見出し画像

定規vs.コンパス 仁義なき口ゲンカ

定規(以下『定』):だからあ,俺の方が優秀だって言ってるじゃん。
コンパス(以下『コ』):いやいや,あなたってできること少ないでしょ。
定:何言ってんだよ,作図の主役はこの俺様定規だぜ。すっと置いて,さっと引く。気持ちよい直線が何本も引ける。理論上は無限の長さの直線が引けるんだぜ。
コ:私だって,プスっと刺して,さっと回す。気持ちよい円がいくつもかけるわよ。理論上は無限に大きい円もかけるし,何より私は作図のときに『長さを測りとる』ことだってできるのよ。

定:じゃあ,俺は俺だけで,君は君だけで何ができるか勝負しよう。
コ:分かったわ。勝負ね。
定:では問題。下の正方形ABCDの,辺ABの中点をコンパスだけでとってみろよ。


コ:そんなの簡単よ。文房具第三中学校で習ったわ。まず,点Aを中心とする円をかいて,次にさっきと同じ半径で点Bを中心とする円をかいて,その交点どうしを・・・。
定:交点どうしを?
コ:交点どうしを・・・
定:交点どうしをどうするんだい?
コ:で,できない。定規の助けがほしい。
定:ほーら。コンパスだけじゃできないじゃん。俺様の能力が必要じゃん。まあ,自慢じゃないけど,この中点をとる問題は俺だけでできるけどな。
コ:な,なんですって。私なしでできるの?!
定:まあ,下の図を見てみろよ。
 ①辺BCを上の方に適当に伸ばして点Eをとり,
 ②線分AEを引いて,
 ③さらに線分ACと線分BFも引いて,
 ④ACとBFの交点Gと,点Eを通る直線を引くと,
 ⑤辺ABとの交点Mは辺ABの中点      
になるんだぜ。

コ:ま,まさか。でもなんで点Mが辺ABの中点だって言えるわけ?
定:はっはっはっ。これは高校で習う『チェバの定理』を使えば証明できるんだ。すごいだろ。
コ:むむむ。なかなかやるわね。でも今のやつって,正方形とか長方形が最初からかいてあったからできるわけだよね。もし線分ABだけしか与えられなかったら,定規だけでは中点をとるのは無理なんじゃないの?

定:ううっ,それは無理。俺って、この体によくかかれている目盛りは作図のときには使ってはいけないルールだし・・・。やっぱり、コンパスの助けがほしい。
コ:おーっほっほっほっ。だからあなたはダメなのよ。さっきは黙ってわざとできないふりをしたけれど,本当はコンパスだけで線分の中点はとれるのよ。
定:な,何?,嘘だろ。そんなの文房具第三中学校では習ってない。
コ:下の図を見なさいよ。
① 点Aを中心として点Bを通る円をかき
② 点Bを中心として点Aを通る円をかく(①②の交点をCとする)
③④ ②の円をかくときに用いたコンパスの半径を変えずに,図のように円②を切っていく。2回切ったときの交点Dは,Bに関してAと対称な点よ。
⑤ Dを中心としてAを通る円をかく(①⑤の交点をPとする)
⑥ Pを中心としてAを通る円をかき,線分ABとの交点★がABの中点よ。


定:すごい。これで本当にABの中点になっているのかどうかの検証は読者に任せるとして,これだと定規がなくても中点がとれてしまう
コ:そうよ。実は,定規とコンパスで作図してできる点は,コンパスだけでも作図できることが分かっているのよ。つまり,あなたは私の下位互換。私の勝ちね。
定:か,下位互換。俺って,俺って・・・(涙)
コ:泣くんじゃないわよ。あなたには目盛りが使えないというハンデもあるしね。ちなみにさっきの中点の問題は,中点をとるのにコンパスを6回も使っちゃうのよね。定規を使えたら,コンパス2回+定規1回のたった3回で作図できる。やっぱりあなたがいてくれた方がありがたいわ。あなたって,性格もまっすぐでステキだし。これからも仲良くしてあげる。
定:ありがとう,コンパスさん。俺たちずっと一緒だよね。
                           <おわり>



【筆者注】
・コンパスさんの方法で,線分ABの中点がとれる理由
簡単にするために円①の中心を原点,半径を1とすると,その方程式は$${x^2+y^2=1}$$となります。
点Dの座標は$${(2,0)}$$となるので,円⑤の方程式は$${(x-2)^2+y^2=4}$$となり,これらの方程式を連立させると,その交点の1つであるPの座標は$${(\frac{1}{4}, \frac{\sqrt{15}}{4})}$$となります。
したがって,円⑥の方程式は$${(x-\frac{1}{4})^2+(y-\frac{\sqrt{15}}{4})^2=1}$$となり,この式に$${y=0}$$を代入して解くと,線分ABの中点の座標$${(\frac{1}{2},0)}$$が得られます。

・文中のコンパスさんの発言「定規とコンパスで作図してできる点は,コンパスだけでも作図できることが分かっている」というのは,モール・マスケローニの定理のことです。興味がある人は調べてみてくださいね。

 




いいなと思ったら応援しよう!