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ブラジリアン柔術の歴史: "Opening closed guard: The origin of jiu-jitsu in Brazil"の紹介

ロバート・ドライズデールは、ブラジル人以外で、はじめてムンジアルとADCCを制したことで知られています。歴史にも興味があり、史学を専攻して大学院まで進みました。そんな彼がブラジリアン柔術の歴史を辿る旅を記録した本が"Opening closed guard"です。今回はこの本を紹介します。

ロバート・ドライズデールについて詳しくはこちらを。

きっかけ

ある日、ドライズデールは自分の道場の会員から「なんでウチの道場にはエリオ・グレイシーの写真がないんですか?」という質問を受けました。その質問をきっかけに、彼はブラジリアン柔術の歴史について考えはじめます。

考えるだけでなく、それを調べて映画にしたら良いのではないかと思いつくところが一味違います。歴史を大学院まで行って学んだくらいですから、歴史に人一倍の興味があり、研究の方法論も身につけている。だから、ただの趣味や娯楽以上のものを計画したのでしょう。

ブラジリアン柔術は、柔道の創始者嘉納治五郎の直弟子であり、講道三羽烏のひとりと称された前田光世がブラジルに渡り、カーロス・グレイシーを弟子にしたのが始まりだとされています。それがカーロスを通じて弟のエリオに、さらに、彼らのたくさんの息子たちが世界中に広げたというストーリーがよく聞く定番です。

ただし、少し調べるとどうも辻褄が合わないことが多すぎる。そこからドライズデールによる柔術の歴史をめぐる旅が始まるのです。

ブラジリアン柔術をめぐるロードムービー

映画はまだ出来上がっていないようです。その映画を作るための取材過程がこの本では描かれます。映画は基本的にはインタビューをまとめたものになる予定なので、取材対象も柔術をやっている人たちからすると興味津々の人ばかりです。

当然かもしれませんが、カーロス・グレイシーJr、キーラ・グレイシー、ホブソン・グレイシー、ホイス・グレイシーなどのグレイシー・ファミリーが大きく扱われます。競技柔術IBJJFのトップ、カーロス・グレイシーJrとグレイシーファミリーの現在のトップ(族長=パトリアーキ)、ホブソン・グレイシーを抑えるところがニクいですね。

歴史を辿る旅なので、齢90歳にもなる赤帯の先生方も名を連ねます。フラビオ・ベーリングやヴァレンテ兄弟のようなエリオ・グレイシーのライネイジだけが紹介されるわけではありません。ジョージ・グレイシーや小野兄弟のライネイジであるオズワスド・カヒニバレ、オズワルド・ファダの息子、エリオ・ファダ、さらには柔道の赤帯であるシゲロウ・ヤマサキなどさまざまな人々から彼らの人生を聞き、ブラジリアン柔術の歴史を立体的に明らかにします。その過程で、エリオ・グレイシーが語る前田光世からのライネイジだけが、ブラジリアン柔術の流れではないことがはっきりと浮かび上がって来るのです。そもそもグレイシー・ファミリーと前田光世との直接の関係すら疑わしいことや、20世紀初頭のブラジルには日本から柔道がさまざまな形で伝わっており、多くのルーツが現在のブラジリアン柔術にはあることがわかります。

さらにドライズデールたちは、ブラジリアン柔術起源である講道館、高専柔道について調べるため世界中を巡ります。講道館では先日亡くなられた講道館図書資料部長の村田直樹氏にインタビューを行いました。高専柔道について調べるために東大、京大の道場を訪れるくだりもおもしろい。日本の部活における整然とした雰囲気にドライズデールはいたく感激します。

アメリカで始まり、ブラジルに渡り、日本で柔道や柔術、高専柔道まで調べてまたブラジルに戻るという豪華な構成です。日本編では我らが中井祐樹先生も登場します。高専柔道、柔道、ブラジリアン柔術について語るんですから、中井先生ほど的確な方いません。

個人的に面白かったところ

インタビューから浮かび上がる歴史については、別の資料の方が面白いかもしれませんが、言葉の端々から浮かび上がる雰囲気が非常に素晴らしい本でした。例えば、グレイシーとは異なる柔術の源流の一つオズワルド・ファダについて弟子たちの語る言葉は尊敬に満ち溢れていました。リオデジャネイロでも貧しい北側の地域に道場を作り、無料で柔術を教え広めたオズワルド・ファダはグレイシーとは全く別の意味で英雄です。彼の弟子だけでなく、柔術コミュニティ全体が彼を深く尊敬していることがインタビューに出てくる言葉の端々から伝わりました。

あと、取材過程が赤裸々に語られていて面白い。取材の申し込みで「あいつはとんでもないギャラを吹っかけてきた」みたいな話すら語られます。上手くいったこともいかなかったことも割とあけすけに書いてありました。ACBを主催するチェチェン共和国の富豪メルベク・カシエフにこの映画のスポンサーを依頼するためビジネスプランを提示するシーンなどはまさに映画のワンシーンです。

映画はまだ出来上がっていないようですが、出来上がったら観てみたいですね。この本にある空気感を感じることができるかもしれません。なお、この本ですが、オンデマンド印刷のようで、日本でも印刷されたものをすぐに手に入れられます。amazonで注文したらすぐに届きました。



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