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【石井聰亙処女作】『高校大パニック』+『1/880000の孤独』【セル版DVD】

レンタル落ちではありません。石井聰亙監督の処女作「高校大パニック」(1976)のセル版DVD。2作目の「88万分の1の孤独」(1977)と同時収録。いずれも今やほぼ絶滅した8ミリフィルムによる撮影で、70年代から80年代に自主映画を作っていた人間には非常に懐かしい質感の映画です。

石井聰亙監督は1976年に日大芸術学部に入学し、直後に自主映画サークル狂映舎を設立しました。第一弾作品が上映時間15分の8ミリ短編「高校大パニック」です。

作品時間が短いため、プロットは単純。ある日突然、猟銃を持った高校生が自分の高校に押し入ります。クラスメートを人質にとって教室に立て篭もり、警官隊と対峙する。その間、数学教師と警官2名を射殺しますが、最後は警官隊に取り押さえられてエンド。

彼がなぜこんな凶行に及んだのかの説明はほとんどありません。唯一、彼が来年大学受験を控えていることがチラリと匂わされ、またカットバックによる回想で「数学できない奴はこの高校に来るな。私立にでも行ってしまえ」と教師から詰られるほんの短いカットがあるだけです。

8ミリフィルムですから画質は荒く、技術的に美しい映画だとは言えませんが、作品全体から立ち上る暴力性はリアルで、衝動的な「怒りの発作」が最初から最後まで貫いた作品が、自主上映会を通じて話題となりました。

アマチュアの自主映画に理解があり、たびたび自分が経営する映画館で特集上映を行っていた上板東映の小林紘支配人(故人)がこの映画を上映したことで、映画業界人とマスコミの注目を集め、ついに老舗の映画会社である日活で商業映画としてリメイクされることに。

長編映画にするため、落第生で受験生の鬱屈が前段で描かれ、商業映画のセオリーで制作されましたが、石井聰亙は「共同監督」としてクレジットされているものの、現場では完全に素人扱いで、ほぼもう一人の監督であるベテランの澤田幸弘が全体を統率して完成したようです。原作を提供するかわりに自分に監督させろ、と条件を出したのは石井聰亙のようですが、日活としては話題作りとして素人同然だった石井聰亙を監督にしたものの、澤田幸弘に現場の指揮を任せるつもりだったようです。

このため、日活版「高校大パニック」を石井は自分の作品としては認めておらず、自分のDVD -BOXにも収録していません。

「88万分の1の孤独」は石井聰亙の自主映画2作目で、東京のアパートに下宿しながら予備校に通う内気な受験生の孤独な日常を描く45分の短編。最初の30分を予備校生の孤独な生活の描写に費やしており、見ているこちらまで鬱になりますが、最後の最後で主人公の怒りが爆発します。

その意味では「高校大パニック」の姉妹編と呼ぶべき作品で、前作で綺麗にカットした場面だけ(暴力に至る理由)で構成した作品だと言えそうです。その意味ではこの2作は同じDVDとして発売されるにふさわしく、通してみると、近年話題になった「ジョーカー」と同じ構造だと思いました。

石井聰亙は70年代の中盤から作家活動を始めましたが、もし彼が60年代から自主映画を作りはじめていれば、間違いなく左翼学生による暴力革命の映画を作っていたように思います。しかし、70年代には左翼思想は後退していて、鬱屈した若者は「思想なき暴力」に走るしかありませんでした。

思想なきアナーキーな暴力衝動は、音楽シーンにおいてはパンク・ロックの台頭とシンクロしています。石井聰亙が「高校大パニック」を撮った1976年は、イギリスのパンク・ロックグループ、セックス・ピストルズのデビューした年でもあります。つまり、世界中のクリエイターに似たような動きが始まっていたのです。

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