手付かずの自然と、資本主義の足音〜アメリカ、ハワイ島〜
鳥はどのように目覚めるのだろうか。
2年前の夏休み、私はハワイ島のリゾートホテルにいた。そして、まず好奇心をそそられたのが、バルコニーの向かいの繁みを根城とする小鳥たちの生態だった。
朝は鳥の声で目が覚める。日本のような「チュン、チュン」と言った生やさしいものではなく、大群が「鬨の声」を上げている。そこで、私はその鬨の声の「スタートのしかた」に興味を持ったのである。
私の予想では、その日の「日直」のような役割の鳥がいて、最初に「キュー出し」の声を上げる。そしてそれに呼応して何匹かの鳥が鳴き始め、だんだんと群れ全体に波及する、というものであった。
全く違った。
夜明け前のある時点で、鳥たちは一斉に鬨の声をあげ、一日のスタートを切るのである。なぜそのような一糸乱れぬオペレーションが可能なのかは、全くわからない。
自然とは、やはり神秘だ。
ハワイ島は、オアフとは随分趣きが異なる。
都市として観光客に必要なものが至れり尽くせりで揃っているオアフと違い、ハワイ島は溶岩ベースの大地、広大な平原、高い山々がまず存在し、海岸沿いに点々と、開発されたホテルリゾートがある、という風景が真っ直ぐな道沿いに延々と連なる。海底も溶岩なので、マリンスポーツも適さない。なので、ここに来る目的は、ホテルでゆっくりすること、ゴルフ、天体観測始め、太古の地球が残された姿を感じること、といった寸法になる。
島内の観光スポットを巡るオプショナルツアーをガイドしてくれたのは、オアフ島から夫婦で移住してきたという日本人女性であった。話しを聞くところによると、どうやらハワイ島育ちの男性と結婚したらしい。
現地の人たちの中でもオアフとハワイはずいぶん違うようだ。オアフは彼らにとっては都市化され過ぎてしまって、かつての自然の面影がない。だからハワイ島に移住してきた。しかし、ご主人が生まれ育った界隈は今、某大手資本のリゾートホテルが開発中、その変わりゆく姿にご主人は思わず涙していた。
大規模ショッピングセンターの開発計画も進行中だという。太古の記憶を残す手付かずの自然を、資本主義が覆いつつある。
彼女の話からは、ハワイの光と影が垣間見える。
ハワイ島にはゴミ処理場がないため、アメリカ本土で処理してもらう必要がある。するとゴミの引き取りの引き換えに、本土からホームレスが送られてくる。彼らを受け入れるオアフ島の治安は悪化しつつある。
「楽園」を支えているのは、搾取の構造なのだ。
旅行産業を盛り上げるとは、現地の自然、歴史、日々の暮らしに「手を入れる」ということでもある。
今、私たちは旅ができない状況にいる。
この騒ぎを乗り越えた先にある旅の形に想いを馳せる機会なのかもしれない。