絞め技はどのくらい危険?
ブラジリアン柔術は絞め技や関節技で相手からタップとる(まいったを言わせる)ことを目標に競技が組み立てられています(護身術的な側面はまた別として)。絞め技は文字通り首を絞めます。こう聞くと危険に聞こえますよね。首には呼吸に重要な気管があるだけでなく、脳の指令を前身に伝える脊髄も通っています。そんな大切な部位を攻撃するとは実に野蛮。危険に感じて当然です。
初心者の心配「怪我をしませんか?」
格闘技をはじめるにあたり、未経験者の人が気になるのは怪我だと思います。怪我については、別のところで書いていますので、そちらを参考にしていただければと思います(末尾にリンクを貼っておきます)。ともあれ、一言でまとめると、怪我のリスクはサッカーなど他のスポーツと同じくらいです。
でも、首を絞められたり、腕や足を捻られたりするわけで、他のスポーツとリスクが同じくらいと言われても納得できないかもしれません。今回は、絞め、つまり、首への攻撃についてのデータを紹介したいと思います。
絞めで典型的なのはバックポジションからの送り襟絞め、道衣がない場合だと裸絞めですかね。送り襟絞めはこんな感じです。
三角絞めも、総合格闘技などでもよく見られる比較的ポピュラーな絞め技です。足で絞める技ですね。確かに見た目は危険ですよね。
柔術をしているとどれくらい絞められるか?
Stellpflugらは、絞め技の危険性について検討するため、4421 人を対象に大規模な調査を行いました(Stellpflug et al., 2020)。ブラジリアン柔術(と柔道)を日常的に練習している人で、およそ80%のひとが5年以下の経験でした。なお、柔術をやっている人が大半です(70%)。
これまでにスパーリングで絞め技にタップした(参ったをした)回数を尋ねたところ、33%のひとが500回以上と答えました。37%が100–500回、残りの30%が100回以下という感じでした。記憶で回答しているので数は正確ではないでしょう。それでも誰もが何度も何度も絞められていることがわかります。
「落ちた」ことは?
絞め技によって意識を失うことを「落ちる」と言います。これは絞めにより頸動脈が圧迫され脳に血液が送られなくなり生じます。息が止まっているのでは(基本的に)ありません。
落ちたことがあるかを尋ねたところ、落ちそうになったひとは75%、実際に落ちたことがある人は25%でした。なお、長期にわたる悪影響があったひとはほとんどおらず、悪影響があったとしても1分から長くても1時間程度、気分が悪くなったり、軽い目眩がしたりといった程度でした。そのあとすぐに回復したそうです。
長期にわたる悪影響を報告した人は、4421人中、たった2人でした。1人は甲状腺の怪我、もう1人は首の怪我でした。これらは絞め技が首や頚椎への攻撃になってしまい、かつ、強度が強すぎた例だと思われます。これは稀なケースです。ブラジリアン柔術でも柔道でも頚椎に負担が出るような攻撃は反則になります。絞め技を適切にかけられると苦しいですが、痛みはほとんどありません。首に外傷を追うことは滅多にないので(実際、2/4421です)、被害にあった方は大変お気の毒です。
というわけで、絞め技という言葉から受ける印象は危険かもしれませんが、思ったよりは安全です。ブラジリアン柔術ではタップをすれば必ず相手は技を解いてくれますから(注1)、絞め技が怪我につながることはとても稀です。少なくとも、絞め技で後遺症がでるような怪我はほぼ負わないことが今回のデータから示されたと思います。これは経験者の直感とも一致します。だからこそ、ブラジリアン柔術は安全な格闘技と言われるのでしょう。
引用文献
・Stellpflug, S. J., Schindler, B. R., Corry, J. J., Menton, T. R., & LeFevere, R. C. (2020). The safety of sportive chokes: a cross-sectional survey-based study. The Physician and Sportsmedicine, 48(4), 473-479.
(注1 )柔道では昔の悪癖が残っていることがあるのでちょっとわかりません。
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