として「氏を変更すると不利益が生じる」「氏を含む氏名が個人のアイデンティティに関わる」「同氏を強制することが婚姻の障害になる」などが言われています。反対に同氏は「日本社会に定着している」「個人の自由ではなく公的制度の問題」「夫婦・家族の一体感と子どもの利益に資する」と言われています。同氏とする制度を使用しているのは日本だけと、海外の例をあげて説明する方もいますが、日本社会に沿った公的制度の話なのでこれを根拠に制度導入は少し違うと思うので割愛。
おわりに
選択的夫婦別氏制度について簡単におさらいしてみましたが、個人的には導入は現状では反対です。家族は社会における最小限のコミュニティであり、一体感を保つために氏を統一しておくことは大事だと考えます。仮に夫婦が個人のアイデンティティから別氏にした場合に、不利益を被るのは当事者である夫婦ではなく、その子ども達が混乱をしてしまうのではないでしょうか。通称や旧姓使用の拡大を図りながら、世界に誇れる戸籍として同氏制度を維持していくのかま良いのかと考えています。
おまけ
私は、両親ともに戸籍上は同姓ですが、父が通称使用をしているために、実父であることを疑われながら数十年生活をしてきました。実質的な不利益は何だ?と聞かれたら難しいかもしれませんが、先ずは必ずと言っていい程、親子関係を説明するところからスタートします。この面倒さと言ったら…。最近では片親も増えていることから気にする人は減っていますが、両親がいて当たり前という人からは偏見もあるでしょう。そんな時に夫婦は良くても、差別やいじめの対象になるのは子ども達です。この部分が解消されないうちは別氏制度は導入すべきではなく、旧姓併記や通称使用を有効活用してほしいです。