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習いごととしての格闘技:優しくなる?乱暴になる?

格闘技は子供の習いごととして人気があります。読売新聞とNTTレゾナントが行った調査でもスポーツ系の習いごとしては、水泳(全体の26%)、体操・スポーツ教室(12%)についで、3位(9%)でした。これはサッカーと同じ順位です。また、新たに習わせてみたいこととしては、水泳(14%)に次いで2位(12%)でした。
https://research.nttcoms.com/database/data/000390/

多くの格闘技は全身運動ですから体力の向上にはもってこいです。他人と直接触れ合うので社交性も増します。また、他人と触れ合うことは礼儀作法や社会性を身につけることにもつながります。

習いごととしての格闘技に期待すること・心配なこと

習いごととしての格闘技に期待することには、(1)体力の向上、(2)礼儀作法、(3)護身などがあると思います。一方で、格闘技を学ぶと乱暴になってしまうのではないかという心配もよく聞きます。個々のケースとしては良い場合も、悪い場合もありますが、全体的な傾向としてはどうなっているのでしょうか。

全体的にはポジティブ!

Vertonghen とTheeboomは、格闘技が与える心理的な影響を調べた380編の論文を精査しました(Vertonghen & Theeboom, 2010)。そして、実証的な検討を行っている27の論文に焦点を絞り、攻撃性、不安などのネガティブな感情、また、自信、社交性、自尊感情などのポジティブな感情に格闘技がどのような影響を与えているかを調べました。その結果、ほとんどの研究が概ねポジティブな結果を示していることがわかりました。つまり、格闘技を習うと、攻撃性や不安は減り、自信、社交性、自尊感情が増えることが示されました。

なお、格闘技と他の競技への参加を無作為で操作した研究でも、格闘技を習うとポジティブな影響がありました(e.g., Zivin et al., 2001)。これは重要な結果です。なぜなら元々持っていた傾向や資質、素質、あるいは継続できたかどうかなどではなく、格闘技を習うことそのものがポジティブな影響を与えることを強く示すからです。

乱暴になることも…

ただし、格闘技を習うことで乱暴になることを示す研究もあります(Endresen & Olweus, 2005)。この研究は20万人の住民を対象とした研究の一環として行われました。EndresenとOlweusは、レスリング、ボクシング、空手、柔道など格闘技を始めた小学生(高学年、11–13歳)を対象に、2年間続けた結果、暴力性がどのように変化するかを調べました。喧嘩をしたか、他人を傷つけたか、物を盗んだかなどを尋ね暴力性と反社会性を得点化したところ、格闘技を習った子供の暴力性は2年間で増加していました。一方、習っていない子供の暴力性は変化しませんでした。Endresen, とOlweusは、格闘技を学ぶことで「マッチョな文化」に触れ、そこでのルールや規範を学んでしまうため、攻撃性や暴力性が増加すると解釈しました。質問項目から考えると喧嘩や他人を傷つけることが増えたと解釈ができます。

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Endresen とOlweusが報告した、暴力性の変化を上の図に示しました。確かに、格闘技を習ったグループで2年後の暴力性が増しています。ただし、開始時の時点で、格闘技を習ったグループは、習っていないグループよりも、暴力性が高いのです。つまり、Endresen とOlweusの結果は、元々、暴力性が高い子供達が格闘技に触れた場合の結果を示していると考えられます。また、彼らの研究には質問項目の適切性についても疑問視されていることも付け加えておきましょう(Vertonghen & Theeboom, 2010)。

気をつけること

「朱に交われば赤くなる」ということわざがあるように、ひとは周りの影響を受けます。成長途中の子供たちではその影響は大きいかもしれません。Endresen とOlweusが示したように格闘技を習うとネガティブな影響がでる子供たちもいるようです。また、彼らが指摘したように格闘技に「マッチョな文化」が皆無とは言えません。小学生に対しても、信じられないような酷い言葉や体罰で指導をする例も残念ながらあります。公共の体育館で練習するとそういう例を目にすることが私もあります。とは言え、これは格闘技に限った話ではありません。野球、バスケ、バレーボール等でも同様の問題があります。

格闘技を習うことそのものには、全体として、ポジティブな効果があります。これは、Vertonghen とTheeboomによる網羅的な研究や、Zivinの統制された研究結果が示しています。一方で、「マッチョな文化」の影響も考慮しなくてはいけません。家庭の方針やお子さんの特性にあった指導者がいるところで学ぶことをお勧めします。他人の評判ではなく、自分の目と感覚を信じると良いと思います。また、お子さんの意志を尊重するのも大切です。教育方針は、びっくりするほど家庭によって違いますし、あたり前ですが、子供はみんなそれぞれ違いますので。

引用文献

・Endresen, I. M., & Olweus, D. (2005). Participation in power sports and antisocial involvement in preadolescent and adolescent boys. Journal of child Psychology and Psychiatry, 46(5), 468–478.
・Vertonghen, J., & Theeboom, M. (2010). The social-psychological outcomes of martial arts practise among youth: A review. Journal of Sports Science & Medicine, 9(4), 528–537.
・Zivin, G., Hassan, N., DePaula, G., Monti, D., Harlan, C., Hossain, K., et al. (2001) An effective approach to violence prevention: Traditional martial arts in middle school. Adolescence 36, 443–459.

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