柔術での怪我
格闘技をやる上で一番の心配事は怪我ではないでしょうか?
普段の練習での怪我を調べる
今回紹介するのは、普段の練習で過去1年間に怪我をどれくらいするか調べた結果です(注1)。McDonaldたちは、アメリカにある168の道場に電子メールで質問を送り、道場に所属する選手に回答をしてもらいました(McDonald et al., 2017)。
回答者は140人、平均年齢30.3歳でおよそ9割が男性です。白帯(60人)と青帯(45人)の人達が75%で、週に3.5回くらい練習する、およそ平均的な愛好家の人たちが対象でした。
怪我の割合
過去1年間において怪我をしたと回答したひとの割合は85.7%でした。このおよそ9割という結果はカナダで行われた調査でも報告されています(Petrisor et al., 2019)。やはり、柔術をやる限り怪我は避けられないと考えた方が良いでしょう。
ただし、大半が大怪我というわけではありませんでした。この調査では怪我を(1)病院で治療するレベルと(2)自分で治療するレベルに分けて報告してもらいました。自己治療の場合は少なくとも1週間練習を休むレベルを怪我と定義しました。
この基準で分けた結果を上の図に示しました。およそ6割が、自己治療、つまり病院に行かない程度の怪我でした。病院に行く怪我が184件で、行かない程度の怪我303件でした。自己治療、つまり、病院に行かない程度の怪我がおよそ1.6倍で、かなり多いことがわかります。
どこの怪我をしやすいか?
全体として多いのは、手や指(70件、14.4%)と足とつま先(foot and toes, 52件、10.7%)でした。体の末端部分を怪我しやすい競技であると解釈できます。指を守るためにテーピングをするひとも多いですね。
なお、病院に行くレベルの怪我ですと、皮膚感染症(38件、20.65%)と膝(26件、14%)が上位でした。皮膚感染症には抗生物質が劇的に効くことが病院に行く理由でしょう。外傷だと保存療法と経過観察でお終い、せいぜい湿布、塗り薬、痛み止めをもらう程度が多いです。これが続くとわざわざ病院になんか行かなくなってしまいがちです。
おじさんの場合
40歳以上のおじさんの場合、全員が1年間のうちで怪我をしたと回答しました。100%です。また、もっとも多い怪我が多い部位は首でした(6件、50%)。40代を超えると、何もしなくても首に不調が出がちなので気をつけなくてはいけませんね。
怪我は避けられないけれど…
柔術をやっていると1年間でほとんどの人が怪我を経験するというデータを紹介しました。アメリカのデータですが、日本でもこんなものかなと思います。
これを聞いて経験のない人は怖く感じるかもしれません。ただし、初心者や体験の方が、初回で怪我をすることはほぼありません。また、ここで再確認をしておきたいのは、大半の怪我は重篤なものではありません。もっとも痛みや不自由は伴いますから、怪我のリスクを考慮しなくてはなりません。
ブラジリアン柔術は安全だという宣伝をよく見ますし、私もそう思います。でも、あくまでも比較の話です。競技をしている以上、怪我を完全に避けることはできません。私もこれまで怪我をして2回病院にお世話になりました。
なぜ怪我をしてまでやるのか?私の場合は楽しいからです。怪我のリスクを上回る圧倒的な楽しさがあるのです。もちろん、怪我はしたくありませんし、できるだけ怪我をしないように気をつけています。実際、仕事に支障が出るレベルの怪我は本当に稀です。みんな気をつけていますから、ひどい怪我は滅多にしません。柔術を続けている人は、怪我をしない、させないを必ず意識していると思います。
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(注1)1人が複数の怪我を報告する場合があります。
引用文献
・McDonald, A. R., Murdock, F. A., McDonald, J. A., & Wolf, C. J. (2017). Prevalence of injuries during Brazilian jiu-jitsu training. Sports, 5(2), 39.
・Petrisor, B. A., Del Fabbro, G., Madden, K., Khan, M., Joslin, J., & Bhandari, M. (2019). Injury in Brazilian Jiu-Jitsu Training. Sports health, 11(5), 432-439.
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