とっとりへのいざない
数カ月間、地方への移住計画を実現すべく情報収集に明け暮れていたが、その後、身辺で起こったことにより移住計画は保留(あるいは断念)することとなったことは、先に記したとおりだ、
だが、それまでの間に出会ったいくつかのことについて、やはり記録に残しておきたい。
それは、自分にとってあまりに新鮮で、あまりに魅惑的な体験であった。
私はきっと生涯、このときの体験を忘れることはないだろう。
2021年から2022年に変わる年末年始の休暇中、ふるさと回帰支援センターから届いた数々のDMを隅から隅まで読むことに時間を費やした。
どうしても、新しい可能性を見つけたくて仕方がなかった。
DMを見ては、その県で地域おこし協力隊の募集がないか、市区町村のサイトで確認したりもした。
あるいは就農支援があるかどうかも確認した。
しかし、芳しい成果は上がらなかった。
そんななか、ふるさと回帰支援センターからのDMのなかに、鳥取県への移住相談ができる「BIG相談会」なるものが開催される、というチラシを発見した。
島根県への相談は、以前、ふるさと回帰支援センターを訪れて行なっていたし、川本町のオンラインツアーに参加したこともある。
そのお隣の県、鳥取県でもこういう大規模な相談会が開催されているのだと知り、私は飛びついた。
島根県は、他の都道府県からの移住者への支援が手厚く、また移住者も多い。鳥取県でも同様なことがあるかもしれない。
私は、「BIG相談会」に申込手続きをし、案内に従って事前登録も済ませた。事前登録には、自己紹介を記載する欄があり、個人情報につながるものは記載できないが、希望する事柄を入力しておくと、各自治体担当者が興味を持ってくれたり、個別相談に招待してくれたりするという。
これまでの経験上、「就農」「花農家」など絞り込んで希望を言うことが凶と出ることを学んできていた私は、自己紹介には「就農をもともと希望していたが(特に花に興味があるが)、まずはその地域に貢献するような働きができるようになったら、将来的に考えたい。」といった主旨の内容を書き込んだ。
また、各市町のページなども読み込むとともに、Google Mapで位置関係や地理などを頭に入れたうえで、興味のある市町として「三朝町」「米子市」の名を挙げておいた。
実はその「BIG相談会」には就職セミナーも含まれており、その中で三朝町のとある温泉旅館担当者が登壇すると記載があり、しかもその担当者とは個別相談もできるとのことだったので、より実際的に移住検討ができるかもしれないと考えたのだ。
また、鳥取県の仕事探しサイトも見てみると、その温泉旅館では通販サイト運営者を募集していることがわかった。
通販サイトの運営や改善ならば、これまでの仕事経験上、自分が非常に得意な分野であるし、そこで仕事をしながら花を育てることだってできるかもしれない。
この考えは、非常に現実的であるように感じた。
さらに米子市においては、とある青果店がDX担当者の募集をしていることもわかったため、興味ある市町として名を挙げておき、情報の収集をすることにした。
そして「BIG相談会」の移住セミナー、就職セミナーへの申込みとともに、三朝町の温泉旅館担当者、米子市の移住相談担当者へ個別相談会の申込みをして、当日を楽しみにすることにした。
するとその翌日頃から、思わぬ反応があった。
それは、温泉旅館担当者や米子市担当者からの個別相談承諾の連絡とは別に、他の市町の担当者の方々からも、次々と個別相談しませんかと案内が届くようになったのだ。
これに私の心は沸き立った。言いようのない幸福感だった。
安易だと思われるかもしれないが、これまで会社で散々な目にあい、そこにいたかとも言われず足蹴にされるような日々を送っていた私にとって、人から興味を持たれ声をかけてもらえるというのは、「求められている」に等しい感覚だったのだ。
私はそれらの案内に次々と返事を出していき、そして私のとある日曜の午後は、昼から夜までほとんどの時間が、「BIG相談会」の予定で埋まった。
かろうじてトイレに行く時間だけは確保できそうだったが、平日の会社での打ち合わせ・会議などの時間よりもさらに過密なスケジュールと言っていい。
しかし、それでも私は幸福だった。
こんなにいろんな人たちと話ができるのだから、きっと有益な情報もたくさん得られるだろうし、そのなかには私の希望と先方の希望とが合致する場合だってあるかもしれない。
それはとても魅力的な、とっとりへのいざないとなった。
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