パサーとガーダー:違いは背筋
以前の記事で、ブラジリアン柔術のプレースタイルによって身体つきに違いがあり、パサーはガッチリとして体格が良く、ガーダーはスラッとしてしなやかなことが多いと書きました。パサーは立って押さえ込みを狙うプレースタイル、ガーダーは座って下から相手をひっくり返したり、極め技を狙うスタイルです。
Báezたちが測定するとパサーとガーダーに体格の違いがあったわけですが(Báez et al., 2014)、身体能力に違いはあるのでしょうか?
ブラジリアン柔術に必要な身体能力
de Paula Limaたちは、柔術に必要な動きとして、(1)柔軟性、(2)バランス、(3)背筋力、(4)握力、 (5)脚力をリストアップしました(de Paula Lima, 2017)。背筋力と握力は、固定したものに掛ける力(アイソメトリック、等尺性の力)に、脚力については、動きの中での力(アイソキネティック、等速性の力)に着目するなど、柔術の動きから考えての測定がなされました。詳しく述べると、背筋力と握力は相手を引くときの力を想定し、脚力はガードやパスガードでバランスよく動かす力を想定しています。加えて背筋力と握力は最大筋力と筋持久力の双方が測定されました。
この研究には38名の柔術家が参加し、自己申告に基づいて半数がパサー、残りがガーダーに分類されました。プロフェッショナルな柔術家が参加したと書いてあるのですが青帯の選手もおり、そんなに高いレベルの選手が参加した様子はありません。ある程度の経験があり、試合に日常的に出場する人たちが対象になった感じです。
背筋の持久力に違い
パサーとガーダーの身体能力を測定した結果、統計的に意味のある違いがあったのは、背筋の持続力のみでした。それ以外の項目には、違いはほとんどありませんでした。背筋の持久力は、デッドリフトのような姿勢をとり、30秒維持できる重さとして計測されました。平均でパサー81kg、ガーダー68 kgと10 kg以上の違いがありました。ちなみにそのような姿勢で引く最大筋力に違いはありませんでした。
握力にはこのような違いがなかったので、パサーとガーダーの身体能力の違いは主に背筋の持久力であることがわかります。パスガードではしっかりとした姿勢を保つことが重要です。相手が襟や袖を押したり引いたりしてくるのに耐え、しっかりとプレッシャーをかけパスガードするには、背筋の持久力が特に重要になるのでしょう。
トレーニングで背筋の持久力を高めるには、今回の測定法から考えても、デッドリフトが良いでしょう。高重量だけでなく、持久力を高めるため若干重量を軽めにし、回数を多めにしたセットも行うと良いかもしれません。
他の身体能力は似ている
(1) 柔軟性、(2)バランス、(3)背筋力、(4)握力、 (5)脚力とさまざまな測定をして、差があったのは背筋の持久力だけでした。これは、プレースタイルに拘らず、ブラジリアン柔術ではバランスが取れた身体能力が求められることを意味しています。
ブラジリアン柔術は全身を使う対人競技です。相手によって、やることも変わります。ですから、さまざまな場面に対応できる身体能力が求められます。結果としてプレースタイルに拘らずバランスよく身体能力が上がってくるのでしょう。そう考えると、ブラジリアン柔術がバランスよく体を鍛えるにはとても良い競技であることを今回の結果は示しているのかもしれません。
引用文献
・Báez, E., Franchini, E., Ramírez-Campillo, R., Cañas-Jamett, R., Herrera, T., Burgos-Jara, C., & Henríquez-Olguín, C. (2014). Anthropometric characteristics of top-class Brazilian Jiu Jitsu athletes: Role of fighting style. International Journal of Morphology, 32(3), 1043-1050.
・de Paula Lima, P. O., Lima, A. A., Coelho, A. C. S., Lima, Y. L., Almeida, G. P. L., Bezerra, M. A., & de Oliveira, R. R. (2017). Biomechanical differences in Brazilian jiu-jitsu athletes: the role of combat style. International journal of sports physical therapy, 12(1), 67–75.
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