Matilde

英語のようにメジャーではないため需要は少ないけれど、一応某言語の翻訳家志望。日本語の表現力に磨きをかけたくて創作にも挑戦中。 ショートショート、読書メモを中心に、時々エンタメの感想なども載せていく予定です。

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英語のようにメジャーではないため需要は少ないけれど、一応某言語の翻訳家志望。日本語の表現力に磨きをかけたくて創作にも挑戦中。 ショートショート、読書メモを中心に、時々エンタメの感想なども載せていく予定です。

最近の記事

【読書メモ】『40歳がくる!』雨宮まみ

 どこをどう巡って私は雨宮まみにたどり着いたのか…全く思い出せない。  昔々、ある小説の「〇ページの〇行目からの文章は僕の気持だから」と言われたことがあったけれど、いま私は「この本は私が書いたんじゃないかと思うくらい、全部私の気持ちだから」と彼に返事をしたい。年齢を重ねてもやっぱり解決できない問いはいくつもあって、割り切ったつもりでも全く心は晴れず、でもまぁそんなもんでしょ、と言いながら日々を過ごしている私と雨宮さんの距離は、実はかなり近かったんじゃないかとハッとした。とど

    • 【読書メモ】『盲目的な恋と友情』辻村深月

       ある意味、ホラーだった。いや、ジャンル的には絶対違うけど。  登場人物たちの執着も傷つきもコンプレックスも、よくわかるよ。  あるよね、いるよね。  だからこそ、うわっ、怖っ、という感じのホラー味があってホラーだったなと。 「盲目的な」、は「恋」にも「友情」にもかかっていたのね。  あと、楽団員と指揮者というのはねぇ…奥歯にものの挟まったような言い方しかできないけど(笑)、まあ、あるよね(最後まで言葉は濁す!)

      • 【読書メモ】『自閉症は津軽弁を話さない』松本敏治

         自閉症児は津軽弁をしゃべらない、という妻の何気ないひと言に「そんなわけないだろう」と反論したところから夫婦喧嘩に発展(笑)、それならと調べ始めてみると、他の地方でも自閉症が方言を話さないというのは常識のようで…  人はどのように言語を習得し、自閉症の人たちは言語習得過程のどこに困難があるのか、また、方言を使うとはどういうことか、共通語との使い分けは?  言葉やコミュニケーションについて興味深い話が満載で面白かった。私たちは無意識に結構複雑なことしてるのね…

        • 【読書メモ】『竜の医師団』庵野ゆき

          「異世界青春医療ファンタジー、って何だよ」って思っていたけど…読んだらこれ以上ないくらい異世界青春医療ファンタジーだった(笑)  竜と人間が共存する世界で、竜の治療にあたる医師を目指す、竜相手の「はたらく細胞」的な? 物語。ラノベのような読みやすさがありながらも、2巻で扱うのは安楽死にカテーテル治療に再生医療にと、かなりの本格派。それもそのはず、庵野ゆきというのは2人の共同ペンネームで、うちひとりは医師とのこと。  続きが楽しみなシリーズがまたひとつ増えた。

          【エッセイ】長電話

           いま一番したいこと、長電話。  中学時代の親友を思い出す。学校で毎日会ってたくせに毎晩飽きもせず長電話をしていた。くだらない話ばかりだったけど。  最近は電話自体、よっぽどのことがない限りしなくなった。電話で話せる友だちがいないわけではないけれど、それぞれ仕事があり家庭があり、なんだか時間を奪っているような気がして躊躇してしまう。あの頃はお互いに自分だけの時間がふんだんにあったからできだけど、いまはそうもいかない。今度会った時話せばいいか。そうやって飲み込んだ言葉を、せ

          【エッセイ】長電話

          【読書メモ】テーマは台湾

           何年か前に呉明益の本を立て続けに読んだことはあったけど、以降そんなに台湾文学にふれる機会もなく。最近になってたまたま台湾人作家の本を集中的に読んだので、まとめて読んだ順に感想など。   ①『台湾漫遊鉄道のふたり』楊 双子  日本統治下の台湾を舞台にした、著者曰く「美食X鉄道旅X百合」小説とのことだけど、テーマを今風に言うなら「アンコンシャス・バイアス」ってことになるかな。  美味しそうなものばかり登場する楽しい小説かと思いきや、テーマは意外と深く、結末はせつない。   ②

          【読書メモ】テーマは台湾

          【読書メモ】『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス

           数奇な運命をたどった古書「サラエボ・ハガダー」が発見された。古書鑑定家が調査している現在(1996年)と、時代をどんどん下りながらこの本を手にしていた人々の話が交互に語られる。本自体は実在するけれどそれにまつわる物語は全てフィクション。 「サラエボ・ハガダー」というユダヤ教の本は、14世紀にキリスト教国だったスペインで作られ、第二次世界大戦中もサラエボ紛争の時もイスラム教徒によって守られた。たしかに想像力をかき立てられる素材ではある。好奇心をくすぐられる骨太な歴史ミステリー

          【読書メモ】『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス

          【超ショートショート】心変わり

           あなたのことが嫌いになったわけじゃないの。今でも好きよ。ずっと前から私はあなた一筋だったものね、私の心変わりが信じられないのもわかるわ。私もまさかこんなことになるなんて思っていなかったから。    はじめは軽い気持ちだったの。浮気だと責められればその通りなんだけど、本当にただの遊び、ちょっと試すだけ、って……魔が差すってこういうことなのね。    誤解しないで。本当にあなたがイヤになったからじゃないし、あなたは何も悪くない。ただ、出会っちゃっただけなの。ええ、大好きなの、あ

          【超ショートショート】心変わり

          【読書メモ】『赤と青のガウン』彬子女王

           実は行動範囲がかぶるので、よく某所で朗らかに談笑されている彬子さまをお見かけします。  この本は数年前に刊行された彬子さまの留学記ですが、SNSでバズって最近文庫化されたとのこと。ウィットに富み嫌味がなく内容もとても楽しい。こんなに面白い文章を書かれる方だったとは……!話題になるのも納得です。  最近、「友達」についてよく考えています。どういう状態を「友達」と呼ぶのか……  誕生日におめでとうのメッセージを送りあうとか旅のおみやげを買ってくるとか、そこに「友達」の本質があ

          【読書メモ】『赤と青のガウン』彬子女王

          【読書メモ】『ヨコハマメリー: 白塗りの老娼はどこへいったのか』中村高寛

           ほんの数回だけだったけど、ダイヤモンド地下街の入り口で、関内駅の構内で、メリーさんの姿を見かけるのは恐怖でしかなかった。表紙の写真の通り、ひらひらした服を着て顔を白く塗った姿はまさに異形、こども心になんだか不吉なモノに遭遇したようでいやな気持になったものだった。  この本は映画「ヨコハマメリー」の監督さんによる制作ノート、になるのかな。  ある日忽然と横浜から姿を消したメリーさん。結果的に彼女の所在は判明するけれど、メリーさんに関わりあった人々への丹念な取材によって本人不

          【読書メモ】『ヨコハマメリー: 白塗りの老娼はどこへいったのか』中村高寛

          【読書メモ】『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー

           ヴェールの着用を拒否して大学教授の職を追われた女性が、自宅で女子学生たちと密かに行った文学研究会の回想録であり、イラン革命とその後のイラン・イラク戦争によって存在そのものが翻弄されてゆく女性たちの物語でもある。  人にはなぜ文学が必要なのか、そのひとつの答えがあるように思う。彼の国で息の詰まる思いをしている女性たちの現実逃避と、現実に立ち向かう勇気を得るための束の間の休息。  女性の連帯の物語は好きだ、元気が出る。

          【読書メモ】『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー

          【ショートショート】お菓子作りの効能とポルボロンの思い出

           たまたま立ち寄った食材屋にアーモンドプードルが置いてあった。それも珍しくマルコナ種の。  そうだ、今日はポルボロンを作ろう。  最近ずっとお菓子ばかり作っている。チーズケーキ、スコーン、ブルベリーマフィン、紅茶のパウンドケーキ……。時には食事の支度を後回しにしてまでお菓子作りに熱中している。料理に関してはわりと惰性で適当に作る方だが、お菓子作りの方は訳が違う。レシピ通り分量と温度と時間をちゃんと守ればお菓子作りで大きな失敗はしない、という料理の得意なおばの言葉を思い出し

          【ショートショート】お菓子作りの効能とポルボロンの思い出

          【超ショートショート】私の竹取物語

           夕方、祖父が裏山に筍を取りに行くというので、私と弟も小さなシャベルを持ってついて行った。私たちが土からのぞく筍を探して、ある程度まで掘り進めると、祖父が大きなスコップを突き刺してガサっと取り出す。その時の音で、途中で折れてしまったか根元から丸ごと取り出せたかがわかった。 「あー、失敗」 「今度は成功」  わいわい言いながら私たちは筍を次々とかごに入れていった。  そろそろ引き上げようかという頃、弟は竹藪の中でキョロキョロし始めた。 「どうしたの?」と私が尋ねると、 「うー

          【超ショートショート】私の竹取物語

          【超ショートショート】雨と傘、と狸

           雨の日は憂鬱だ。   「そういえばさ、朝から雨が降っている日に、街ですれ違った結婚披露宴に出席するらしい女の子のさしているのがビニール傘だったりすると、心底がっかりしない?」 会社の飲み会で、突然同僚の大井さんがそんな話を始めた。 「あー、それ、なんとなくわかります。そういう子ってなんか部屋も散らかってそうっすよね」  後輩の松田くんも彼女に同調した。    なにそれ、全然わからないよ。どういうこと? 私は笑いながら聞いた。   「そりゃあ、披露宴に向かう途中で雨が降ってき

          【超ショートショート】雨と傘、と狸

          【エッセイ】『深夜特急』に思う

           最近、ラジオ「朗読・斎藤工 深夜特急 オン・ザ・ロード」が楽しみで仕方がない。寝支度をしながらラジオをつけ、行ったことのない香港・マカオ・タイを想像する。時に斎藤工さんの声を聴きながら寝落ちする。なんという至福の時間!  学生時代、沢木耕太郎さんの『深夜特急』をバイブル的に愛読している男子は珍しくなかった。これを読んで実際バックパックの旅行に出かけ、いかに大変な旅だったかを楽しそうに報告してくれる友人もたくさんいた。  貧乏旅行は若者の特権だった。ご多分にもれず私も

          【エッセイ】『深夜特急』に思う

          【ショートショート】恋愛相談

          「おつかれ、ライブどうだった?」 先日、かなこから「推しのライブで東京行くから泊めて」と連絡があり、一年ぶりにうちにやってきた。数年前に夫の仕事の都合で地方に引越して以来、用事があって上京する際はよくうちに泊まっていく。 「今回めっちゃ席運良くてさ、サイコーだったよ」まだ興奮冷めやらぬ様子で私の部屋に入ってきた。 「いま簡単なおつまみくらい用意するよ。冷蔵庫の中にビールもあるし、食器棚の上にウイスキーもあるから適当に飲んで待ってて」 かなこは冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出して

          【ショートショート】恋愛相談