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終わりなき旅〜早瀬耕『未必のマクベス』

「休暇は、終わってしまいましたね」
「永遠に続く休暇はないから、しょうがないよ」ぼくは、蓮花からパスポートを受け取って、チェックイン・カウンターに見知らぬ男のパスポートと並べて置く。それが、帰る場所を失う旅の始まりであっても後悔はしないと、地上係員のチェックイン手続きの間、何度も自分に言い聞かせた。きっと、四年前の澳門国際空港で、鍋島も、ぼくと同じ気持ちになったことだろう。ぼくは、どこかにいる鍋島冬香を捜し出さなくてはならない。

物語の幕開け

IT企業のごく平凡なサラリーマン・優一が、海外出張から帰国する途上、澳門の娼婦からある予言めいた言葉を告げられたことをきっかけに、やがて巨大な陰謀に巻き込まれていく。

異国情緒、組織犯罪、消えた初恋の人。

これらが全編を通して濃厚に絡み合っていると聞いて胸が高鳴る読書家は多いことだろう。

私も知り合いから勧められたこの本のあらすじに興味を惹かれ、(分厚いページ数に怯んでしばらく寝かせてたけれど)手に取った読者の一人だ。

冒頭、慣れるほどこなした海外出張や澳門のカジノ、なんてちょっと自分の生活とは馴染みがないなぁ…なんて思っていた矢先、例の予言が繰り出される。

「あなたは、王になって、
                          旅に出なくてはならない」


そして仕事の相棒・伴との出会いの高校時代や、今も忘れられない初恋の人・鍋島冬香との淡い交流、現在の恋人との馴れ初めに至るまで、中井優一の半生が振り返られてゆく。

組織犯罪…?え、重たくない?

とはいえさすが厚さ数センチの文庫本、副社長の陰謀で海外勤務に飛ばされただのなんだの、ちょっと重たいかも…?ていうかオフィスで鍋島冬香からのある方法のメッセージを見つけるなんて、鍋島冬香は先の見通しがやばすぎやしないか?!

なんて、「あと少しでどハマりしそうなのにハマりきらない」と思いながら半分まで読み進んだけど、その時点で大分ハマってはいる。

命の心配をせずに盗聴器のないオフィスで仕事ができるなんて幸せな環境だなぁ…

なんてやばい思考がうっすら刷り込まれていたもの。笑  でも私じゃなくても読み終わって本の世界から抜けたら思うから!たぶん!


主人公が飄々としすぎ!(あとモテる)

ふーん、分厚さの割にしんどくはないかなぁ。
などと余裕をかましながらすいすい読み進められたのは、主人公・優一の掴み所のない雰囲気のせいかもしれない。

恋人の由記子、同期の高木が心配して焦るのとは裏腹に、本人はどこ吹く風、というかもはや他人事なの??(曰く、この感覚こそが「優一が王である証」らしいのだが)

それでも初めは能天気な雰囲気だった「飄々」も、次第に奥底の知れない「飄々」に変わっていくのがまた何とも言えない。

ちなみに優一はマクベスとなっていく中で、鍋島冬香や由記子以外にも複数の女性と出会う。皆が皆優一にメロメロ、なんて感じではないのだが、まぁーなんというか、そんなに応援したくなる男なのかしら?笑

ちなみに個人的には蓮花は結構好き。森川はまぁー、次点かな。由記子は優一を口説くときからして図々しくて付き合ったら口煩いしで最後まで好きになれなかった…男の好きな女の人像ってなんで時々ああいうキャラ出てくるんだろ……


とにかく余韻が残る

読み終わって思ったことは、「とにかく余韻が残る」。それこそ各所で言われていたようだけど、一本の映画を観終わったようで。絶対そのうち映画化されると思うんだよなぁ、これ!

伴は何を思って優一といたんだろう、とか、高木はこの後どうなるんだろう、とか。残された鍋島冬香や蓮花やソフィ達のことなんかも…。

ただまぁ、一つ言えることは、読み終わったら絶対みんな中華食べに行くよ

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ほらね。飲茶行ってきたよ(めちゃうまかった)。

そんなわけで『未必のマクベス』、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょう。タイトルも表紙もかっこいいしね。読み応えのある一冊でした。


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