柔術ってどんな競技?:テコンドー、柔道、レスリングと目的+時間運びから比較する
ブラジリアン柔術がどんな競技か、競技の目的と試合の時間運びに着目し、他の格闘技との比較を交え解説したいと思います。
タップを取る競技(競技の目的)
ブラジリアン柔術は、関節技や絞め技で相手からタップ(ギブアップ)を取ることを目指す競技です。投げたりポジションを取ったりするとポイントが入り、それも勝敗に関わります。ただし、このポイントもタップを取ることに結び付けられ、タップに焦点を絞ってルールが組み立てられています。
タップに焦点を絞っていることは、試合や試合形式の練習が基本的に途切れることなく続くことからも良くわかります。タップを取るのが目標なので、それが取れるまで攻防を止めないのです。
静と動の比:EP比(effort-to-pause ratio)
どれくらい途切れないのかは、他の競技と比べると良くわかります。試合における動と静の比率をEP比(effort-to-pause ratio)と呼びます(注1)。これは試合において、試合が進行して時計が進んでいる状態と(動 or effort)と中断している状態(静 or pause)がどれくらいの比率になっているかを示す指標です。
テコンドー、柔道・レスリング、ブラジリアン柔術のEP比を上の図に示しました。競技によってかなり違いがあるのがわかります(中断時間を分かりやすさのためマイナスで表記しましたが、正と負の値は単純に計算できるものではありません)。
テコンドーのEP比は1:8です(Del Vecchio et al., 2016 )。テコンドーでは試合中、1回の攻防は平均しておよそ25秒続きます。別の言い方をすると、25秒に1回は試合が途切れます。頻繁に試合が途切れるので、動いている時間の8倍も試合が止まっていることになります。
柔道やレスリングですと、この比が逆転します。どちらもおよそEP比は2:1、つまり、動いている時間の半分、試合が中断していることになります(柔道の分析:Castarlenas et al., 1997; レスリングの分析:Nilsson et al., 2002)。
ブラジリアン柔術でのEP比は突出しています。なんと6:1です(Andreato et al., 2013)。これは試合がほとんど途切れないことを意味します。とにかく中断なく続く。これがブラジリアン柔術の特徴です。テコンドーの1:8、良く似た組み技系格闘技である柔道やレスリングの2:1のEP比と比べても、ブラジリアン柔術の6:1は突出しています。
なぜ、このような突出したEP比になるのでしょうか?なぜなら、ブラジリン柔術はタップを取ることを目指す競技だからです。すべてはタップを取る過程であるため、その過程を中断すると競技の目的が消失してしまうのです。ブラジリアン柔術の途切れないという特徴は、競技の性質、目的に深く関わっています。
でも、タップしたら離すよ
タップを目指す競技とは、相手にギブアップをさせる競技ということです。そう聞くと少し怖く感じるかもしれません。しかし、格闘技とは言えスポーツです。ブラジリアン柔術では安全性に万全の配慮をしています。タップを目指すということは、タップを取ったらそれ以上はしないことを意味します。ですから、タップをしたら確実にそして即座に技を解きます。ブラジリアン柔術でこれはほんとうに徹底しています。ですから、(対人競技なので全くとは言いませんが)怪我をすること、危険なことはあまりありません。
引用文献
・Andreato, L. V., Franchini, E., De Moraes, S. M., Pastório, J. J., Da Silva, D. F., Esteves, J. V., & Branco, B. H. (2013). Physiological and technical-tactical analysis in Brazilian jiu-jitsu competition. Asian journal of sports medicine, 4(2), 137–143.
・Castarlenas, J. L., & Planas i Anzano, A. (1997). Estudi de l'estructura temporal del combat de judo. Apunts. Educació Física i Esports, 1997, vol. 47, p. 32–39.
・Del Vecchio, F. B., Antunez, B., & Bartel, C. (2016). Time-motion analysis and effort-pause relationship in taekwondo combats: a comparison of competitive levels. Revista Brasileira de Cineantropometria & Desempenho Humano, 18(6), 648-657.
・Nilsson, J., Csergö, S., Gullstrand, L., Tveit, P., & Refsnes, P. E. (2002). Work-time profile, blood lactate concentration and rating of perceived exertion in the 1998 Greco-Roman wrestling World Championship. Journal of sports sciences, 20(11), 939–945.
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(注1)EP比を、活動が高い状態と低い状態の比として定義する研究もあります。今回のnoteでは、この定義を用いていません。このnoteで紹介したものは、すべて試合の進行している時間(E)と中断している時間(P)の比となります。
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